閑話: 亡霊①
静寂。
迷宮の決まった場所には存在せず。
それでいて確かに存在する空間。
亡霊は椅子へ深く腰掛けていた。
目覚めてからは腕輪を通してリオを眺めるのが最大の楽しみだ。
今日も腕輪を通してリオを眺める。
それが最近の日課だ。
「さて」
亡霊は視線を向ける。
光の幕が揺れる。
映し出されたのは赤狼亭。
そして。
「近い近い近い! 離れて! お願いだから!」
「なんでー!?」
「憧れてたんでしょ!?」
「だからだよ!!」
亡霊は吹き出した。
「ははははは!」
久しぶりに本気で笑った気がする。
リオは顔を真っ赤にして逃げ回り。
ミアは顔を真っ赤にして追い掛けている。
実に面白い。
「順調じゃないか」
亡霊は満足そうに呟いた。
最初に見た頃とは大違いだった。
女になったことを認めず。
元に戻ることばかり考え。
周囲を警戒していた。
それが今では。
仲間と笑い。
仲間にからかわれ。
仲間として受け入れられている。
蒼天の軌跡。
なかなか良い連中だ。
亡霊は小さく目を細めた。
「羨ましいな」
自然とそんな言葉が零れる。
遠い昔。
自分は異世界転生者だった。
魔法の存在する世界への転生。
初めて知った時は歓喜した。
ようやく叶うと思ったのだ。
前世から抱き続けていた夢が。
女になりたい。
その願いが。
亡霊は笑う。
今なら笑い話だ。
だが当時は本気だった。
遺跡を巡った。
古代の知識を集めた。
研究もした。
長い時間を費やした。
そして。
ついに完成した。
女になるための術とそれを確固たるものにする機構。
亡霊はゆっくり目を閉じる。
だが。
私には適性がなかった。
何度調べても同じだった。
適性値はゼロ。
誰よりも望んでいた私は。
その術を使えなかった。
いくら作成した機構での補助を工夫しても。
「本当に絶望したものだ」
苦笑が漏れる。
今なら分かる。
あの時の私は少し視野が狭かった。
女になることばかり考えていた。
だが。
本当に欲しかったのは。
女の身体ではなかったのかもしれない。
友人。
仲間。
笑い合える日々。
そういうものだったのかもしれない。
亡霊は再び光の幕を見る。
「私が気に入ってるのは今のリオだもん!」
酔ったミアが叫んでいる。
「言ってねえだろそんなこと!」
リオが必死に反論している。
レオルは笑っている。
ドルクは料理を食べている。
セレナは静かに酒を飲んでいる。
亡霊は苦笑した。
「なるほどな」
女になったから幸せなのではない。
女として生き。
友人を作り。
仲間を得て。
居場所を見つける。
その先にあるもの。
それこそが。
私が本当に見たかったものなのかもしれない。
未来を少し想像する。
そして苦笑した。
もう一度。
リオへ視線を向ける。
仲間達に囲まれ。
騒がしく。
慌ただしく。
だが楽しそうに笑っている。
亡霊は静かに呟いた。
「さて」
その声は誰にも届かない。
「次は何を見せてくれる?」
亡霊は小さく笑った。
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亡霊を描いた閑話です。
閑話なのでいつも通り朝の臨時投稿になります。夜にメインパートも投稿予定




