第26話 中層攻略祝い
探索を終えて。
蒼天の軌跡は、馴染みの居酒屋『赤狼亭』へ来ていた。
夕方の店内は探索者達で賑わっている。
「いらっしゃい!」
明るい声と共に駆け寄ってきたのは、看板娘のカティアナだった。
二十代前半ほどのウェイトレスで、探索者達の間でも人気が高い。
愛想が良く、気配りも上手い。
蒼天の軌跡とも顔なじみだった。
「リオちゃん!聞いたよ!」
「中層攻略おめでとう!」
突然言われてリオが固まる。
「え?」
カティアナが笑った。
「だって蒼天の軌跡にとっては今さらでしょ?」
「今日はリオちゃんのお祝いだよ!」
リオは思わず蒼天の軌跡の面々を見る。
レオルが肩を竦めた。
「まあ、そうだな」
ミアも頷く。
「リオ、かなり頑張ったもんねー」
ドルクも短く言った。
「よくやった」
少しだけ気恥ずかしくなる。
その時。
カティアナが興味津々といった顔で聞いた。
「どう?」
「リオちゃん、もう戦力になってる?」
ミアが即答する。
「なってるどころじゃないよ!」
「感知なんて私達より明らかに早いし!」
レオルも頷いた。
「実際かなり助かってるな」
ドルクも頷く。
リオは居心地悪そうに視線を逸らした。
「そこまでじゃ……」
「いやいやいや」
カティアナが笑う。
「蒼天の軌跡がそこまで言うなら本物でしょ」
そして。
「今日はリオちゃんも一緒なんだ!」
「最近ほんと仲良いよねー」
笑顔で席へ案内していく。
ミアも上機嫌でカティアナに語り掛ける。
「今日はみんな頑張ったしねー!」
「階層主討伐だよ!?」
「しかもリオも一緒に!」
そして。
ミアはいつものようにリオの肩へ腕を回そうとした。
その瞬間。
リオが反射的に大きく避けた。
風を切るような速度だった。
「ひゃっ!?」
すぐ横を通っていたカティアナが驚いて声を上げる。
手元が狂う。
ガシャァン!!
グラスが床へ落ちて砕け散った。
店内が静まり返る。
「あー……」
カティアナが苦笑しながらしゃがみ込む。
「だ、大丈夫?」
「ご、ごめん!」
リオが慌てて頭を下げる。
その横で。
レオルが眉をひそめた。
「ミア、ふざけすぎだ」
ドルクも珍しく口を開く。
「……そうだな」
ミアの顔色が変わる。
「っ……」
「私が悪いの……?」
本気で傷付いた顔だった。
「リオ!」
「なんでそんなによけるのよ!」
ミアの声が少し震えていた。
「そんなに私が嫌いなの……?」
店の空気が止まる。
リオは一瞬言葉に詰まった。
だが。
「違う!」
思わずリオが声を上げる。
「嫌いじゃない!」
「嫌いなわけがない!」
「逆だ!」
ミアが固まる。
「……逆?」
「逆ってどういうこと??」
ミアが小さく聞き返す。
リオは慌てたまま叫ぶように答えてしまう。
「……男だった頃、ミアに憧れてたんだよ!」
沈黙。
「……え?」
ミアが固まる。
レオルが吹き出した。
ドルクの肩も少し震えている。
「憧れ?」
「私に??」
リオは真っ赤なまま視線を逸らす。
「……っ」
「セレナさんじゃなく??」
「なっ……!」
リオの表情が抜け落ちた。
ちょうどその時。
飲み物を受け取って戻ってきたセレナが足を止めた。
リオの顔から血の気が引く。
「あ、いや、その……」
焦ったまま言葉が止まらない。
「セレナさんは、なんかもう明らかに手が届かなそうっていうか……」
「どっちかっていうと、女神みたいな……」
「崇拝する存在っていうか……」
沈黙。
レオルが腹を抱えて笑い始めた。
「お前、自分からどんどん危険地帯突っ込んでんな!」
「うるさい!!」
リオは真っ赤になって叫ぶ。
その後。
すっかり酔ったミアに、リオは根掘り葉掘り問い詰められる。
「ねぇねぇねぇ!!!」
「私に憧れてたってどういうこと!?」
「詳しく聞かせて!!!」
「やだ!!」
「なんで!?」
「恥ずかしいからだよ!!」
結局押し切られる形で、リオはぽつぽつ話し始める。
誰にでも優しかったこと。
明るかったこと。
クランで見かけるたびに目で追ってしまっていたこと。
手の届かない存在だと思っていたこと。
それを聞き終えた瞬間。
ミアはいきなりリオへ抱きついて叫んだ。
「きゃーーーーー!!!」
店内中の視線が集まる。
「むちゃくちゃ嬉しい!!!」
「リオ、私に憧れてくれてたんだ!!!」
顔を真っ赤にしたまま、舞い上がっていた。
「……なら、なんで避けるの??」
心底不思議そうに尋ねる。
リオは真っ赤なまま叫んだ。
「近い近い近い! 離れて! お願いだから!」
「憧れてた相手に気軽に触られて、落ち着いていられるか!!」
一瞬。
ミアが固まる。
それから。
「……?」
首を傾げた。
「でも今は女の子同士なんだから大丈夫でしょ?」
「っ!!!!」
リオは石のように動きを止めた。
店内でレオルが吹き出す。
ドルクの肩もまた震えていた。
セレナは静かにグラスを傾けながら、小さく口元を緩めている。
「私にも聞かせてください」
静かな声だった。
セレナがグラスを置く。
「私が“女神”というのは?」
リオが再び固まる。
レオルが吹き出した。
「おいおいおい」
「さらに追い打ちかよ……」
ドルクの肩もまた震えている。
リオは顔を覆った。
「……勘弁してください」
【お知らせ】明日は閑話ありの日。 朝07:10(閑話)と夜19:10(メインパート)の「1日2回更新」をお届けします!ぜひ朝の通勤・通学時間と、夜のゴールデンタイムにお楽しみください!
ちなみに、今回の話ですがミアが抱き着いた時、リオは避けようと思えば避けられました。
でも、最初のグラスが割れた事件があったこともあり、避けませんでした。
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