第110話 リオの目覚め
一行が古代遺跡のダンジョンから帰還した翌日。
蒼天の軌跡の面々はアレクシアを伴って、リオが入院する治療院を訪れていた。
アレクシアは、
「これだけ苦労したんだ。リオが目覚める時まで見せてもらわないとな!」
そういって治療院までついて来たのだ。リオが心配でいてもたってもいられなかったのだと妹であるセレナには気づかれていたのだが。
リオが眠る特別室に案内され、リオを取り囲むように全員が見守る中、ミアが祈るようにして、リオの右腕に腕輪をはめる。
全員が必死に戦い、手に入れた腕輪だ。
――しかし。
リオは目を閉じたまま、微動だにしない。ミアはそのまましばらく待ったが、何かが起きる様子もない。
「どういうことだ?」
アレクシアは訝しげにつぶやく。
「何か他にも条件があるのでしょうか?」
アレッタも不安を隠せない。そんな中、ミアが何かを思い出したように、小さく呟く。
「そういえば……亡霊は私の前にも仕方なく姿を現したって言ってたわ。緊急事態だから……って。私たちには姿を見せたくないのかもしれない」
「ありうるわね」
セレナも不安そうな表情で答える。
「皆、一度部屋を出ましょうか? リオは以前、亡霊はいつも腕輪を通して自分を見ているって言ってたわ」
そして、リオの左腕の腕輪に向かって呼び掛けた。
「亡霊……さんでいいのかしら?私たちは約束通り、ダンジョンから腕輪を取って来たわ。私たちは別室で待っているわ。リオを目覚めさせられるのなら、お願い。私たちにはリオが必要なの」
そう言って、全員を促して待合室に移動した。
◇
それから、しばらくして。部屋の灯りも消され、薄暗い無人の病室の中。リオの左腕の腕輪が光を放ち始め、亡霊が姿を現した。
「リオちゃん、愛されてるねぇ。嬉しいねぇ」
そう言いながら、宙に浮かんだ半透明の亡霊は、リオを見下ろす。
「ミアちゃんの勘が良くって助かるよ。あんなに人がいる中でリオちゃんを目覚めさせられるわけないじゃないか。恥ずかしい……」
冗談のようにそう呟きながら、亡霊はリオの右腕の腕輪を見る。
「うん。状態はよさそうだね。これならなんとかなる」
そう言うと、亡霊はその腕輪を操作し始めた。
「この腕輪が必要になるとは思わなかったけれど、作っておいてよかったなぁ」
新しくはめた腕輪は、いわばリオの魂の安定装置。今のリオの女性の身体と、リオの魂の接続が不安定になった場合に再度安定させるためのものだ。
「まさか、瀕死状態になることで接続が不安定になるなんてねぇ……可能性としては考えていたから、一応作っておいたんだけど、まさか必要になるとは思わなかった。備えあれば患いなしだよねぇ……」
しばらく小さく独り言をつぶやいた後。
「良し、動きそうだ」
その言葉と共に、腕輪も輝きを見せる。そして、その腕輪の輝きと連動するかのように。
「……ぅ…う」
リオがその目を開けた。
「……ここは?」
「確か、フレア・ストームを跳ね返されて……」
そう呟き、あたりを見回すリオの目に……亡霊の姿が映った。
「な……なんでお前がいる! というか、ここは一体どこだ?」
「いきなり、ご挨拶だねぇ……」
亡霊はいつもの調子で笑いながら続ける。
「ここは、ベルグランの治療院。瀕死だった君を、リオちゃんの仲間たちが連れてきてくれたんだよ。感謝してほしいねぇ。普通なら即死だったよ?今のその身体でなければね。
ただ、今のその身体でも衝撃が大きすぎたようでね。身体と心が不安定になりすぎて、リオちゃんは目覚めなかったんだ」
亡霊がじっと見つめると、リオも事の大きさに黙って続きを促した。
「……続けろ」
「今、リオちゃんが右腕に着けている腕輪。それがリオちゃんを再び安定させ、目覚めさせた。リオちゃんたちが古代遺跡と呼んでいるダンジョンの六十階層にある僕の研究室から、リオちゃんの仲間たちが取ってきてくれたんだよ。
リオちゃん、愛されてるねぇ。良かったねぇ。今はダンジョン化して階層主に守られてるはずだから、相当大変だったはずだよ。僕も詳しくはわからないけど」
「仲間は、ミア達は今どこにいる?」
リオは割り込むように言葉を発した。
「気が早いなぁ。心配しなくても、待合室にいるはずだよ。まぁそれはいいや。僕に感謝の言葉は?」
亡霊は微笑むとそんなことを言った。
「なんだと?」
「リオちゃんを目覚めさせてあげた僕にお礼の言葉もないのかい?ひどいなぁ……」
リオはしばらくじっと黙って亡霊を見つめた後。
「ありがとう。助かった。これでいいか?」
「いいよ~。僕も正直かなり無理して出てきてるからね。リオちゃんからお礼の言葉くらいもらわないと割に合わない。リオちゃんがいないと、戦いの様子もみられないしね」
そう言った後、亡霊は手を振って続けた。
「じゃ、またね~。あ、しばらくは無理しない方がいいよ? お父さんからの忠告」
「誰がお父さんだ!」
いつものように突っ込み、枕を投げつけるリオ。
だが、その表情にはいつもと違う笑みが浮かんでいた。
「あいつ……本当になんなんだ」
※挿絵はAIで製作したイメージ画です。




