第12話 訓練
協力方針が決まったあとも、部屋ではしばらく話が続いていた。
主に問題になったのは、リオの戦闘能力だった。
「いや、強いのは分かったんだよ」
レオルが頭を掻く。
「問題は、その強さの使い方が危なすぎる」
リオは少し眉をひそめた。
「危ない……ですか?」
「危ないです」
即答したのはセレナだった。
「あなた、自分がどれだけ無茶をしているか理解していますか?」
「いや……」
正直、よく分からない。
ただ身体が動く。
見える。
反応できる。
それだけだ。
ドルクが腕を組む。
「普通、身体強化を使ったまま中層であれだけ動けば、魔力切れを起こす」
「だが、お前は平然としていた」
「しかも制御訓練なしだ」
リオは少し視線を逸らした。
またその話だ。
最近、本当にそればかり言われる。
ミアが身を乗り出してくる。
「リオちゃん、ほんと危なっかしいんだよ!」
「無意識で全力疾走してる感じ!」
「例えが怖いんですけど……」
「実際怖いです」
セレナが真顔で頷いた。
リオは少し黙り込む。
そこまで言われると、逆に不安になってくる。
クラウスが呆れたようにため息をついた。
「いや俺から見ても意味分からんぞ」
「なんでそれで中層ソロやってたんだ」
「一人で動くしかないと思ってたからな……」
リオが疲れたように答える。
以前の自分には、選択肢なんてなかった。
強くない。
仲間もいない。
だから慎重に動くしかなかった。
その積み重ねが、今の戦い方になっている。
セレナが静かに口を開く。
「ですが、今後はそうもいきません」
「深層へ向かうなら、なおさらです」
「まずは基礎訓練が必要です」
リオは少し固まった。
「基礎訓練?」
「魔力制御です」
「身体強化の調整」
「魔力循環の安定化」
淡々と並べられていく。
リオは途中から理解を諦め始めていた。
「……そんなにあるんですか?」
レオルが苦笑する。
「むしろ今までよく感覚だけでやってたな」
ドルクも低く頷いた。
「事故を起こしていてもおかしくない」
ミアはなぜか楽しそうだった。
「大丈夫だって!」
「私達がちゃんと教えるから!」
「それがちょっと不安なんですけど……」
「ひどい!?」
クラウスが吹き出す。
「いや、それはちょっと分かる」
「クラウスまで!?」
部屋の空気が少し緩む。
だがセレナは真面目だった。
「実際、これは急いだ方がいいでしょう」
「今の状態は危険すぎます」
「……そんなにですか」
「はい」
即答だった。
リオは少し押し黙る。
そこまで断言されると、流石に軽視できない。
そもそも、自分でも分かっている。
女性に変えられてからの身体は、以前とは比べものにならないほどよく動く。
だからこそ、少し怖い。
セレナは静かに続けた。
「今日はもう遅いですから、訓練は明日から始めましょう。中層以降へ進む前に、最低限の制御は覚えてもらいます」
リオは少し困った顔になる。
「……本気ですか?」
「もちろんです」
「逃がさないよー?」
ミアが笑顔で言った。
リオは思わず視線を逸らす。
なんとなく、本当に逃げられない気がした。
その時、クラウスが立ち上がった。
「……まあ、流石に俺はここまでだな」
「これ以上は、俺が聞いていても仕方ないだろう」
レオルが笑う。
「いや、お前十分巻き込まれてるだろ」
「巻き込まれたくなかったんだよ本当は」
クラウスはため息をついた。
それから少しだけ真面目な顔でリオを見る。
「……無茶すんなよ」
リオは少しだけ目を逸らす。
「努力はする」
「努力じゃなくてちゃんとしろ」
即座に返される。
昔と変わらないやり取りだった。
それが少しだけ、リオには心地よかった。
クラウスは軽く手を振る。
「じゃあな」
そう言って部屋を出ようとする。
その背中へ。
「……クラウス」
クラウスが振り返った。
リオは少しだけ視線を逸らす。
「ありがとな」
短い言葉だった。
だが、クラウスは少し目を丸くしてから、苦笑する。
「今さらだろ。昔から世話ばかり焼かせやがって」
そう言って、今度こそ部屋を出て行った。
扉が閉まる。
部屋の中には、《蒼天の軌跡》とリオだけが残った。
ミアが笑顔で立ち上がった。
「じゃ、明日から特訓だね!」
リオは小さくため息をつく。
深層や隠し部屋、亡霊のことなど、考えることは山ほどある。
だがその前に。
どうやらまず、自分自身の力を理解するところから始めなければならないらしかった。
読んでいただきありがとうございます。
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とても嬉しかったので、お礼も兼ねて本日もう1話更新します。
これからもリオ達の冒険にお付き合いいただけると嬉しいです。




