第11章 協力
部屋の中は、しばらく静かだった。
リオが語った話は、常識から外れすぎていた。
深層の隠し部屋。
半透明の亡霊。
銀の腕輪。
そして、女へ変えられたこと。
普通なら冗談だと思われてもおかしくない話だった。
だが、《蒼天の軌跡》の面々は誰も笑わなかった。
ミアですら、今は真面目な顔をしている。
レオルが深く息を吐く。
「いや……流石に予想外すぎるな」
「深層で変な遺物拾った、とかならまだ分かるんだけど」
ドルクも低く唸る。
「古代遺物案件としても異常だ」
「身体変化まで起きてるのは聞いたことがない」
クラウスは頭を押さえていた。
「お前、本当によく生きてたな……」
「俺もそう思う」
リオは疲れたように答える。
左腕へ視線を落とす。
銀色の腕輪。
今は静かに沈黙している。
だが、そこに“いる”感覚だけは消えなかった。
セレナが静かに口を開く。
「その亡霊は、何か目的について話していましたか?」
「……いや」
リオは少し考える。
「ただ、“待ってた”とは言ってました」
「適性値がどうとか」
「あと、今の身体の方が高性能だとか……」
ミアが少し眉を寄せた。
「なんか嫌な言い方……」
「実際嫌な奴ですよ」
リオは即答した。
レオルが苦笑する。
「そこは即答なんだな」
「嫌ってほど思い知らされましたから」
部屋の空気が少しだけ緩む。
だがセレナは静かに考え込んでいた。
「……恐らく、その遺跡は普通の深層遺構ではありません」
「私達も深層探索は続けていますが、類似例を聞いたことがない」
リオは少し顔を上げた。
「深層探索って……」
レオルが肩を竦める。
「まあ、俺達の今の主戦場だな」
「最近は攻略がかなり停滞してるけど」
「行き詰まってるんですか?」
ミアが頬を膨らませた。
「迷宮の様子が変わってきてるんだよねー」
「前まで安全だった場所が急に危険になったり」
「深層魔物も強くなってるし」
ドルクが静かに続ける。
「今の戦力でも、安定攻略が難しくなってきた」
「だから、新しい突破口を探していた」
リオは少し眉をひそめる。
「突破口?」
セレナが頷いた。
「新しい戦力」
「あるいは特殊な適性を持つ探索者です」
そこでレオルが笑った。
「で、中層を時々回ってたら」
「妙に強いソロ探索者を見つけたってわけ」
ミアが笑顔で頷く。
「しかもすっごく可愛かった!」
「そこ重要なんですか……」
「重要!」
即答だった。
リオは頭を抱えた。
クラウスが呆れたように笑う。
「もう諦めろ」
「諦めたくない……です」
レオルが肩を揺らす。
「でも実際、リオの能力はかなり特殊だ」
「感知能力も異常だし、迷宮内での動きが妙に深層向きなんだよな」
ドルクも頷いた。
「普通の探索者とは感覚が違う」
「少なくとも、中層レベルじゃない」
リオは少し黙り込む。
以前の自分なら。
そんな風に言われることは絶対になかった。
D級。
浅層専門。
それが現実だった。
だが今は違う。
違ってしまった。
リオは小さく拳を握る。
「……俺は」
言葉を探す。
喉が少し詰まった。
「俺は、あの部屋をもう一回見つけるつもりです」
部屋が静かになる。
「迷宮全体を探すことになっても」
「絶対に探し出す」
クラウスが眉をひそめた。
「一人でやるつもりだったのか?」
「そのつもりでした」
「無茶だろ」
「分かってます」
リオは小さく笑う。
乾いた笑いだった。
「でも、他に手掛かりがないんです」
「元に戻れる可能性があるなら、探すしかない」
沈黙。
その空気を破ったのは、セレナだった。
「それは、私達も同じです」
リオが顔を上げる。
セレナは静かな声で続けた。
「私達も、いずれは迷宮全域の踏破を目指しています」
「深層以降も含めて」
レオルが苦笑する。
「まあ、今はそこが全然進んでないんだけどな」
ドルクが低く頷いた。
「未知領域の攻略には、新しい適性が必要だ」
ミアが笑顔でリオを見る。
「で、その候補がリオちゃんってわけ!」
「ちゃん付けやめろ……」
反射的に返してから、リオは少し黙る。
セレナが静かに続けた。
「あなたは隠し部屋を探したい」
「私達は迷宮を攻略したい」
「目的は一致しています」
「なら、協力する理由は十分あります」
リオは少し黙った。
利害一致。
その言葉は、妙に受け入れやすかった。
同情ではない。
必要だから協力する。
その方が、リオには気が楽だった。
「……なんでそこまで」
小さく漏れた声。
セレナは少しだけ目を細める。
「探索者ですから」
「未知を放置する理由はありません」
レオルが笑った。
「あと単純に面白そう」
「お前は黙ってろ」
ドルクが即座に突っ込む。
少しだけ、部屋の空気が緩んだ。
リオはそんな光景を見ながら、小さく息を吐く。
まだ、不安は消えない。
元に戻れる保証もない。
亡霊の正体も分からない。
だが。
一人ではなくなった。
その事実だけは、少しだけ胸を軽くしていた。
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