閑話 アレッタ
リオさんが倒れた。
思えば、リオさんと出会ってからは驚かされることばかりだった。
外見は華奢で可愛いお姉さんなのに中身は真面目な男性だという。
そして、氷と炎、二つの超級魔法を始めとする五属性の魔法を使いこなし、無尽蔵とも思える魔力を持っている。
王都のカイゼルさんに学んだという超一流の剣技も凄まじい。
さらには、まるで暗いダンジョン中を見渡すかのような並外れた感知能力がある。
どこから見ても、超人としか言いようがない。
そんなリオさんが、階層主に自分の強力な魔法を反射され、炎に焼かれて今も目覚めない。
僕も僕なりに錬金術士としての力でなんとか出来ないかとハイ・ボーションを始めとして様々な種類のボーションを作成してみた。
だけど、徒労に終わってしまった。
治癒院で最高の癒し手と評判の賢者カスパルに依ると、身体は既に完全に回復しており、なぜ目覚めないかが分からないという。
そうであれば、僕がいくらポーションを作っても役には立たないだろう。
「はぁ」
そして、今日何度目かのため息をついた。
そもそも、なぜあんなことになってしまったのか。
思い出すたびに後悔がつのる。
ノーブル・リザードマンが持っていた光り輝く盾。
あれはある種有名な魔法反射盾だった。
鑑定の専門家でもある僕が真っ先に気付くべきだった。
いや、気づかなければいけなかった。
今更ながらに何年か前にお師様に聞いた教えが頭をよぎる。
『良いか、アレッタ。ダンジョンで光り輝く装備、例えば光る盾、光る剣、光る鎧なんかを持っていたら、魔道士にはそいつには魔法を打たないように警告するんじゃぞ。わしの昔の仲間は強力な魔道士じゃったが、自分の魔法を跳ね返され、死んでしもうた』
そう教わっていたのに。
思えば、あの時の僕は完全に油断していた。
リオさんの感知能力による罠の発見、フレアストームによる魔物たちの殲滅など、普通では考えられない能力を目の当たりにして、リオさんがいれば大丈夫だなんて呑気に構えていた。
それじゃあ僕は何のためにこのパーティーに入れてもらったのか。
自分の研究をする為?
深層素材が欲しかったから?
それはもちろん理由の一つだ。
だけど、それ以上に、リオさんに恩返しをしたかった筈だ。
リオさんと初めて出会った時のことが頭をよぎる。
『……簡易鑑定だけ、お願いしてみませんか?』
リオさんは、レオルさんやセレナさんが警戒する中、僕を信じてくれた。
創生の雫という、錬金術士が求めてやまない軌跡の薬の鑑定を、どこの馬の骨とも分からない僕に鑑定させてくれた。
あれから、全てがうまく回り始めた。
創生の雫の鑑定を始めとして、フィエルさんの欠損した右足の復活を目の当たりにすることが出来た。
薬を飲んだ時の魔力の流れを含む全ての現象については資料にまとめて、お師さまに送っている。
お師様から珍しく大絶賛の返信が来た時には驚いたものだ。
そして、蒼天の軌跡への加入。
錬金術士であれば誰でも憧れる、アグレス坑道の深層中層へも連れて行って貰った。
今では僕の亜空間収納は宝の山だ。
仮に蒼天の軌跡を追い出されたとしても一生遊んで暮らせるだろう。
追い出されるつもりも、遊んで暮らすつもりもないけれど。
ともかく、あそこでリオさんが僕を信じて鑑定を任せてくれなければ、今でも僕はベルグランのギルドあたりで職探しをしていたかもしれない。
そんなリオさんに恩返しするどころか、光り輝く盾についての警告も出来なかったなんて……
「はぁ」
再び今日何回目かのため息をついていると、リオさんの看護のために治療院に残っていた筈のミアさんが、部屋に飛び込んできた。
「アレッタ、皆はどこ? すぐ皆を呼んで!リオを助けられるかもしれない」
何がなんだか分からないまま、蒼天の軌跡の皆を呼び出す為に動き始めた僕は、今度こそリオさんの役に立ってみせると密かに決意していた。
※挿絵はAIで製作したイメージ画です。
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