第99話 帰還と探索準備
クリスタル・アイアン・モノリスを古代遺跡で倒してから数日。
蒼天の軌跡一行は、自分たちのホームであるベルグランの宿に戻ってきていた。
「ふぅ」
セレナが息をついて、話し始める。
「結構疲れたわね」
「そうですね」
リオも苦笑しながら頷く。
「クリスタル・アイアン・モノリス戦も疲れましたが、王都の銀翼の剣の屋敷に帰ってからの歓迎にも疲れちゃいました」
「歓迎、すごかったもんねぇ……」
ミアも笑う。
「まぁ自分たちの主の危機を救ってくれたんだ」
レオルが続ける。
「屋敷の使用人達が張りきるのも無理はないがな」
「うむ」
ドルクも頷く。
「まぁそれだけ銀翼の剣の皆さんが好かれてるってことですね」
アレッタが微笑む。
「まぁ全てがうまくいって良かったな」
腕を組んだままのフィエルが続ける。
「俺たちも、またアグレス坑道の攻略に専念できる」
「そうね。まずは五十八階層の攻略速度を上げるためにも、私とリオは風の範囲魔法を覚えましょう」
「私もやるよ!」
ミアが横から割り込む。
「セレナとリオにばかり任せてられない!」
(セレナとリオばっかり二人っきりにしたくないし……)
内心ではそう考えながら。
「僕もちょっと武器を工夫します」
アレッタが続ける。
「アルカナ・コアクロスを改良して、水平に複数の矢を射出できれば、かなり楽になると思うんですよね」
「俺たち前衛組は、多数の敵が出てきたときの連携を磨くのがよさそうだな」
フィエルが口に手を当てて考えるように言うと、ドルクとレオルも「うむ」「そうだな」とそれぞれ同意を示した。
「いいわね」
セレナが微笑む。
「では、各自数日は訓練。準備ができたら五十九階層を目指して攻略を再開しましょう」
◇
そして、宿の裏の訓練所。
セレナ、リオ、そしてミアが魔法の特訓をしていた。
「まず私からね」
セレナが笑顔でリオとミアに伝える。
「五十八階層の探索を終えてから毎晩練習はしていたの。多分問題なく発動するとは思うけど、失敗しても笑わないでね」
冗談めかして言った後、セレナは別人のように顔を引き締めた。
そして。
「集え、吹き荒ぶ風よ」
詠唱が始まる。
「加速し、渦巻き、疾風の流れとなりてわが手に宿れ」
魔力が圧縮されていく。
「研ぎ澄まし、限界を超え、その力を一点へと収束せよ。鋼すら切断する風刃、荒れ狂う嵐の化身となりて標的を襲え」
詠唱と共に、魔力が密度を増しながら、一点へと収束していく。
「逃避を許さぬ真空の刃をもって、敵を切り裂く軌跡を描け! ──ウィンド・ストーム」
瞬間、すさまじい風がセレナの構えた杖から吹き荒れ、訓練所の複数の的が切り裂かれる。
「……すごい」
「セレナはやっぱりすごいなぁ……」
リオとミアが感心する中、呪文を終えたセレナは再び微笑んで言う。
「何とか発動はしたわね。……でも威力はまだまだだわ。私もまだ練習しないとね」
「いえ、十分凄かったです」
リオはそう答える。
「参考になったかしら?」
「ええ。詠唱の仕方、魔力の流れ、収束の方法、一通り感知させてもらいました」
「もしかして、リオはもうできちゃいそう?」
セレナは微笑んだままリオに尋ねる。
「やってみます」
「集え、吹き荒ぶ風よ」
リオの詠唱が始まり、セレナのウィンド・ストームをそのままなぞるように続いた。
そして。
「──ウィンド・ストーム」
セレナの魔法の完全な再現。すさまじい風がリオが構えた剣から吹き荒れ、再び複数の的が切り裂かれた。
「本当に一度見ただけで再現しちゃうのね。うらやましいわ」
セレナが少しあきれたように言う。
「ホント、リオはすごすぎるよ……」
ミアもそれに続く。
「ミア、あなたはどうかしら? なにか得られるものはあった?」
「うん。まだすぐには出来そうにないけれど、なんとなく感覚はつかめた気はする」
ミアは笑顔で答える。
「みててね」
そして、呪文を開始した。
「集え、吹き荒ぶ風よ」
ミアの詠唱が始まる。
セレナやリオの詠唱と一言一句変わらぬ詠唱。
魔力が圧縮され、収束したかのように見えた。
しかし。
「──ウィンド・ストーム」
一瞬小さく風が吹いたが、集まった魔力はそのまま霧散した。
「あーん。やっぱだめかー」
「そんなことないわ。凄いじゃない、ミア。もうほとんど出来てるわ」
驚いたようにセレナが呟く。
「そうですね。魔力の圧縮は完璧。あとは魔力をもう少し収束できれば発動できそうですね」
リオも感心した様子でミアに言った。
「そう?良かった。もうちょっと練習するね」
「ミア、あなたもずっと練習していたの?」
「うん。皆には言ってなかったけどハイドロ・ブレードも使えるようになったよ」
「凄いじゃない!なんで言ってくれなかったの?」
「だって、使う機会がなかったしねー。皆を驚かせたかったんだけど……」
「十分驚いたわ! ミアも小さい身体ですごいってアレクシア姉さんも驚いてたわよ」
「小さい身体は余計だけど……でも、嬉しい。ありがとう」
(セレナ、やっぱり優しいなぁ……自分のことのように喜んでくれるし)
ミアは心の中で小さく呟く。
そして、数日後に、ミアもウィンド・ストームを覚え、攻略再開の準備が整った。
※挿絵はAIで製作したイメージ画です。




