第90話 緊急依頼①:銀翼の消失
「ふぅ……」
ようやく五十八階層へ続く階段の前へ辿り着いた一行は、ほとんど同時に息を吐いた。
「何よ、この階層……」
ミアが、疲れた様子でぼやく。
「少し進むたびに二十匹、三十匹の魔物が出てくるんだもん。しかも、火や氷の範囲魔法はほとんど効かないし」
セレナも杖に体重を預けながら、困ったようにため息を漏らした。
「そうね。風属性は通るみたいだから、風の範囲魔法を覚えた方がよさそうね……これまで必要になったことがなかったから、覚えていないのだけれど」
セレナはそう呟き、仲間たちの様子を見渡した。
「一度、宿へ戻りましょうか」
誰も反対の声は上げなかった。
「少なくとも、五十六階層と五十七階層の情報は十分に得られたと思うわ。罠の傾向も、魔物への対処も分かった。どうかしら?」
「賛成〜」
疲れた様子のミアが、真っ先に手を上げた。
「次は風の範囲魔法で、あいつらをまとめて吹き飛ばしちゃおう」
「そうですね」
リオも頷く。
「風の範囲魔法を覚えてから、出直しましょう。フィエルの結界と組み合わせれば、もっと安全に進めると思います」
「決まりね」
セレナは階段の下へ一度だけ視線を向けた。
「五十八階層は、準備を整えてから挑みましょう」
蒼天の軌跡は、探索を中断し、来た道を引き返すことにした。
◇
宿へ戻った蒼天の軌跡の一行は、ようやく肩の力を抜いていた。
五十六階層と五十七階層。未踏破領域で得た情報は多いが、それ以上に疲労も大きかった。今日はもう休み、明日以降の方針を改めて決める。
そう考えていた矢先だった。
「蒼天の軌跡の皆さんへの緊急連絡です!」
宿の部屋へ飛び込んできたギルド職員が、息を切らしながら声を上げた。
そのただならぬ様子に、セレナがすぐに表情を引き締める。
「何があったの?」
「銀翼の剣のメンバーが、新発見の古代遺跡のダンジョンで行方不明になったそうです!」
「銀翼の剣が……?」
その名が出た瞬間、部屋の空気が変わった。
銀翼の剣。アレクシアの所属する、王都でも名の知られた探索者パーティ。
セレナは一歩前へ出て、確認するように尋ねた。
「行方不明になったのは誰?」
ギルド職員は、わずかに言葉を詰まらせた後、はっきりと告げる。
「ロガーナさんと、アレクシアさんの二名です!」
告げられた名に、そこにいた全員が息を呑んだ。
(あの二人が……)
リオは驚きのあまり、すぐには声を出せなかった。
ロガーナ。そして、アレクシア。どちらもリオたちが知る、実力ある探索者だ。その二人が、古代遺跡で行方不明になった。実力者の二人が消えるほどの、尋常ではない何かが起きているということだ。
ギルド職員が、続けて言う。
「銀翼の剣の残りのメンバー、カイゼルさん、ミレティアさん、リュザードさんの連名で、ベルグランのギルド宛てに緊急依頼が届いています。依頼先は、蒼天の軌跡です」
セレナは息を呑んだ。
「依頼内容は?」
ギルド職員は、苦しそうに眉を寄せた。
「ただ一言――『助けてほしい』と」
※挿絵はAIで製作したイメージ画です。
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ダンジョン探索からの緊迫した展開になってまいりました。
明日も【19時10分】に更新予定です!
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