第86話 装備完成
数日後。
ガルドから、武具が仕上がったという連絡が届いた。
リオとドルクは、完成した装備を受け取るため、再びベルグランのギルド近くにある鍛冶工房を訪れていた。
小さな槌と炉の絵が描かれた看板を掲げた、小さな工房。
ドルクはその扉を開け、中へ入る。
リオもその後に続いた。
工房の奥では、ガルドが相変わらず背を向けて槌をふるっていた。
「ガルド」
「来たか」
ドルクが声をかけるとガルドは槌をふるう手を止め、横の作業台の方に歩いていく。
その作業台の上には布をかけられた武具が並べられていた。
「頼まれていたものは仕上げた」
ガルドはそう言って、まず一つ目の布を取った。
「まずは剣だ」
現れたのは、赤みを帯びた剣だった。
刀身は普通の鉄とは違う。
黒みを帯びた赤。
どこか、レッド・サイクロプス・ギガントの角を思わせる質感が残っているようにも見える。
剣の刃は鋭く、無駄な装飾はない。
リオは思わず息を呑んだ。
「これが……」
「レッド・サイクロプス・ギガントの角を素材にして鍛えた剣だ」
ガルドは剣を手に取り、リオへ差し出した。
「持ってみろ」
「はい」
リオは、胸の奥がわずかに強張るのを感じながら剣を受け取った。
思ったよりも重くない。
けれど、軽すぎもしない。
手に馴染む。
握った瞬間、今まで使っていた剣とは違う感覚があった。
まるで、剣の方がこちらの魔力を待っているようだった。
「どうだ」
「……持ちやすいです」
「当然だ。お前に合わせて打った」
ガルドは鼻を鳴らした。
「魔力を流してみろ」
「はい」
リオは剣へ魔力を流す。
その瞬間、赤黒い刀身が淡く熱を帯びた。
炎が噴き出すわけではない。
だが、刃そのものが赤く染まり、空気がわずかに揺らぐ。
「……すごい」
リオは小さく呟いた。
けれど、柄を握る手に熱は伝わってこない。
熱を帯びているのは、刃だけだった。
「火を吐くような派手な効果はないがな」
ガルドが言う。
「だが、魔力を通せば刃が熱を帯びる」
「炎や熱には強い。炎に弱い敵であれば、通常よりも高いダメージを与えられるだろう」
「普通の剣より傷みにくいし、手入れも少なくてすむ」
リオは剣を見つめる。
ただの剣ではない。
これは、自分のために作られた武器だった。
そう思うと、胸の奥が少しだけ熱くなる。
「ありがとうございます」
リオは深く頭を下げた。
ガルドは照れたように顔をそらす。
「ふん。礼は使いこなしてから言え」
続いて、ガルドは二つ目の布を取った。
そこにあったのは、黒鉄の胸当てと籠手だった。
黒鉄特有の鈍い黒光り。
だが、防具に仕立て上げられたその黒鉄はどこか不思議な美しさを感じさせた。
胸当ては必要な部分を確実に守るように整えられ、腕を覆う籠手も可動を邪魔しないように作られている。
「こっちはウォー・オーク・エンペラーの黒鉄から作った防具だ」
ガルドは胸当てを軽く叩く。
鈍い音がした。
「この黒鉄は密度が高くて粘りがあるいい素材だ。ただ、そのぶん重い」
「人用の全身鎧には向かないな」
「だから胸当てと籠手に絞った」
「急所を守る。腕を守る。だが、足は止めない」
ガルドはリオを見る。
「嬢ちゃんは機動型だろうからな」
「はい」
リオは素直に頷いた。
「着けてみろ」
リオは言われた通りに胸当てと籠手を身につける。
少し重量感はある。
だが、それは守られている安心感を与えてくれる程度の重さだ。
身体に合わせて作られているせいか、重さが変なところにかからない。
腕を動かす。
剣を構える。
踏み込む。
思ったよりも、ずっと動きやすい。
「どうだ」
「動きやすいです。守られている安心感もあります」
「ならいい」
ガルドは短く言った。
「無茶はするな」
「武具は壊れないものじゃねぇ。違和感を感じたら壊れる前に手入れしにこい」
「分かりました」
リオは頷く。
ドルクも静かに口を開いた。
「ガルド」
「なんだ」
「助かった」
ガルドはドルクをちらりと見た後、もう一つの作業台に歩いていく。
そして、鼻を鳴らす。
「こっちは整備したお前の盾と斧だ」
「今度は壊れる前に持ってこい」
「ああ」
「それと」
ガルドはドルクとリオを順番に見る。
「二人とも、死ぬなよ」
二人は顔を見合わせた後、しっかりと頷いた。
「はい」
「ああ」
リオとドルクは、完成した武具を受け取り、工房を後にした。
◇
※挿絵はAIで製作したイメージ画です。
読んでいただきありがとうございます。
今日はリオの新しい武具が揃う回でした。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
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