7:躍動
あの後待機していた本隊と合流。そして再びミウラが現れた。まずは怪我人を治療した後に死者の確認をし、手短に現状を話し始めた。話を聞くに中央都市の隅にまで転移されていたらしい。そこから全力でこちらに戻ってきたとのことだ。二体の獅子老種を討伐したことや隊の状況を確認した後は、殺意の籠った面持ちでセトの宮殿に突撃していた。結果どうなったのかわからないが一度の爆発音から数分後、こちらに戻ってきたようだ。そして休息を取り約二日をかけて都市に戻ってきた。
中央都市に足を踏み入れる——空を遮断する高い建物たちの見慣れた風景、統一性のない濁った湖のような嗅ぎ慣れた匂い。それらはやっと憩いの場所に帰ってきた気分にさせる。カイムとサライス、それから由姫に声をかける。
「みんな、とりあえず俺の部屋に来てくれ。由姫のことまだ話してなかったしさ」
「……そうだな」
「おう、わかった」
「行く行くー!!」
慌ただしい状況からやっと落ち着いた時間がとれる。せめて仲間にはある程度の状況を伝える義務がある。……それにしても、聞き覚えのある女の声がした。
「いつからいた……?ラミアン」
淡い水色の髪に派手な髪飾り、煌びやかなネイル、エッジの効いたソックス。見るのも鬱陶しい外見をしている。
「さっき軍が戻ってくるのが見えて追いかけてきたのよー」
「そうか、で、なんで今回は来なかった?」
「えーーっとー……」
「別に故郷だから萎縮するってタマでもないよなー?」
どこか挙動不審のラミアンにサライスが詰め寄る。明後日の方向を向いて何か思い出したのか、由姫に近寄っていく。由姫の後ろに回り体を密着させる。
「お、おい……!」
「はじめまして。綺麗な髪ね、お人形さんみたい……」
後ろから抱きつき体を絡ませている。耳元で囁き、由姫の髪の毛に何度も指を通す。そういう由姫は戸惑い頬を赤らめている。
「続けて続けて」
「バカか!」
ほけっているサライスを蹴りつけラミアンを引き剥がす。
「夜月、こんなやつ放っておけよ。これから任務も連れてこなくていい、邪魔だ」
「いや、連れて行くも何も勝手についてくるんだよ……」
「ちょっ、カイム言い過ぎじゃない!ちゃんとチームに貢献してるでしょう?」
「チーム?貢献?独断行動と邪魔の間違いだろ」
「それでも成果は上げてるわ……あなたよりね」
「あ……?」
不穏な空気に切り替わる。カイムは影から刃を掴み取り、楽しそうなラミアンを睨み付ける。引き際を見計らって止めに入る。
「もういいから、部屋に戻るぞ。ラミアンも来てくれ」
「やっぱり柊は仲間扱いしてくれる!……わかった?カイム」
「黙れ、毒蛇女」
るんるんと俺たちについてくるラミアンと戦闘後よりやつれてるカイム……。不穏な空気には知らん顔のサライス。なぜか毎回止める役割の夜月 柊。これが一応チームの四人だ。そして新たに加わる由姫……。正直これから先、想像できないが新たな挑戦になることは間違いない——。
——討伐軍の寮、俺の部屋に五人が集まった。
部屋の作りは簡単なもので無難な広さに耐久性の低そうな木の床、そして使い古された家具たち。寮の部屋には前の住人が使っていた家具がそのまま放置されていることがよくある。軍ということもあり”出入り”が激しく、デフォルトの部屋なんてものは数少ない。俺の部屋も例に漏れず前の住人の名残が残ったままだ。
「まずはみんな、おつかれ」
「いつも通り、柊とカイムはボロボロだったな」
「俺は違う。こいつだけだ」
「ほんとに〜。私も砂漠の砂で肌が荒れちゃったわ」
「…今日に限ったことでもねーだろ」
「殺すゾ、日影ピアス」
「ま、まぁ話進めようぜ」
はぁー、面倒ごとになる前に話を終わらせよう。
由姫に視線を投げると静かに自分の状況を話始めた。
「わたしは由姫。先日、なんらかの事件に巻き込まれて満身創痍だったわたしを助けてくれたのが柊——」
そして記憶がないこと、生い立ちも種族もわからないことをみんなに告げた。話としてはそれだけのことだった。
「そして本人の意向で討伐軍に入ることになったんだ。もちろん俺が付き添う形になるから必然このチームに加わるんだけど……どうかな」
「オレは歓迎歓迎〜」
「わたしもわたしも〜」
「……」
「カイムは?」
釈然としない様子のカイム。疑いを隠さない目で彼女を凝視している。それに対して由姫はまっさらな表情で見返す。
「正直、異種族のスパイでも別に構わない……が仲間ヅラした挙句、記憶が戻った瞬間日常をぶち壊すのだけは許せねぇからな」
「……」
カイムは見た目に反して人情に厚い男だと俺は思っている。カイムの感情の始点を探っていくと嫌でもわかる。相手を傷つけまいと傷つける——。口も態度も悪い男は俺なんかよりもよっぽど良い感性を持っている。
「そんなことは絶対にしない。だって、今、なぜか……すごくワクワクしてるから」
ふわりと空気の印象が変わり、全員が由姫の瞳に釘付けになる。
「空の色——」
知らぬ間に落ちた声。
あの無限の可能性を秘めている空の色に圧倒され心を奪われる。
今まで何度も対話してきたが、俺は目と表情しか見てなかったらしい。
嘘と偽りを生み出せる顔の表情——けれどその瞳の奥には本当の感情が溢れていた。それは自分の瞳にまで侵食してくる本物の思いだった。
「え……?なに?」
銀髪にその天色の瞳は、自分と同じ生き物には見えないと思えてしまう。
「いーや、なんでも。由姫が前向きで良かったと思ってさ。……カイム、どうする?」
久しぶりに大きく目を見開いたカイムに問いかける。
「別に……お前が責任取れよ」
「もちろんだ」
とりあえず、チームは大方まとまり由姫の立場を確立させることができて安心した。
「あ、あとはみんなの紹介だな」
「わたしラミアン。蛇の獣人ねー。このチームには二分の一の確率で顔を出してるの〜」
「いたりいなかったり、こっちは大変なんだぞ。あ、俺はサライスね。任務中一緒だったし覚えたよね」
「サライスはサライス。可もなく不可もなくね」
「なんかちょっと引っかかるー!」
「喜ぶな、気持ち悪い」
「じゃあ最後は……?」
「……魔族のカイムだ。よろしくはしない」
「よろしくカイム。みんなもよろしくね」
短い話が終わりそれぞれ自分の部屋に戻って行った。といっても全員部屋は隣のようなもの。俺の部屋が建物の一番端で隣がカイム、サライスの順だ。廊下を挟んで向かいがラミアン、隣が由姫の部屋ということになった。
日が落ちてきて薄暗くなった部屋で無意識にベッドに横たわる。連日の戦いも終わり緊張が解けて眠気が襲ってくる。そのまま身を任せて静かに意識を落とした——。
——目を覚ますと部屋は窓から差し込む街灯の明かりだけで真っ暗になっていた。
ゆっくりと体を起こすと節々に痛みが走った。戦闘で受けた切り傷は治療してもらったため痛みはない。違和感があったのは筋肉の内側、骨だった。折れてはいないしヒビが入ってることもないと思う。原因に心当たりはある、あの獅子老種の雷撃が掠った箇所に痛みが走り続けているということ。でも生活に支障をきたす程ではないため無視しようと決めた瞬間、部屋のベルが鳴った。
「はい」
「私、由姫」
ドアの向こう側から透き通った声が聞こえた。迷いもなくそのままドアを開ける。
「どうした?」
「ちょっと気になって……」
「ん?」
「とにかく中入れて」
「まぁいいけど」
わけもわからず彼女を部屋に上げた。由姫はそのまま、さっきまでいた場所に正座で座り込んだ。
「それで気になることって?」
問いかけながら机を挟み彼女と向き合うように座った。すると何を思ったのか膝をつきながらこちらに向かってくる。
「え?……な、な、何?」
結局隣に、体が触れ合いそうなほど近くに迫ってきた。そのまま俺の腕に触れると——。
「腕、太もも、脇腹……痛いでしょ?」
「え……?」
的確に今自分が痛い箇所を言い当てた。それよりも痛みを忘れるくらいにはドキドキしている。
「な、なんでわかったんだ?」
「戦闘でなんども負傷する人を見てた。そしたらいつの間にかみんなの体の内部がわかるようになってた」
「……それで痛みの原因もわかると?」
「うん、あとは……」
再び由姫の手のひらが腕に触れる。すると手のひらが光出し、数秒間俺の腕に当て続けた。
「……なんなのこれ?」
「どう?痛みは?」
光が消えてゆっくり手を離す。すると——なぜかさっきまで感じていた違和感が消えていた。
「痛みが…消えてる」
「なんかね、いろんな能力使ってるのを間近で見たらできるような気がして」
俺たちが使っている能力は確かにイメージ力に大きく関係しているが即座にできるものではない。生まれ育った環境や種族、経験、そしてイメージ力全てが能力に起因している。治癒……できる血筋に関係でもしてるのか。
「助かった。こんな能力が使えるなんてすごいな」
「う、うん。治ってよかったよ」
意外な顔で目を見開いたあと、俯いてしまった。顔を盗み見るとうっすら頬を赤らめていた。今日はやけに表情が豊かに感じる。まさっらな表情に彩りが増していくようで、知らぬ間に微笑んでいた。
明日以降、能力の深掘りをしていこうと約束して彼女は部屋に戻って行く。




