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6:鬼気

金色の立て髪に大木のような大きな体。両手には大地を裂く巨大な得物。立派な獣はこちらに構えることもなくただそこに立っている。


「よし、始めるぞ」


カイムが深く被ったフードを脱いで魔族特有の角が露出する。灰色の短髪に耳口に銀色のピアス、つり目の下には濃い隈がよく見える。

カイムが広げた両手の”影”から——おどろおどろしくどす黒い刃のようなものが現れる。両手に構えたその凶器を強く握り締め、獅子の老種に向かって走り出した。それに応えるように老種は右手の大剣を振り下ろした。図体に似合わない速さで振るわれる大剣をカイムは華麗に避ける。それと同時に二本の刃で敵の腕を切り付ける。


「やはり硬いな——」


今度は俺もカイムと同時に接近していき、互いに大剣を避けたのと同時に頑丈な足目掛け切りつけた。

老種は目に見えて傷を負っているが効いてる感じは無い。遠距離で削った方がいいと悟った隊員たちは遠距離の攻撃に集中し始めた。弓や銃火器、衝撃波や雷撃など攻撃の半分は弾き返されているがそれなりに隙もできている。夜月 柊もここぞとばかりに抜刀し地を駆ける。数名の隊員たちも敵を囲うように距離を詰める。——しかし老種の一呼吸の後、再びあの咆哮が発せられる。


「ぐっ……!!」


この咆哮で遠距離攻撃も勢いを弱め敵に隙を与える。俺を含め接近してきた隊員たちに巨大な大剣が薙振るわれる。曖昧な音の中で敵の大剣を刀で受け止める。だが、ものすごい威力に打ち返される球のごとく数十メートル先まで弾き飛ばされた。


「がっっ……はっ!」

「夜月っ!」


獅子の攻撃の手は止まらず、すぐさま遠距離攻撃の出処に接近していき、またも大剣が振るわれる。

俺は全身が麻痺しているのか動かすことができず、両断される隊員たちを遠目から見ていた。カイムに目をやると、俺と同じように弾き飛ばされていた。


「っ……くっそ!!」


二度目の攻撃に直撃は避けたものの腹を裂かれていた。周りを見渡すと動いているのは俺とカイム、それから獅子の老種だけだった。


「はぁ、はぁ……」


正直、ここまでとは予想外だった。相手の力量ではなく、死んだ異端討伐軍の隊員たち……。せめて相手の力量を測れたのなら逃げるべきだった。意味のない場所で死んではただの無駄死にだ。実際、自分も最悪の場合逃げるつもりだ。


「ふうー……夜月、立て」


傷を押さえながら近くに寄ってきたカイム。先ほど裂かれた腹の傷は見る見るうちに再生していく。


「……まったく、俺はお前のように簡単には傷が治らないんだぞ」

「お前は頑丈だからな」


手厳しいカイムに口を尖らせつつ、ゆっくり片足ずつ動かして立ち上がる。

深く息を吸って、自分の体がこの地についていることを理解する。そして眼球の裏から脳髄へ熱く暑くあつい感情の火を灯す。全身の心拍数が上がったことを確認する。——すると徐々に額の上の方から、長い角が発現する。

”鬼神化”——それは紛うことなき鬼だった。


「はっはっ……!!いいねぇ、しょっぱい戦闘には飽き飽きだ」


カイムが自分の胸を貫く。一瞬意識を飛ばして……体の周りから黒い靄が発現してくる。そして瞳は真っ赤に染まっている。

”絶老種化”——老種化を超えた魔族。


一匹の鬼と老種化を超えた魔族、そして強い殺意を持った獅子。傍から見ればどっちが化け物なのかわからない。この形相を見て危機を感じ取ったのか、獅子の老種は今まで以上の轟音を発した。するとカイムは地面に両手をついて呪文を唱える。


「——串刺しだ」


獅子の老種が物凄い勢いで突進してくる。しかしそれ以上の進行は地面から生えた黒く大きな槍によって阻まれた。いくつかの槍が獅子の体を貫通している。そして俺は一瞬で懐に入り込み、大きな両腕を切り落とした。苦悶の表情を浮かべながらも身動きが取れない。自分の刀を納刀し、再び抜刀——。老種の首目掛けて、空間を切る”風”の巨大な斬撃を飛ばした。飛ばされた斬撃はさらに勢いを増し老種の首を断つ寸前、怒号とともに全身が雷を帯びていた。そのまま大きな槍の拘束からも逃れる。帯電し続ける体、こちらに向けて大きく開いた口から雷の衝撃波は何発も放出される。それを斬り交わしてやり過ごし、カイムは黒い影の壁を作って身を守る。


「まだ余力が残っていたのか」

「強食序列も伊達じゃないってことだなぁ」

「あの大剣はもう使えない、接近したいところだが……」

「周りに纏ってる雷だな」


放たれた斬撃も消し飛ばす雷だ。接近するのも難しい、それに口から放たれる雷撃も厄介だ。


「カイム、あいつの両足と口、さっきの槍で固定できるか?」

「お前、結構難易度高いこと言ってるぞ」

「せめて足だけは頼みたい、そうすれば首は獲れる」

「……仕方ねぇ、獲り溢すなよ」


了承を得て目を細める。やっぱりこいつは頼りになる。すっと息を整えて敵を見据える。両腕を失ってもなお殺意が揺るがない獅子の元へ俺は駆け出した。放たれる雷撃を切り捨て交わしながら、大きく跳躍した。そしてカイムは先ほどと同じように地面に両手をつく。獅子の老種は両足を大きな槍に貫通、固定されその場から動けない。首を狙った槍は惜しくも外れていたが、勝機は見えた。次々と突き出る槍に抵抗しようとカイムに雷撃が向けられるがもう遅かった。跳躍し、敵の真上から自由落下、さらに能力で突風の加速をつけて——抜刀、切断。



切り落とした首……体と共に灰になりゆっくりと消えていった。

疲れと緊張からか知らぬ間に尻餅をついていた。カイムもその場で座り込む。脱力しきった二人は元の姿に戻っている。

静かな風と砂の音。静かに灰が消え去った跡を眺めた。自分もカイムも誰でもこうなる可能性がある。知らないものが消え去ったことに何の感情も浮かばないが、これが身近なものなら俺の感情はどう動くのだろう……。


「——随分な被害だな……生きてるのはお前たちだけか?」


ロウカクと呼ばれている獣人がこちらに歩いてきた。周りを見渡すが気を失ってるだけでまだ生きている隊員が数名いる。ロウカクに視線を戻すとその姿は所々に焼け跡がついていることから、赤髪の獅子は火でも使う老種だったのだろう。それにしても——。


「お前らのせいだぞ」

「……」


カイムが言っているのはミウラを消したあの魔法陣だろう。状況から見てまず間違いなくこの獣人族領地の誰かが使った能力だ。ミウラが消えた……というよりどこかへ転移されたと考えると自ずと犯人が見えてくる。何度か俺たちの元に瞬間で現れている獣人の二人。


「私にもバール様のお考えはわからない」


呆れた顔で宙に浮く宮殿を眺めているロウカク。やはりミウラを飛ばしたのはセトだったか……。


「倒せたはいいもの、あんたらのせいでこっちの被害は出てる」

「見ての通り死人もたくさんだ」

「ああ、これはやりすぎだ……」


あって間もないが初めて見る表情は本心以外には見えない。砂のそよ風に狼の耳が揺らぐ。いつまでもここに居座り続けそうなロウカクを見るとまさに一匹狼にしか見えなかった。


立ち上がり、そろそろ俺とカイムは本隊に戻ろうとすると——。


「夜月だったか……少し話さないか」

「……?」


カイムは離れた場所で待機している本隊を呼びに行った。

——ロウカクとは初対面であり、戦闘直後でもあってなんだか落ち着かない。


「それでなにか用でも?」

「……お前はなぜ討伐軍に入った?」

「そんなこと聞いてどうするんだ?」

「俺は中央都市の存在自体が希薄に感じる。大陸を統制したいくせに戦争はしない。基本的な仕事は老種の討伐だろう?根本的な解決にはならないと思うが……」

「……」


的を得ている……俺も同感だし、多分ほとんどみんな感じていることだ。今の老種討伐に意味はあっても絶対に結果に繋がらない。


「ただの隊員に全体のことはわからない。けど最初の質問に答えるなら、俺はただ時代の流れに沿って生きているだけだ」


何百年も昔、この大陸はいくつもの種族が争い合っているだけの荒れた土地だったという。そしていつから大陸の中央に小さな都市が出来始めてその領地を拡大していったということだ。今や一種族の領地の大きさには満たないものの、半分以上の大きさはある。確実に領地を広げており、都市内の住民も増え続けている。異種族の共存が実現しているのだ。——しかし、本心は今この状況こそが成るべくして成っているようにも感じる。


「……そうか、理解できる。では俺たちは……時代に置いてかれたんだろうか」


こいつ、第一印象とはかなり差を感じる。感傷的というか、俺の中の狼像とはかけ離れている。


「わからないが、進みつつある世界が巻き戻ることもあるんだ。未来なんて当事者次第だと思うけど」

「……ああ、そうなのかもな」


人狼の獣人はただ呆然と空を見上げていた——。


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