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5:暗転

結局Sランク、Aランクの老種二体討伐となった。さすがに想定外の事態になったことでミウラは本部に連絡を取っている。そして俺たちは静かにミウラの言葉を待っていた——。


「これより任務完遂に向けて作戦会議を行う——。まず我らの標的は獣人族、元強食序列9位グーニル、10位ストラストの二体の老種だ。この地の領主セトの話によるとグーニルとストラストは共に獅子の獣人で血縁関係にあったそうだ。そしてグーニルはSランクに匹敵するがストラストはAランク止まりだと予想されている。グーニルは獣人族側で対処に当たるとのことだ」


元強食序列の二体を相手にするのか……?一体は取り持ってくれるとはいえ大丈夫なのか?ミウラがいるとはいえ不安は拭いきれない。


「我らが迎え討つストラストは今朝私が先行した先で一戦交えた相手だ。おそらく疲弊している、半分以上の力は出させたはずだ。あとはこれを押し潰すのみ——」


周りの隊員たちが戦意を立て直す。みんなやる気になって明らかに戦意を溢れ出させていく——。

とりあえず方針は決まったためカイムに断りを入れて由姫の元へ向かう。援護部隊の配置される中央付近を探す。とりあえずサライスでも見つかればいいんだけど……。するとピンク色のツンツン頭を見つけた。


「サライス!」

「……?おお柊!どしたん?」


マヌケそうな顔で黒縁メガネを正している。なにやら作業の途中だったようで空中に謎の術式を描いていた。


「なんか作業中だった?」

「ん?ああ、これは援護部隊を優先的に防御壁の術式を組み込んでいるんだ」

「おまえ……」

「な、なんだよ……」

「やっぱり、優秀なんだな」

「は……?」

「由姫は近くにいるよな?」

「そこにいるけど……おーい!由姫ちゃーん!」


呼ばれた彼女は援護部隊用のテントの中にいたらしい。ゆっくりとテントから出てきた彼女を見て安心した。会った時と変わりのない姿で不思議そうにこちらを見ていた。


「大丈夫そうだな。記憶、戻ったりしてないか?」

「まったく全然。それよりそっちこそ大丈夫なの?さっき戦ってたみたいだけど」

「こちらもまったく問題ないよ。立て続けで大変だろうけど次は大きな戦闘になる、これまで以上に身を潜めていてくれ」

「了解。気をつけて」


手を振って別れを告げると——「サライス、頼んだぞ」と去り際にそう呟いた。



作戦会議を終えるとそれを見計らったかのようにセトとロウカクが一瞬で現れる。


「会議は済んだようだな。——ふーむ、ストラスト相手にこの人数か?……今はどこも人手不足と言えような」


実際に戦闘に向かう人数は俺とカイムを入れた二十人だ——ミウラが実力をみて選抜した隊員たちだ。


「残りの半分は書類整理でもするのかな?」

「ふざけるな、あまり口が過ぎると貴様に流れ弾が当たらん保証はせんぞ」

「なんだ守護者様は冗談も通じぬらしいな、はっはっは——」


闘志を露わにするミウラに対し休憩中の隊員のような奔放さを見せるセト。この場の全員は肝を冷やしている。


「ともかく——守護者の実力があろうとも足元をすくわれることのないようにな」

「……」

「バール様、ここは任せてください」

「うむ。我はもう一仕事して前線の様子を見てくる」


そういうとセトはロウカクを残し、また消え去っていた。


「ミウラ、すぐに出るぞ」


ロウカクは領主を見送った直後有無を言わせない態度で言い放った。


「無論だ。二体の老種は結界の中で一時拘束しているという話だったな」

「ああ。ここから数百メートル先のジャングルの入り口付近で拘束している」


そして俺たちは進軍を開始する。予定通りミウラ含めた二十人で目的地へ向かう。残りの隊員たちは今回の相手には力不足のため、ミウラと援護部隊が張った多重結界の中で駐留することになる。由姫とサライスも一緒だ。俺たちより遥かに安全であるため、今は自分の敵……Aランク相当の老種に集中する。今朝の鳥型老種はBランク程度の実力だった。俺自身、上限討伐ランクはA——今回の敵と同じだがまったく楽観はできない。引っかかったのは獣人族の元強食序列ということ。強食序列ともなると中央都市でいうところの戦人序列と同等のはず。その事実だけで体が強張るのに無理はなかった。


「でもミウラもカイムも一緒だしな」

「……なんだ急に」

「別になんでも、全力で頑張ろうと思ってさ」

「……さっきの戦闘で言った、お前が敵に傷一つ付けられないってのは能力も使わず、鬼神化もしていないお前がって話だからな」

「わかってるよ。何年の付き合いだと思ってるんだ、あれはお前なりの……励まし、だろ?」

「全然違う、お前への評価だ——」

「ふ……そういうことにしとくよ」


下らない会話をしていると目的地に着いた——ジャングルと砂漠の境界付近でロウカクによって停止を促された俺たち。ロウカクも立ち止まって動かない、ミウラもそこに静止する様子を見て俺たちは戦闘の構えに移行する。

——ロウカクが見つめる先に目をやると……なにもない空間が蜃気楼のように歪んでいる。微かに地が揺れる。だんだん空間の揺らぎが激しくなっていくと、この場の全員が化け物の気配を感知する——。


「——くるぞ」


歪みがはっきりと化け物の形に変わっていく。——真っ赤な瞳に長い縦髪、筋肉質の大きな両手には身体と同じくらいある大剣を構えている。文字通り獅子の獣人。二匹はほとんど見た目に違いはないが明らかに立て髪の色が違う。赤毛の方はグーニル、金毛の方がストラスト……俺たちの標的だ。


「……っ」


標的に意識を集中させる……体の大きさは自分の二.五倍はある。接近戦はなるべく避けて遠距離から確実に削っていくのが勝機か。そんな思案の中でミウラが攻撃を仕掛けようと腕を伸ばした瞬間——。


「……なっ、これはっ——!」


ミウラの足元に謎の魔法陣が展開され、一瞬でその姿を消した——。


「な、にが……?」


理解できないその光景に声が零れた。止まった時間の中で赤毛の老種がこちらに向けて息を吸い込む。周りに伝える間もないまま、突風を起こす程の咆哮が発せられた。


「くっ!!」


耳にできるだけ力を集中させて鼓膜の破裂を防ぐ。カイムも当前にこれを防いでいたが……今ので隊の半数が鼓膜を破られ意識を飛ばしていた。今ここに立っているのがセトの側近ロウカクと俺、カイムを含めた十人程の隊員のみ。ミウラの姿はない——気配も感じない。


「一先ずグーニルは受け持とう。終わり次第助力する」


体格差をものともせず赤毛獅子の老種を蹴り飛ばす——これを追ってここから離れていった。

そして残った金毛の獅子の老種。蹴り飛ばされた相方に気にする素振りは見せず、赤い瞳でこちらを見続けていた。


「これ、十人で倒すのか?」


勝手に眉が下がり苦笑しながら、歩を敵に向け刀に手を掛ける。


「安心しろ。俺が十人分の力を出してやる——」

「ははっ……なら俺はせめて五人分の力は出せないとな!」


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