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4:戦場

夜が明け朝日が顔を出す。日光に照らされ目を覚まし、周りを見渡すとまだほとんどの隊員が休んでいた。号令も出ていないので少し早かったかと思い、なにげなく手元の鞘袋に手を添える。この刀は俺の生まれ育った故郷で手にしたものだった。もう何年も使っているが、てんで愛着のないものだ。陳腐な夢が迫り来る寸前——。


「?」


普段と違ういやな空気感に纏わりつかれた感覚。朝日が昇りきっていない薄い青色の中で一滴の汚水が垂らされた。目的地の方角に目を凝らすと——見つけた。明らかな異物、眼球が視認を拒むような不快感。いつ見ても醜い、そしてやるせない形。とにかく知らせよう、みんなに声を——。


「!!」


一瞬でこちらに近づいてくる、——もう完全に射程範囲だ。


「敵だ!!すぐそこまで——」


喚起の途中で不快な音が耳を駆け抜ける——軍の一番外側にいた隊員たちが腹を貫かれ首を落とされていた。俺は一瞬で刀を抜いて敵の間合いに踏み込んだ。赤い鞘から抜き放たれる黒い刀身を露わにして、首めがけた瞬足の一閃。


「くっ……!」


切ったものの浅い——。相手は俺の間合いから三歩も下がっていた……。敵を間近で確認するとやはり老種だった。おそらく獣人の老種で両翼を生やしていることから鳥……の獣人か……。そして目は真っ赤で全身から黒い靄のようなものが上がり続けている。老種という化け物の特徴に一致している。


「……」


それにしてもこいつの特徴は翼を活かした”速さ”だろう。まずはその翼を切り落として無力化する。あの速さであれば隊の腹まで容易に届く……。今の惨劇で周囲の隊員は戦闘態勢に入っていたが、まだ敵の存在に気づいていないものもいる。とにかくミウラに情報を伝えなければ——。


「なっ……!」


ほんの少し、一瞬の思考でできた隙を鳥の老種は見逃さず右側に急発進した。隊の中心を守るように展開していた十人程の隊員たちが武器を構える。


「くそっ……化け物が!今楽にしてやる!!」

「アンナ!やつの動きを止めろ!」


アンナと呼ばれた魔族の隊員が老種めがけて手を振りかざす——すると地面からツタが生えて敵を拘束する。それでも翼を広げて空へ逃げようと試みる。しかし背後に回った吸血鬼の隊員はその翼を手刀で切断する。


「ビーマ!今だ!!」


一回り体の大きな鬼族の隊員が老種に接近し大きく跳躍、頭上から大きな斧を敵の首めがけて振り下ろす。


「おうらァァァ!!」


ボトン……と鳥の老種の首が転がり落ちる——。すると首のない体は灰になり跡形もなく消え去った……。

——周りから歓声が聞こえてくる。とりあえず周りにも老種の気配はしない。一先ず窮地は脱したというところか。


「はぁー……」


体の緊張を脱力させる。深呼吸をして新鮮な空気を取り入れる。自分のコンディションを確認しながら周りの被害を確認する。


「死者は三人か」



刀を鞘袋にしまって歩き出す。一応状況をミウラに伝えるため隊を散策する。

さっきの老種、戦闘中に急に狙いを変えた……。なにか意味でもあったのか……?それにこの砂漠地帯に老種が出現するとは予想の外だった。


「ミウラは外出か…」


一通り探したがミウラの姿は見つからなかった。となると、おそらく目的地まで先行してルートを開拓しているところか。大体このように任務時は大陸守護者が野営中に先行することが多い。今回の襲撃は朝方でありミウラも不意を突かれた形になった。これでは先行している意味がない、こちらで犠牲が出ては本末転倒だと思うが……。

——すると上空を飛行している白装束が見えた。地に降り立ち、隊員から状況の確認を行なっている。


「?」


横目でミウラの姿を見るといつも純白な白装束が所々破れ、血痕が染み付いていた。この先で何かあったのか——?


「みな、すぐに出発する!この先にAランク相当の老種がいる——。今は獣人族領地の彼らが戦闘にあたっているが我らの増援は必須だ。そしてAランクだけではない、その取り巻きも多数見られた」


周りが徐々に騒がしくなる。多種多様な言葉が飛び交う。Aランク相当の老種なんて聞いていない、戦人序列の座を奪うチャンスだ!、ミウラさんがいれば安心だがやはり戦人序列の誰かしら連れてくるべきだったのでは……など。



戦人序列とは中央都市異端討伐軍の十人の実力者だ。戦人序列の名が与えられたものは大陸守護者の直命が下される。そのため中央都市外にいることの方が多い。今回戦人序列のほとんどが出払っているため、大陸守護者様が直接任務に参加したというわけだ。


また、老種には危険度ランクが設定されている——C、Bランクは実力のある隊員が複数いれば討伐可能なレベル。Aランク、下位の戦人序列が一人は必要なレベル。Sランク、上位の戦人序列が一人は必要なレベル。SSランク、複数人の戦人序列で討伐するレベル。SSSランク、大陸守護者一人は必須なレベル。



Aランクの老種……おそらくはミウラが始末するんだろうけど、今回に限っては運が悪い。初任務でこれは冷や汗ものだ。由姫やサライスと話しておきたかったがすぐに進軍を開始したため、やもなく後回しにした。


「おい」

「!」


後ろで一段と低い低音で声をかけられ、心臓が飛び出るかと思った。


「びっくりしたー、どうしたんだよカイム」

「さっきのは気合入ってたな、俺は敵に傷さえつけられないと思ったぞ」

「……てかカイムお前、戦闘中いなかったな」

「ああ、後ろで見てた。女連れてきたお前にどんな心境の変化があったのか気になってな」


だったら直接聞けば良いだろうに。別に心境の変化なんてものはないんだけど……。横目で隈のできたつり目を見る。気になった、とはいえ全然興味なさそうな顔してるカイム。


「とにかく次は真面目にやってくれよ。さすがに仲間が死ぬのは見たくない」

「わかってる、Aランクを殺したともなれば俺は序列にまた推薦されちまうだろうけどな」


カイムはその実力を認められて何度か戦人序列に推薦されている。序列が認めるほどに実力が備わっているということだ。けれどその全てをカイムは断っている。まぁ理由はなんとなくわかるけど……好き勝手に動けなくなるのが嫌なんだろうけど——。



太陽が頂点に達する前に目的地が見えてきた。森というよりジャングル…こちらから向かっているのに緑の集団が押し寄せてくるかのように錯覚してしまう。そのジャングルの中心には確か、巨大な大湖があったはず。そしてその緑と湖を見下ろす砂漠の宮殿……巨大な大湖と同じくらいの大きな宮殿が空に浮いていた。獣人族の領主”セト・バール”の王座でもある——。


「いつ見てもすごいな……」

「あの宮殿、セトが浮かしてるらしいぞ」

「そうなのか!?……てかなんで浮かしてるんだ?」

「知るか、ただ派手好きなだけだろ。竜なんかに見つかった日には一瞬で撃ち落とされるだろうがな」

「——そんなことはない、我が宮殿はそんなに柔じゃない——」

「!!」

「!!」


カイムと二人で話してる真後ろからずっしりとよく通った男性の声が聞こえた。

褐色の肌に白髪、前から見ると肩までの髪も背中側で金色の装飾で纏め上げている。頭や腕、腰、足、装飾を着けていない部分が見当たらないくらいにキラキラしている。

異変に気付いたのかすぐ近くまでミウラが歩いてくる。俺でもわかるくらいに闘気が滲み出ていた。


「何のようだ、セト・バール——」


「いやなに我の宮殿がなぜ浮いてるのか、その外観はどこから着想を得たのかを知りたいという青年がいたものでね」

「——いやそこまで言ってねーし」


こいつが獣人族領主のセト・バールか……初めて見たけどなんともすごい神性を感じる。するとまた一人、ガッチリとした狼の人型獣人が一瞬でここに現れた。


「バール様、困ります……勝手に宮殿を抜けられては……」

「書き置きしといただろう?しばし席を外すと——」

「今はそれどころではないでしょう。我が元序列の二体が暴れているんです。猫でも獅子の手でも必要なのです」

「うーむ……獅子に届くかはわからんが、虎の尾を踏みそうな連中はここにいるぞ」

「異端討伐軍ですか……それにあなたは——大陸守護者のミウラですね」


今までとは打って変わって曇らせた渋い表情でミウラを見ている。そんなセトの側近と思われる獣人を無視するようにミウラは話を続けた。


「先ほどの話で気になったことがある。元序列の二体とはなんだ?……我々の元に届いた文は大量発生しているBランク相当の老種の討伐だろう?」

「ああその通りだ。しかしやつら思ったよりも早くジャングルにまで侵攻してきたのでな、ロウカクに始末を頼んだまでよ」


ロウカク——とはこの側近のことか。ということは元の任務は達成済みでまた新たな案件が出てきたということになる。そして道中出会した老種はロウカクの取りこぼしってことか?どちらにせよこのまま帰ることはできなさそうだ。


「つい先日、魔族領地へ進軍した我が強食序列9位グーニル、10位ストラストが老種化したわけだ。これを今の我が戦力で潰すには少々力不足でな。そこで異端討伐軍の力を見せてもらおうというわけだ」

「随分と上からだな。勝手に戦争しておいてそれか」

「今回は防衛戦であるがな」

「屁理屈はいい……状況はわかった。元序列となるとSランクと見て良いだろう。部隊を組み直す、しばし時間をもらうぞ」


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