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3:参入

 この地”ノイエヴェルト大陸”中央都市の目的は大陸の統制。中央都市を除き大きく五つに分かれ領地を構えている五つの種族。

 鬼族、獣人族、吸血鬼、魔族、竜人族。

 五つの土地をそれぞれが管理している。中央都市とまるで違う思想を持った五種族だが数百年前から均衡状態が続いている。しかし裏では絶えず戦が続けられているため、中央都市以外の種族領地に出入りすることは基本的にありえない。


 そんな中で「大陸守護者」を筆頭に全大陸を統制していこうというのが中央都市の目的だ。

 これらを叶えるため大陸守護者によって作られた軍、それが異端討伐軍。異端討伐軍は中央都市の思想に賛同した五種族の隊員たちで出来ている。そのためこの軍自体があらゆる種族の裏切りであると都市外から非道な扱いを受けるのは当然だった。しかしそんな蔑視の眼差しを向けられようとも、この軍にはその名の通り異端を討伐する使命があった。

 異端……それは「老種」と呼ばれる化け物、種族の成れの果て。各地で発見される化け物を討伐することがこの大陸の最優先事項だからだ。

そして俺、「夜月 柊——よづき しゅう」は異端討伐軍に所属している。


「とりあえず本部に向かう?」

「うん」


 話し合いの後二人で中央都市中心にある、軍の本部に向かった。隣の彼女を一瞥すると、ワイシャツの上に昨日俺が忘れていったジャケットを羽織り、下はなぜか北条が持っていた軍の女性用スカートを履いていた。

 まさか彼女が入隊するなんて思いもしなかった。入るにしても俺と同じ攻撃部隊ではなく、援護部隊に入ってもらう。討伐軍には三つの部隊がある——攻撃部隊、援護部隊、情報部隊。部隊があるとは言ったものの任務によって配置換えもあったり上から押し付けられることもあるので一概には言えない。どこも危険に変わりないがとりあえず援護部隊が一番安全だと思う。


「柊……」

「えっ?」

「なんかずっとこっち見てる人がいるよ」


 本部と寮が隣接する敷地内の門を彼女が指さしている。門の傍でフードを深く被って腕を組んでいる怪しいやつが立っている。


「夜月、なにやってるんだ。こんなところで」


あやしい趣で近づいてくる男に由姫は様子を伺っている。しかし杞憂だ、お互い初対面で気を張るのも無理はない。低い声に目元まで隠したフード、そして下唇のピアス——。初対面でビビらないやつはいないと思う。


「いやぁ今朝ちょっと出かけててさ」

「女と二人でか……昨日の夜もいなかったな」

「ん?なんか誤解してないか……?」

「まぁいい、お前の色気話なんか聞きたくない。それよりも——」


 敷地内に目を向けると隊員たちが広場に集合して騒がしい。なんならすでに隊列が出来つつあった。


「まさか出動か!?」

「そうだ、わかったらさっさと行くぞ」


くそ、タイミングの悪い。由姫の大陸守護者との顔合わせもしていないのに……。


「ごめん説明している暇はない、とりあえず一緒についてきて」


勝手に由姫の手を引いて隊列の一番後ろに並ぶ。五十人の固まりが二つ、ざっと百人がこの場に並んでいる。そして仮面をつけた二人が列の先頭に立っていた。


「今し方、獣人族領地と吸血鬼領地で老種が確認された。互いに数十匹が各地で暴れている」

「領地側も奮戦しているそうだが無駄な死体が増えるのは我らの信条に背く」

「よってこれ以上被害が拡大しないよう我ら異端討伐軍が出るぞ!」


大きな激に隊員が声を上げる。白装束に仮面をつけた大陸守護者はその場を取り仕切っている。そして隊員たちは体の大きな鬼から狼の獣人、角を生やした魔族など種族様々だ。そんな初めての環境で由姫は落ち着いているように見える。


「とりあえず、援護部隊の知り合いに話をつけるから一緒にきてくれ」

「知り合い?」

「うん、カイム……さっき門で話したヤツなんだけど、そいつより話しやすいヤツだから安心して」


 進軍準備の間に援護部隊の「サライス」を探す。隊員各々が準備を始めている中でふと見慣れた淡いピンク色の髪を見つけた。


「おーい、サライスー!」


こちらの声に気が付いたのか小走りで駆け寄ってきた。ピンク色の髪に黒縁メガネをした細身の男——それが「サライス・ヴァル」だ。


「柊……どうしたんだよ、もう進軍するぞ」

「ちょっと頼まれてくれ、この娘由姫って言うんだけど今回の任務中預かってくれないか」

「預かってっておまえ——」

「?」

「……」

「おい、どうした?」

「……」


由姫を見て立ち尽くしているサライスの頬を叩く。バシンっと、微動だにしない顔にメガネがズレてようやく反応した。


「はっ!……ええっと、はじめまして俺サライスって言うんだけど吸血鬼です。色白で黒縁メガネ、よく似合うって言われるんだけど——」


そんなこと聞かされた由姫は唖然と目を見開きさせている。まったくやめてほしい、変な友人がいるやつだと思われる。


「そんなことより彼女なにもわからないんだ、色々教えてやってくれ——頼んだぞ!」

「あ、おい!」


 戸惑っているサライスを背にカイムのところに向かう。部隊は基本的に五人以上のチームを作って任務にあたるのだが、知り合いの少ない俺は二人から三人のチームで行動することが多い。ちなみにいつものメンバーは俺とカイム、サライスそしてもう一人性悪の女「ラミアン」がメンバーで合計四人になっている。それでも安全最低ラインの五人には満たないんだけど……。


「悪いな待たせた!」

「遅い、もう前衛は進んでる。今回は後衛についてすぐ出発するぞ」

「あれ……?ラミアンは?」

「さぁな、いないってことは参加しないんだろ。好都合だ」

「ま、まあな……」

「——それよりほら」


カイムが肩に担いでいたものをシュッと投げ渡された。とっさに掴み取ると——それは俺がいつも持ち歩いている鞘袋もとい刀だった。

 俺たちの五十人部隊が獣人族領地を目指して進み始めた。もう一つの五十人部隊はすでに吸血鬼領地を目指して出発している。

 今までの戦禍を見ても獣人族領地よりも吸血鬼領地の老種の方が手強い印象があった。正直こっちでよかったと思いたいが、今回はイレギュラーもある……。援護部隊は隊の中心に配置されている。この中では一番危険が少ないと思うしサライスもいるから大丈夫だとは思う——。


 獣人族領地を進むとまず広大な砂漠が広がっている。というより大陸中心の中央都市を囲うように広大な砂漠になっている。よって、どの種族領地に行くにしてもまずは砂漠を越えなければならない。砂漠はかなり広がっており、だいたい一日あれば砂漠を越えることができる。目的地は砂漠を越えたあたりになっているので今回は近い方だった。


「はぁ毎度この砂漠はきついなー」

「ああ、任務前に体力持っていかれるのも面倒だ」


 カイムと愚痴りながらも歩みを進める。軍全体はまとまって進んでおり獣人族領地担当の大陸守護者、「ミウラ」がこの隊を率いている。体格から察するに男であるということはわかる。たしか吸血鬼領地担当は女だったか……。中央都市最高戦力の五人がいる限り、もし攻め込まれたとしても中央都市が落とされることはないだろう。最近の魔族領地は荒れに荒れているらしいからな……。都市に攻めてくる日もそう遠くないかもしれない。


「なんだ、考え事か?」


急に声をかけられて我に戻った。周りを見てみると隊の足は止まって、すっかり薄暗くなっていた。


「今日はここで野営だとよ。多分明日の昼前には着くだろうな」

「そうか、さすがに歩きっぱなしで疲れたわ……」


 隊全体が野営準備に取り掛かっているところで俺は彼女の様子を見に行くことにした。とりあず手当たり次第適当に探してみたけど見つからない。適当にその辺のヤツに声をかけようとしたところ——。


「夜月 柊……だな?」


 声をかけられる一瞬、全身の神経が研ぎ澄まされた。しかしたった一瞬だけ……殺意ではないことに気づき、頭の血を引かせる。


「そうですけど……」

「こちらの由姫隊員から話は聞いた」


大陸守護者 ミウラの隣には由姫がいた。突然のことに頭が回らないんだけど……。


「入隊が希望なのだろう?我らは日々人手不足ゆえ、戦う意思があれば拒む理由はない」

「あ-……はい、そうです。穏便な対応、感謝します」

「別に構わない。……それよりもまたお前たちはその人数で行動するのか?」


さっきの真剣な物言いとは打って変わって呆れた口調で問いかけてきた。


「まぁそうですね、足引っ張らないよう頑張ります」

「貴重な戦力を無駄にしたくはない、即席のメンバーが嫌なら早く空きを埋めることだな」


そう言い残して去っていった。……今回は二人なんて言える状況じゃなかったな。それよりも——。


「由姫、どういうことだよ。さっきのは自分で入隊の話をつけてきたってことか?」

「そうそう、隊も止まって周り見渡してたらちょうど偉そうな人いたから、話だけしてみようと思ってね」


そうそうって、あんまり勝手なことされても困る。獣人担当のミウラが寛容だったから良いものを……。鬼担当の「ゴリン」だったら徹底的に調べ上げられるぞ——。


「まったく……今度からはそういうのは事前に相談してくれよ」

「わかったよ」

「……」


今の一連の流れを黙って見ていたカイムが俺……というより由姫をじっと見ていた。


「どうした、カイム?」

「結局彼女はなんなんだ?」


なんなんだ?——とは何族なんだっていうことだろう。どっちにしろ俺もわからないし、あとでみんな集めて説明するか。


「とりあえず帰ったら説明するよ」

「……」

「由姫もまたあとで」

「うん、じゃあまた……」


 そうして由姫は戻っていった。歩いていく後ろ姿……長く滑らかなシルクの銀髪が月光に照らされる。月の光に照らされる彼女はなぜかものすごくしっくりきた……いつも間にか呼吸を止めて見入ってしまった——。

夜が終われば明日になり、明日になれば戦いが始まる。ようやく日常に戻ってきた気分だった——。


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