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11:閑話

 夜月 柊らが鬼族領地へ赴く前日、大陸の北東に位置する魔族領地ではある事件が起きていた。

 血を洗い流すように降り頻る雨。魔族領地からある依頼を受けて大陸守護者のフタバ、戦人序列の二階堂、ベルキャットら総勢百人が進軍を開始したが、なぜか依頼主の魔族を前に壊滅していた。


「どう、して、我々を殺す……?」


守護者の象徴とも言える仮面は砕け、白装束も破れ血色に染まっている。周りの隊員は全滅し、まだ息があるのはフタバのみ。


「あれ?魔族担当の守護者って女だったんだ。なんだよ、最初から教えてくれれば殺さなかったのに」


 堕落序列4位デンジャーフォーは体から複数の鎖を生み出し、フタバの首を締め上げるとそのまま宙へ浮かす。血を吹き出す彼女に追い討ちをかけるように全身を鎖で拘束する。


「ぐっ……」

「それは無理だな、なにせ第一目標が大陸守護者の抹殺だ」


 序列3位ベルセーブは両手から湧き出ている複数の刃に付着した血を払った。今し方、戦人序列の二人を切り刻んだ刃だ。


「にしてもサタニア様がいなかったら俺ら死んでましたもん。クロッキーも運がなかったな」


 老種の靄に似たもので全身を覆っている黒い影は、魔族の領主サタニアだった。


「やはり強いのだな大陸守護者は。だが私たちの理想のため死んでくれ」


感情のないこもった声で吐き捨てると、そのまま霧のように消えていった。

 ベルセーブは右腕から刃を作り出し、そのまま拘束されたフタバの顔に向けられる。


「守護者という運命を恨め。お前はなにも悪くない——」



——軍を離れる前日の朝、目が覚めると適当に部屋の片付けを始める。昨日みんなに連絡しておいたため、これから俺の部屋に集まってくる。それもあるが数日部屋を留守にするため、ある程度片付けしておこうと思った。

しばらくして部屋のチャイムが鳴る。ドアを開けるとカイムとサライスが立っていた。


「あれ……?ラミアンは?」


男二人の姿に物足りなさを感じる。ちなみに由姫には散々事情も話していたため、特に誘うことはしなかった。


「なんか用事あるんだってよー。いつものことだろ」


まぁ予想してたし別にいいんだけど、後から説明するのは面倒だなと思ってしまう。二人を部屋に入れて一応鍵をかけておく。


「……で、話ってなんだ?」

「ああ、一旦明日から里帰りしようと思ってな」

「ええ!?帰るのか!……今まで一度も帰ったことなかっただろ?」


驚きから気遣わしげな様子に変わっていくサライスと他人事のように聞き流すカイム。このように異端討伐軍に入ったものたちが故郷へ帰ることなどほとんどない。みんな何かしら事情を持って軍に入ったため、任務で訪れることはあっても自分から戻るような真似はありえない。


「そうなんだけどな。一応理由があって……多分領主からなんだけど手紙が来たんだ」


 ざっくり竜人族との戦争、残してきた小夜の心配事を話した。そして最後に由姫も同行することを伝える。すると、腕を組んでじっくり考えている様子のサライスが口を開いた。


「なるほど、わかった。それなら実際に戻って確認したほうがいいよな……。でも、でも由姫ちゃん連れてくのか!?」

「はぁ?悪いかよ」

「連れてくこと自体はいいんだよ。だけどな……カイムとラミアンの三人にしないでくれよ!!」


ああ、そういうことか。仲の悪い二人の間に入って任務に行くのが耐えられないとそう言ってるんだ。そんなカイムはつまらなそうに肩肘をついて、こちらに視線を向ける。


「俺から言うことは何もないぞ。……それよりサライス、夜月がいないなら任務には行かないぞ。俺たち三人で統制が取れるワケがない」

「いや、それお前が言うかぁー?」


サライスに同感だと思ってしまったことを心の中で謝罪する。確かに三人で任務に行って全員が無事に帰ってくる未来を想像できない。


「サライス、お前が前線に出れれば強いチームになると思うんだけどな」

「何言ってんだよ。索敵も結界張れるやつもいない、そんなのただの脳筋チームじゃねーか」

「それ含めてもお前は弱い」

「はぁー!言っていいことと悪いことがあるだろー。……だからモテないんだよ」

「年中そんなこと考えてるのはお前だけだ、繊細メガネ」

「メガネは関係ねー、おしゃれだ!このとんぱち野郎!!」


またも止めるのは俺の役割らしいのでその場に立ち上がる。部屋を荒らされる前に止めなくては。


「もうやめろよ。……それにサライス、モテるは関係ないだろ」

「なに、そこそんなに重要かぁ?」

「ああ、敢えてそこを指摘させてもらう。それはどんな男にも刺さる言葉だ!軽々しく言ってはいけないんだ!」


堂々と自分の思ったことを言い放つ。男の体裁は守らないとな、なんて思いつき即興で言ってみた。


「お前そんなキャラだっけ」

「そんなお前が連れてきた由姫はどうなんだよ」


 やはり口は災いの元だったか。後悔しつつも男だけの空間に見栄も嘘もないので正直に答える。


「どうって、前に話した通りだ。別に関係を持っているわけでもない」

「あ!でも、昨日廊下で二人に会った時はあやしい雰囲気だったぞ!二人して意味ありげな視線を交わしてたし。……それで思い出した、柊お前ふざけんなよ、薄ら意識の中で廊下の修繕費払えって管理人に言われて俺払ったんだからな!!」


この誤解を招く言い方はわざとなのか、できればやめてほしい。それよりサライスを吹っ飛ばしたことすっかり忘れていた。あの後、寮に戻ってきた時には廊下も元通りだったので意識が向かなかったのだろう。


「いやそこは払うなよ。俺のせいにしとけばいいだろう」

「その通りお前のせいだよ!払っちまたのはミスったけど……」

「んなことはどうでもいいが夜月、結局付き合ってるのか?」

「付き合ってない。あの時は相談ついでに一緒に飯食っただけだ」

「相談ねぇ」


何か別の意図もありそうな視線を向けてるが、無視して話を再開する。


「とりあえず、数日で戻る予定だから頼んだぞ」

「てか、それ俺も行けばいいじゃん……」

「は……?」


サライスが当たり前だろと言わんばかりに見つめてくる。


「だからどうせ三人じゃ任務に行かないんだし、俺はこの二人と留守番は嫌なんだしさ」

「別にどっちでもいいんじゃね」


カイムはふんと鼻を鳴らし顔を逸らす。確かにサライスを連れて行かない理由はないんだけど、そうなんだけど……。


「まぁ、別に俺はいいけど」

「よし!じゃあ決まりだ、出発は明日だよな。置いていくなよー、置いていったらマジでキレるから」


物騒なことを言い残し部屋から出ていった。そしてカイムと二人になる。


「残念だったな、二人っきりになれなくて」

「なんのことだかわからない」


目を逸らし片言気味に返す。するとカイムは表情を変えてこちらを見る。


「……真面目な話、あっちでなにが起こるか分からないだろ。あいつも何かしらには使えるからな」


確かにいくら故郷とはいえ……いやむしろ故郷だからこそ一悶着あるに違いない。


「そうだな。サライスがいれば安心だ……ならカイムは来ないのか?」


 この際だ、三人も四人も変わらない。実際、本当に帰る気があるのなら一人で戻る選択を取るがそんな気は微塵もない。どうにか小夜を含めた状況把握をしておこうと思ったわけなので、大勢で行けばむしろ多少圧力はかけられるだろう。


「いや俺は行かない。魔族の動きが最近活発になっていてな……俺も里帰りとまでは言わないが魔族領地関連の依頼を周ろうと思ってる」


 近頃、魔族の連中が周辺の領地に攻撃を仕掛けていると噂も聞いている。鬼族といい何故か争いが活発化してきているのも事実だ。


「そうか……無茶はするなよ」

「他人に言えた義理じゃねーな」


そう言いながら立ち上がり、そのまま部屋を出ていった。


——誰もいなくなった部屋でふうっと一息つく。なんだかんだ二人は心配してくれてるらしい。仲間の有り難みを改めて感じる。あっちにいた時は考えられなかった、領地を出て中央都市へ行っても一人淡々と生きていくんだろうなと思っていた。それが今は五人のチームまでできた。これだけで領地出てよかったと思わされる。

こんなに順調でも気を引き締めるタイミングは逃しては行けない。紡がれた日常は一瞬の綻びで無茶苦茶になる。昔の最低な日常に戻らないように足踏みを止めては行けないんだ——。


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