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「二、ニコルお嬢様!?」
「あ、あの……」
「どうしてこちらに?」
ニコルを見た瞬間、侍女たちの態度は一変した。焦る侍女たちを前にニコルは静かに怒りを爆発させていた。
「ジュリエットに何をしていたの」
彼女はもう一度問い詰める。
ジュリエットという見習い侍女は驚いた様子で目を見開いてニコルを見ていた。黙り込む侍女たちにニコルは続けた。
「今回が初めてじゃないでしょ。前からジュリエットに厳しいのは知っていたけれど、ここまでだったとはね……」
「私たちは……その……、というか、貴女、告げ口をしたの?」
一人の侍女が勢いよく視線をジュリエットへと向けた。ジュリエットの身体がビクッと震える。
「違うわ」
すぐさまニコルが否定した。
「彼女は私の侍女よ? 気付かないとでも?」
声を荒げることなく話す幼い女の子に侍女たちは完全に気圧されていた。そんな女の子から俺は目を離せずにいた。
「貴女たち、全員解雇よ」
「「「え?」」」
侍女たちの声が重なる。
まさかこんな子どもにクビにされると思わなかったのだろう。侍女たちは目を丸くして、状況を読み込めないでいる。
なんとも滑稽だった。
「最初から何もかも完璧にできる人なんていないわ。できないことを責めるんじゃなくて、できるようになるまで導く。それが先に立つ者の役目でしょう? それなのに貴女たちときたら、ジュリエットに幼稚な嫌がらせをし続けているのだもの。この家の侍女にふさわしくないわ」
「私たちは嫌がらせなど……、指導です」
「ジュリエットの物を隠したり、意図的に間違ったスケジュール伝えたりするのが指導なの?」
ニコルの指摘に侍女たちの顔からさっと血の気が引いた。
「ジュリエットが真面目に仕事に向き合っている姿を私は見てきたわ。私の前では辛い表情一つせず、卑劣な虐めに戦ってきたのをちゃんと知ってる。だからこそ、貴女たちみたいな人間がムカつくの。人を貶めることでしか優位に立てないなんて、あまりにも浅ましいわ。恥を知りなさい」
ニコルのその堂々した態度はきっと見習い侍女にとってヒーローのように映っただろう。
侍女たちは恥を突かれたように、今度は揃って顔を真っ赤にしていた。
後に、その侍女たちは正式に解雇されたそうだ。
このことがきっかけで、俺はニコル・グレイスに惚れ込んでいくこととなる。
先輩侍女たちが去った後、ニコルはジュリエットの頭に乗せられた雑巾を取ってあげていた。躊躇いもなく侍女が雑巾を持ったことに驚いた。
ジュリエットもすぐさま「お嬢様の手が汚れます!」と言っていたが、ニコルは「私だけが綺麗なままでいる方が嫌だわ」と笑った。
五歳とは思えない品格のある笑みだった。
「どうしてそこまで……」
ジュリエットは瞬きを忘れてニコルをじっと見ていた。
「貴女は私の侍女だから。私は貴女を守らないといけないの」
その時、芯のある賢いニコルの言葉にジュリエットだけでなく俺の心も見事掴まれた。
ああ、彼女が欲しい。
心の底からそう思った。これほど誰かに執着するのは初めてだった。
それから「お前の妹に興味が湧いた」とエヴィンに伝えると、今まで見たことがないほど彼は驚いていた。
エヴィンは「は? え? は?」と暫く困惑していた。
あのエヴィンの様子もなかなか見物だった。
次またニコルに婚約理由を聞かれたら、ちゃんと答えよう。
初めて恋に落ちたのが君だった、と。




