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「私はただ可能性の話をしているだけです」
俺を落ち着かせるような口調でアッシュは言葉を発する。
……そんな可能性が少しでもあるのなら、俺が潰す。
ニコルの存在は俺の日常を彩った。
俺とは違う愛の種類だが、彼女から愛を伝えられるたび、愛おしさで胸がいっぱいになった。
お菓子だってニコルが作っていることは分かっていた。いつも貰うと、暫くは部屋の机に飾っていた。あまりの美味しさと嬉しさでいつも悶えていた。
ニコルが俺に愛を伝えるという行為はどこか使命感があるように思える。
だけど、それでも良かった。彼女が僕のことを意識してくれていることが何よりも幸せだ。
「ニコル様が社交界デビューされたということは、これからの殿下の言動も変えていくべきです。もう、殿下だけの瞳に映るニコル様ではなくなるのですから」
「さっきから喧嘩を売っているのか? アッシュ」
「まさか。殿下を敵に回すほど私は愚かではありません」
アッシュは俺の鋭い視線ににこやかに微笑み、彼は話を続けた。
「ニコル様は羽ばたきました。ニコル様を『王子妃となる令嬢』と他貴族との繋がりを断絶するわけにはいきません。気高く美しい彼女はこれから社交界で輝きます。……殿下がニコル様との接し方をどう変えていくのかが楽しみです」
この男、この状況を面白がっている……。
アッシュの言う通り、俺は今日まで鳥かごに閉じ込めるようにして、ニコルを独占してきた。
王族と婚約している令嬢が社交界に出る前から特定の貴族を贔屓することがあってはならない、と前代未聞の条件を付けた。
建前は公平性だったが、本音は全く違う。
「殿下の独占欲の強さをニコル様が知れば、どうなるんでしょうね」
アッシュのその声音には、隠しきれない愉悦が滲んでいた。
本当にうるさい男だ。
ニコルとの婚約を決めた日のことを思い出す。
一目惚れだった。
八歳の頃、グレイス家の屋敷にエヴィンを訪ねに行った。
エヴィンに妹に会うかと言われたが、俺は断った。
俺は当時から女嫌いだった。
物心ついた時から、俺よりもずっと年上の女性たちが露骨に色目を使って近づいてきた。
甘ったるい視線も媚びるような笑顔もぞわっとするような猫なで声もうんざりだった。そんな環境が反吐が出るほど嫌いだった。
だから、エヴィンの妹にも会わなかった。
彼の妹であるニコルは五歳だと聞いていたが、いつか俺の顔と地位を求めて近づくのだろうと思う不快さが込み上げた。わざわざ今会う必要はない。
…………だが、偶然彼女を屋敷の中で見かけた。




