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俺の婚約者がめちゃくちゃカワイイ。
天使なのか? いや、女神かもしれない。
今日の社交界デビューを阻止したいほど誰にも彼女の存在を知られたくなかった。しばらくはニコルの話題で持ち切りになるだろう。
ニコルの姿を知っているのは俺だけが良かった。
あの会場の全員がニコルに釘付けだった。目を奪われるほどの美貌に抜群のスタイル。彼女は可憐な美少女から絶世の美女に成長した。
あんなのずるいだろ。
「そろそろ、殿下から愛を伝えては?」
ニコルが去った後、部屋にアッシュが入ってきて、俺を見るなりそう言った。
俺はいつもニコルの可愛さに悶絶している。
何度顔を合わせても慣れることがない。
むしろ知れば知るほど、目に映る彼女のすべてが愛おしくなっていく。彼女の表情も声も仕草も、全てがどうしようもなく好きだ。
彼女に会うたびに胸の中に溢れるものが多すぎて、言葉が追いつかない。最上級の誉め言葉をずっと探している。
今日のドレス姿だってそうだ。
眩しいと思うほど彼女によく似合っていた。本当は誰よりも先に見たかった。
「流石にニコル様が可哀想です」
「可哀想?」
アッシュの言葉に俺は反応して、眉をひそめる。
「ニコル様は毎日愛を伝えてくださっているのに、殿下からは何一つ返答がないなんて……」
「彼女が伝えてくれている言葉はいつだって噓偽りはない。だが、色が見えない。恋や愛の色がないんだ」
俺の身体には魔族の血が流れている。
そのおかげで魔法が使えるし、特別な目を持っている。
人の言葉には、その人の感情が宿る。俺はその感情を「色」として見ることができる。
見える色は、たった三つ。
真実は黄色。嘘は青。そして、愛や恋を含んだ言葉は赤く染まる。
それ以外は分からないが、案外この能力は役に立つ。
「今はまだニコル様は恋愛感情に気付いていないだけかもしれません。思っているだけではいけません。言葉にして、行動に移さないと、ニコル様に何も伝わりません」
いつもアッシュに説教をされる。俺もそんなことは分かっている。
だが、難しいのだ。
いい加減、少しくらい慣れてもいいはずなのに、むしろ会うたびに酷くなっている気がする。
「婚約して十年、今さらだと彼女も思うだろう」
「このままずっとニコル様に何も伝えないおつもりですか?」
「そういうことではないが……」
「殿下、これは緊急事態です。今、ニコル様に想いをお伝えしないとどんどん言えなくなりますよ」
アッシュが緊迫した表情で俺に圧をかける。
ごもっともだ。婚約して以来、俺が彼女に愛を伝えるタイミングを完全に失っている。手紙も返せていない。
「ニコル様が心移りなさる可能性もありますよ」
なんだと……?
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がひどく冷えた。吐き気がするほどの嫌悪が込み上げる。
ニコルがいつか自分以外の誰かを見つめる。自分ではない誰かに笑いかけ、その人を愛する。
そんな未来を想像しただけで、耐え難かった。
ニコルの心が離れていくことも、その心を他の誰かが手に入れることも、許さない。
「ちょっと、落ち着いてください」
アッシュは慌てた様子で声を出す。
気づけば、部屋の窓ガラスにひびが入り、花瓶が床へと落ちていた。室内の温度は一気に下がり、凍えるような冷気に包まれた。
腹の底が煮えくり返り、魔力を放っていた。ニコルのことになると感情の制御ができなくなってしまう。
「ああ、そういえば、婚約解消したらニコル様は殺されるんだった」
ボソッと誰にも聞こえないほどの声でアッシュは何か独り言を呟いた。




