第7話 貴子と楓
貴子達が高校生の頃、スマホが普及し始めた頃です。ガラケーの終末期です。
「どれがいいかしらね。」
吉田さんが並んでいる水着を一つ手にしては戻すという作業を繰り返していた。
昨年モデルとはいえ、色々とデザインは豊富にあった。あるにはあるがサイズが…
吉田さんや私に合うサイズがなかなか残っていない。小ぶりのお胸の方ならデザインも豊富にあるのに。
オッパイが大きいと損する事が多いのが現実。
「これにしようかしら。」
吉田さんが手にしていたのは、黒のビキニだった。
「試着してくるわ。」
そう言って彼女は試着室へと向かった。私は並んで吊るされた水着に目を落とす。私が見ているハンガーには大きな胸向けと書かれた札がかけられていた。
手に取ってみる。ビキニだった。でと普通のビキニでない。トップスはオッパイの先が隠れせるくらいの三角の布。ボトムは紐ですか?と言っても過言ではない。これで隠せるの?と言うくらい過激だった。これ、マイクロビキニって言うヤツだよね。絶対におけけを剃らないとダメだよね…
こんなのプールや海で本当に着用するのかしら?何かのプレイ用でしょ?
ここってデパートの売り場なの?大丈夫?こんなのを売って。行った事ないけど、アダルトショップの間違いじゃなくて?そんな店、行ったことないけど!
そんな水着だらけの中に一つだけ異なるビキニがぶら下がっていた。手に取ってみる。白のビキニだった。
隠さなければダメなところの布面積は普通。お尻もTバックではなくて、ちゃんと布がある。気になるのは、トップスが結ぶタイプだと言うこと。確かホルダーネックって言うんだっけ?
ストラップの紐は首の後ろで結び、ベルトは背中で結ぶタイプ。一人で着るには少し自信がないが、私の胸に合いそうな水着が他に無い。
値札を見ると九千八百円と赤字で書かれていた。その下に赤ペンで消されていた値段は四万円。本当に安くなってるのね。
キープの意味で手に持ったまま、他にないか探し続けた。
「お待たせ。」
吉田さんが帰ってきた。
「私、これを買います。」
どうやら試着して気に入った様だ。
「佐伯さんは決まりましたか?」
「これにしようかなって。」
私は手に持っていたビキニを彼女に見せた。
「いいと思うわ。佐伯さんに似合いそう。試着したの?」
「今から試着してみようかと。」
「では早く試着しましょう。手伝います。」
「え?」
「それってストラップとか結ぶタイプでしょ。結びにくいから手伝いますよ。」
「いやいや、そこまで…」
「いいから、いいから。いきましょう。」
吉田さんに引きずられる様にして試着室へと入る。
「吉田さん!」
「はい、なんですか?」
「なんですかじゃありません。何を自然と一緒に試着室に入ってるんですか!」
「手伝う為ですよ?早く脱いで。」
「いやいや、手伝わなくていいから!」
なんとか吉田さんを試着室から追い出して制服を脱ぎ、水着を着用してみる。試着の時、履いている下着の上から水着を着て下さいと店員に言われていたので、その通りにすると下半身がなんとなく残念な感じになった。でもサイズ的に問題は無さそうだ。鏡に映る自分の姿を見て、少し大人になった気がした。
「佐伯さん、入るわよ。」
良いとも言ってないのに吉田さんがカーテンを少し開けて試着室に入ってきた。
「お…大人ですねぇ。」
「えへへ。ありがとう。」
「これはこれで不味いかも…」
「吉田さん。何か言いました?」
「いいえ、何も。これにするのですか?」
「他に良いのが無かったのでコレにします。」
「そうですか。では、服を着るのを手伝いますね。」
「だから、要りませんって。」
再び吉田さんを追い出して制服に着替える。
試着室を出て、吉田さんと一緒に売り場専用のレジに行き、支払いをした。
「佐伯さんはもう、帰りますか?」
「そうですねぇ。」
「時間があるのなら、お茶をしません?」
「良いですよ。喉も乾いてきたところだし。」
デパートの一階にある喫茶店へと移動した。
吉田さんはブレンドコーヒーを、私はレモンティーを頼んだ。
「水着が安く買えてビックリしました。」
「私達は高校生ですもの。賢く買い物をしないとお金が足りなくなってしまうわ。」
「吉田さんって凄いんだね。」
「そんな事ありません。私の家は母子家庭で、さほど裕福ではありませんから。良いものを安く買うコツは自然と身につきました。」
「なんか、ごめんなさい…」
「気にしないで。私自身は楽しんでやってるから。」
吉田さんの家庭環境を聞いてしまい、なんだか気まずい雰囲気になった。沈黙がしばし続く。
「ねぇ、佐伯さん。」
「ふ、ふぁい?」
クスクスと吉田さんが笑った。
「私、佐伯さんといると楽しいの。貴女みたいな人、初めてだから。」
「そんな事、言われたの初めて。」
「ねぇ、これからもずっと仲良くしてくれないかしら。」
「私なんかで良ければ、喜んで。」
「ダメよ。そんな言い方。私は貴女だからいいの。」
「それって私のオッパイが大きいからとかじゃないですよね?」
「それもあるわね。」
「あるんかい!」
プッ…
クスクス…
吉田さんも私も吹き出してしまった。
「佐伯さんは携帯電話を持ってる?」
「持ってますよ。」
「連絡先を交換しない?」
「ええ。」
私は鞄から折りたたみ式の携帯電話を取り出した。
吉田さんも鞄から携帯電話を取り出す。
お互いの携帯電話を赤外線通信モードにしてプロフィールを交換した。
電話帳に吉田さんの電話番号とメールアドレスと誕生日が追加された。
「吉田さんの誕生日は9月18日なんだ。」
「佐伯さんは8月2日なのね。」
「私の方が少しお姉さん!お姉さまとお呼び。」
「おねぇさまぁ〜。」
「やっぱり普通に名前で呼んで下さい。」
「貴子。」
「ひゃい?な、なんで急に?」
「貴子が普通に呼んでって言ったので。」
「あ、そ、そうね。吉田さんが急に名前を呼ぶからビックリしちゃった。」
「ダメよ、貴子。私の名前は楓。」
「か、楓。」
「貴子。」
「なんだか、バカップルのやりとりみたいで恥ずかしい。」
「確かにそうね。」
「お待たせしました。」
ウェイトレスが注文したコーヒーと紅茶を持ってきた。
楓がコーヒーを口にする。
私も紅茶を一口飲んだ。
「貴子。」
「はい?」
「呼びたかっただけ。」
「やめてよね、楓。背筋がゾクゾクする。」
私達はアハハと笑った。
楓が口を開けて大笑いするのを初めて見た日だった。
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(`-ω-)y─ 〜oΟ




