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貧乏男爵令嬢なこの私に、富豪の貴公子が即落ちするとかありえない!  作者: 秋灘 才


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9: 簡単に決断できる気がしない

 彼が帰宅してから速攻部屋に篭ってブレスレットを封印し、呻きながらひとり反省会をしていた私だけれど、夕食前にはなんとか気を落ち着けることが出来た。そして両親と夕食を食べながら、今更な疑問が浮かんでくる。


「結局、カーディス伯爵令息は何をしにきたのかしら」

「何をしにって、お前との顔合わせだろう?」

「まぁ、そうなんだけど」


 いらない記憶は傍に避けて、改めて今日のことを思い返す。


「でもなんだか、雑談しかしていなかったなと思って。お父様に交際の許可を願うでもなく、今後について話をするでもなく、私について詳しく聞くでも自分について話すでもなかったでしょ?」


 もっとこう、今後についての話し合いみたいになるかと思っていたので、ほぼ雑談で終わって肩透かし感があるのだ。妻だの将来を見据えてだの言われて身構えすぎていただけで、本当に少しずつ互いを知るところから始めてくれる気なのかもしれない。


「でも彼の方は、お前の性格をなんとなく理解して帰ったと思うよ」

「うぅ」


 ちなみに私としては急に彼が近づいてきた理由を探りたかったのだけれど、タイミングを測っているうちに彼のペースに乗せられ、それどころではなかった。


「私は彼がすごく優秀な人なんだなってくらいしか分からなかったわ」

「あら、とっても楽しそうにお話ししてたじゃない。エイリーンも彼のことを気に入ったのよね? 名前で呼び合うところなんて、お母様見ていてどきどきしちゃったわ」

「うぐっ」


 母の言葉に、食事が喉に詰まりそうになる。慌ててお水を飲んでいると、父がははと笑った。


「単純で可愛いうちの娘には、あんな頼もしい婿が来てくれると安心なんだけどねぇ」

「そうねぇ、あなた」


 ああ、両親はすでにカーディス伯爵令息に懐柔されてしまった。でも単純で頼りない自覚はあるので、両親の言い分もよくわかる。

 ウェルズ侯爵家後継のキャロライン様くらい才気溢れる娘ならまだしも、私は才能も容姿も平凡極まりない後継なので、きっと心配をかけてしまっているに違いない。


 残念ながら、女性というだけで侮られがちな世の中だ。特に貴族間ではそれが顕著で、ミドレ家のように子どもが女しかいない場合は縁者から養子を取ったり、早々に婿を決めて領地や事業の運営を学んでもらうことが多い。


 両親も私もここ数年はいい縁談がないかと親戚を頼ったり、若者向けのパーティーに積極的に参加したりしていたけれど、悲しいかな時代遅れの事業に力を入れる末端男爵家の地味女なんて、縁づいてもなんのメリットもないとやんわり振られてばかり。こちらも誰でもいいわけではないので相手はなかなか決まらず、今に至るのだ。


 そんな状態から少し歳は離れているとはいえ、今世代の結婚したい男性ぶっちぎりの第一位であるカーディス伯爵令息に見初められるなんて……。やっぱりにわかには信じ難い。


「本当になんの裏もないのかしら。むしろ伝統薬を足がかりに医療分野に参入したいとか思ってくれているなら、大歓迎なんだけど」


 医療分野はウェルズ侯爵家が幅を利かせており、カーディス家はさほど存在感がない。それもあって事業提携してくれたことには驚きもあったけれど、今日彼が語ったような展開を初めから頭に浮かべていたのなら、ミドレ家との事業提携も私との縁組も腑に落ちる。

 けれど私の言葉に、父は首を振った。


「仮にそういう目論見があったとしても、すでにうちとは提携しているだろう? 結婚までするメリットはあちらにはないさ」

「ま、そうよねぇ」


 だとすると、面白い女説がますます信ぴょう性を帯びてしまう。それはそれで喜んでいいものかと難しい顔をしていると、母が朗らかに笑った。


「今日の情熱的なアプローチを受けてもまだ疑ってるなんて、本当にエイリーンったら心配性ねぇ。無駄に踏ん張ってないで、さっさと恋に落ちてしまいなさいな」

「いやよ! 落ちた先は地獄かもしれないじゃない。こっちが本気になった瞬間、飽きられて捨てられて周りに嘲笑われるのよ。とても受け入れられないわ!」

「想像力が豊かなのは結構だが、どうせならいい方に働かせたらどうだい。お前に好意を持ち、うちの事業に理解を示してくれるどころか発展させる知識も経験も人脈もある男が夫になれば、お前も安心できるんじゃないか?」

「そう、だけど。でも彼がその気になれば、私の意見なんてプチッと捻り潰せるでしょ? 優秀な人と結婚できたらいいなって思ってたけど、優秀すぎる人だと逆に怖くなるんだって初めて知ったわ。展開も急だったし想像を超えた人だし、簡単に決断できる気がしないの」

「まぁ、その気持ちもわからなくはないよ。結局は互いを知る時間が必要ということだね、エイリーン。あちらは忙しい方だから、会える機会を無駄にしないようしっかり話をしなさい。互いのことがわかってくれば、次の判断もできるようになるさ」

「……うん」


 父の言葉に頷いて、夕食を口に運ぶ。

 今回は聞きたいことを全然聞けなかったから、次会うときには色々聞いてみよう。そうしたら、どうしていいのか分からないだけの状況から、少しは前進できるかもしれない。


 よくない想像に時間を使うより、良い未来に繋げるにはどうしたらいいかを考えるべきだ。家のこと、事業のこと、プライベートのこと。まずはもう一度彼に聞きたいことを整理して、次の面会に備えなければ。


 そう心を前向きにして、夕食後から早速さまざまな質問事項を書き出したりした私だけれど、僅か2日後。思いがけない出来事により、その作業の大部分は無駄になってしまうのだった。


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