第60話 義勇軍の加護
前回のあらすじ
シエルは恐怖から逃れるために、他人に罪をなすりつけどこへも行こうとはしなかった。
人間の弱さが出たとアグライアは思う。
しかしそれは強なるために必要な事でもあった。
シエルが頑なに参加しようとしていないブリテン連邦への派遣はアレクサンドルとイヴァンを中心に話しは進んでいた。
※※※※※※
「多くの兵は割くこと不可能だ。そこで学生たちではあるが実力のあるお前たちを派遣することにする」
ブリテン連邦への派遣を任された学生たち。
「今回の派遣義勇軍のネームドはニンフとする」
【派遣義勇軍参加者】
団長:イヴァン
隊長:アレクサンドル
隊員:アレス、レイ、ソフィア、アンナ、リン
「シエルは参加しないつもりか?」
「知らないよ」
アレスの口調は怒っていた。
レイは参加しないことを告げる。
「そうか…シエルの力もあればいいのだが」
「仕方ない。無理に連れて行っても邪魔になるだけだ。今回はアーサー王の命令だ。ミスはできない」
「では出向は明日にする。場所はノルエ領のベンゲル港だ!」
こうして派遣義勇軍はドミトリー王の命令でブリテン連邦で待つアーサー王の援軍に向かうことになる。
ノルエ領は同盟関係にあり、ヴィルヘルム家と仲がいい。造船所や港がある領地でブリテン連邦までの船が出ている。
しかし心配事が1つあった。
ヴィルヘルム家の御子息であるカールがミハエルの手によって殺されていることが知られている。
同盟の破棄は無かったもののいい関係ではないのは確かである。
「ヴィルヘルム家が手を出さないか心配だな」
イヴァンのこの心配は的中してしまうのであった。
その夜…
レイとディーネは会話をしていた。
「私はレイ様に御同行致します」
「ここに居ても大丈夫ですが?」
「私はロマノフ家と関係を結んだ精霊です。ドミトリー家に関わる必要はありません。それにここにいると嫌な感じがするのです」
「嫌な感じ…がするというのはどういうことでしょうか?」
「それが何かはわかりません。それにブリテン連邦には私の息のかかる街もあります。そこに聖堂を構えるのもいいと考えております」
「確かにここにディーネ様が居られるのは危険がありますわ。ではご一緒しましょう」
「お願い致します」
そして次の日__
派遣義勇軍はベンゲル港にいた。
用意された船はヴィルヘルム家が所有するもので立派な船であった。
派遣義勇軍以外にも、マムルーク家やアナスタシアも一緒にブリテン連邦に行くことになった。
ソシロア領の戦況はいいものではない。
アーサー王は快くソシロア領の民を受け入れてくれたのだ。
「よしそろそろ出発するか」
「イヴァン!しっかり頼んだぞ。あとアンナのこともな」
「承知しました!では行って参ります」
「こちらの状況もよくなり次第で、我が息子と娘を派遣する」
「有り難き心遣い。楽しみにしております」
こうしてドミトリー王とユーリ、精霊団団長に見送られるように船は出発した。
船が港を離れ、見えなくなったところで暴動は起こる。
同盟国であるはずのヴィルヘルム家が反旗を翻すようにドミトリー王に刃を向けたのだ。
だがこのことは派遣義勇軍のメンバーは知らない。
港は騒然としてしまう。
「兄様の…兄様の仇を取る!」
そこにいたのは怒りに満ちたルイーダの姿であった。
「ドミトリー王よ!今回の失態の罪を今ここで償ってもらう!」
「ドミトリー様、お逃げ下さい。殿は私が務めます」
声を上げたのはマルク・ノヴァコフだった。
精霊団に連れられるようにドミトリーたちは命からがらで第1主都・ペテルブルクへと逃れた。
「まさか…ノエル領と戦争になるとは…」
ノエル領と戦争になるとブリテン連邦への道は断たれ、魔導具の物資が届くことはできない。
それは魔導具を使う精霊団にとって大きな打撃となってしまうのであった。
「これでは板挟み状態です。北にはノエル領。南には反乱軍…」
「だが好きにさせるワケにもいかぬ。対抗するしか」
だがこの戦争も救世教による介入があったことを知るのは、随分先になるのであった。
そしてヴィルヘルム家が用意した船でも異変は起こる。
〜ブリテン連邦沖付近〜
船足も軽やかに順調に進み続けていた船が、突如爆発して大破したのだ。
船底には爆薬が大量に積まれていた。
これもヴィルヘルム家による策略であった。
船は海の底に沈み、乗組員の行方は不明となってしまっていた。
派遣義勇軍のメンバーもその中に含まれることになった。
この一報が届くのは事件から2日経ってからであった。
その情報を耳にしたシエルは呆然とした。
何も考えることが出来なくなった。
仲間の生死は不明となり自分1人がこうしてノウノウと生きているのだから。
だがこうもしてはいられない。
今は仲間の安否をこの目で確かめたかったのだ。
シエルはブリテン連邦へ行き、詳細を確かめようとした。アグライアやディーネもついている。そんな簡単に死ぬとは思えないでいた。
だがブリテン連邦へ行く方法はない。
ソシロア領とノエル領は対立関係になった以上、入領することは不可能だ。
またブリテン連邦も知らぬ土地。
誰か必要だと考えていたときに1人だけ心当たりがある人物がいることを思い出した。
ダービーだ。
だが精霊降臨祭以来、ダービーには会ってはいない。先ずはダービーを探すことにした。
「ダービーを見つけないとブリテン連邦へは行けない。頼む、生きてここにいてくれよ」
街で色んな情報を聞き出してダービーを探し続けたシエルは1つの情報を得る。
ペテルブルクの外れた森に不思議な形をした乗り物があるという情報だった。
「魔導具の可能性があるな。ダービーのことだ。ブリテン連邦へ帰ろうとしてる」
シエルは情報を元に森へ入り、ダービーを探し出した。
「ダービー!」
「うぉ!びっくりしたですぜ。ってシエルじゃないですぜ?無事だったのですぜ」
「それはダービーも同じだろ。良かった生きていてくれて」
「いやー半分死んだようなもんですぜ」
「それよりブリテン連邦へ帰ろうとしてるだろ」
「いやー帰るタイミングを見誤ったですぜ。まさかノエル領と戦争になるとは思って無かったですぜ」
「それで自分で帰る船を作ってる。俺も一緒に連れて行ってくれないか?」
「シエルも一緒にですぜ?」
「約束しただろ!ジョーカーにも合わせてくれるって」
「確かにしてたですぜ。ただこれ1人乗り用ですぜ。2用に改良するのには時間がかかるが、それでもいいなら乗っけてやるですぜ」
「本当か!?頼む。今はお前しか頼めないだ!」
シエルはブリテン連邦への切符を手にして、派遣義勇軍のメンバーの安否を確認するために、秘密裏にブリテン連邦へ向かうのであった。
ご覧いただきありがとうございます。
評価やコメントなどしていただけたら嬉しいです。
引き続き『精霊の加護』を宜しくお願いします。




