第59話 惨めの加護
前回のあらすじ
ソシロア領は第1主都・ペテルブルクを残し、他の主都は壊滅もしくは魔物たちの占領下になった。
精霊教は第1主都・ペテルブルクを守るべく、世界中の精霊団を招集させ任務を与えた。
そんな中、同盟国であるブリテン連邦のイング王国のアーサー王から1つの依頼が届くことになる。
※※※※※※
アーサー王の依頼は援軍要請であった。
だが精霊団の数は今回の事件で大幅に人数が減ってしまい、人員をブリテン連邦へと割く余裕などなかった。
そして白羽の矢が立ったのが学生たちであったのだが、シエルはその言葉に耳を傾けようとしなかった。
「シエル。ずっとこうはしていられません。依頼も来てますし、ブリテン連邦へ行きましょう」
「…無理だ。俺じゃ無理だ。どこへも行きたくない」
まるで子どもが駄々をこねるかの様に何に対してもこう答えるのであった。
アレスやレイはシエルが心配でずっとここにいてくれていた。
「シー兄…ルミ姉を助けに行こうよ。僕は嫌だよ。ルミ姉がいない旅なんて」
「助ける?どこへ?どこにルミが居るんだよ?」
「それを探すんじゃない!」
「探してどうなる。見つけてどうなる。ルミはルミじゃないんだ。もう助けられないさ。誰もがあの力の前では平伏すしかないんだよ!」
「どうしてそんなに弱気なんだよ!」
シエルの弱気にアレスは遂に声を荒げ始めた。
「シー兄は特別な人間なんでしょ?僕よりずっと強くて力だってある!なのにどうして諦めるのさ!僕は強くなりたい。父さんも母さんも魔物の病気で死んだ。その時から誰かを守れる力がずっと欲しかった。ルミ姉は待ってるはずだ!」
「勝手にしてくれ。俺はアレスが思ってるほど強い人間じゃない。特別な人間でもなかったんだよ。自分を守る力もないのに、どうやって人を守るんだよ。この手で守る数なんて1人もいやしなかったさ」
「……!知らない!僕だけでもルミ姉を探して助ける!この意気地無し」
怒りながらバタンと強くドアを閉めてアレスは出ていった。
レイは黙ってそれを見ていた。
ルミエールの件に関しては自分にも非があると感じていたからだ。
「シエル様…ルミエール様のこと関してですが、私の原因でもあります。ルミエール様がシエル様に好意を抱いていたのは知ってました。そこに私が首を突っ込んでしまったからです」
レイの言葉を聞いてシエルは開き直ったかのようにレイを責め始めた。
「ハハッアハハ…。そうさ、俺が悪いんじゃない。俺は何もしていない。レイ!お前が全てが撒いた種なんだよ!お前が…お前が心の隙を見せたことでルミは悪魔になったんだよ!俺は何もしていないし、何も悪くない」
シエルは完全に気狂いしたかのように責任を擦りつけ始めた。
レイはその言葉を聞いて涙を流しながら黙って俯いてしまったが、レオがこの状況を黙ってなどいられなかった。
「おい!この野郎!!」
レオは強く握り締めた拳でシエルの顔を強く殴った。
シエルの口と鼻から血が流れ出てくる。
「見損なったぜ。誰も守れやしない?そうさ、俺たちはちっぽけな存在だ。だがな命を張って誰かの命を守ってくれるやつもいたんだよ!今のお前には命を賭ける覚悟がないだけだろ!人を救うのに自分の命が大事で誰かを助けられないことを俺は知ったんだよ!」
「覚悟か...覚悟が無かったわけじゃねぇよ。覚悟はあった。死ぬ気で助けようと思った。でもな力の差を感じたんだよ。俺は無力で何も出来はしない。昔も今もずっと誰かを守れることなんてなかった。いや守れる方が多かったんじゃないと思う」
シエルのいう守られる方が多かったことは、イウロ領でのことである。
命をかけて守れたものなど1つもなかった。
結果として自分が傷ついてルミエールに助けられ、迷惑をかけた来たのは事実である。
「そうだとしても、お前は立ち上がり誰かを守り続けなければいけない!」
「ハッ...何ともでも言えばいい。俺が立ち上がってみろ。別の誰かが俺を守ろうと命を賭けるんだよ。俺は死なない。でも別の誰かが死ぬんだよ。その度に自分の無力を感じなければいけないんだ」
シエルはどんな言葉にも卑屈で返す。
そこには人間の惨めさが溢れ出ていた。
自分の曝け出せば出すほど、傲慢で怠惰で醜い自分が出てきてしまう。
そんな言葉を並べられたレオは限界に達していた。
父を友を目の前で失ったときに自分は報復すら出来ず逃げることしかできなかったことを今でも後悔をしているが、レイだけは必ず守り抜くと心に誓っていた。
レオをシエルをこの場でボコボコにしてやりたい気持ちでいっぱいだった。
それを止めていたのはレイであった。
自分の好きな人を傷つけられる姿など見たくなかった。
「どうした?殴りたい気持ちでいっぱいになってんだろ?いくらでも殴ればいいさ。俺はなにもしないぜ」
シエルは自分が惨めな存在であることはわかっていた。だからこそ殴られても仕方ないと思っていた。
いやレオなら容赦なく殴りかかってくると思っていた。
そうして惨めな自分に対して誰もが呆れかえってしまえばもう関わらないでいいと考えた。
しかしレイはそんなシエルにも優しく振る舞う。
「シエル様...もっと自分を大切にしてください。守られることが悪いことなのでしょうか?もっと私たちを頼ってくださっていいのですよ。仲間ではありませんか」
「仲間?その馴れ合いがこうした結果を招いたんだろ!?仲間なんて不必要じゃねぇか!信頼や友情のなんて目に見えない不確かなものだ。その物のためにルミを失ったんだぞ!失った物の方が大きすぎるんだよ!」
「確かにそうかもしれませんわ。失ったものは大きいです。しかしルミエール様を完全に失ったとは私は思いたくありませんわ。あの人の笑顔が言葉が嘘だったとは思いません。きっと助けを待ってますわ。それに私はシエル様のため、ルミエール様のため、お兄様のためならどんな試練が苦難が待ち受けても命がある限りは、決して折れたり立ち止まったりは致しませんわ。ですから私はブリテン連邦へ向かいます」
「勝手にすればいい。俺は絶対に行きはしない」
「はい...そうさせていただきます」
レイはそう言って部屋から出て行ってしまった。
残ったアグライアは人間の強さと弱さを同時に見た瞬間でもあった。
「ライア...いるんだろ?あいつらは何もわかっちゃいない。何も知らないだ。俺も変わりたいと思ってるさ。けどな人はそう簡単に変われる生き物じゃないことを知ったんだよ。俺をルミを助けたいと思っている。でも身体が心が言うことをきかないんだよ。脅えているんだよ。今も身体の奥底からルミの恨んでる声が聞こえてくる」
「ルミがシエルを拒絶した... ことからの恐怖心ですか?」
「あぁ...ルミは助けなんか必要としてはいない。本当に助けて欲しいならあのとき俺の手は弾くことなんかしなかったはずだ。だがルミが選んだのは嫉妬の手の方だった」
人間は恐れていることに弱い生き物であった。
恐怖はどんなことより弊害を生み、意志を弱くしてしまうのであった。
だがアグライアは知っている。
この恐怖に打ち勝った人間は強くなることを。
創造主は初めから強い生き物として人間を造ってなどいなかった。
魔神の圧倒的な力、どんなものでも絶望の縁へと突き落としてしまう力の前に恐怖しない存在などいない。
だからこそ仲間を友を信じ襲いかかる絶望に恐怖に立ち向かう成長させる必要があった。
しかしシエルの言うように人は簡単に変われる生き物ではない。
「シエルの言いたいことはわかりました。なので特に言うことはありませんが1つだけ聞いてください。仲間を信じてください。ルミを信じてください。誰かを信じれなくなったとき、何もかもが偽りに見え、自分を滅ぼすことになります」
そしてアグライアもシエルの元から去ってしまった。
今のシエルの必要なことは仲間を信じること。
もう1度自分で立ち上がる力を取り戻すことであった。
だからこそアグライアは強制などをしなかった。
そしてシエルのいないところでブリテン連邦に向かう準備は進んでいた。
ご覧いただきありがとうございます。
評価やコメントなどしていただけると嬉しいです。
引き続き『精霊の加護』を宜しくお願いします。




