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カンタバイレ王国にて2

 僕がハーフエルフだとかいう与太話は置いておいて、ようやく準備も整いカンタバイレ王への謁見へと出向くことになった。

 エリーは割と本気だったみたいだけれど、僕自身は半信半疑どころか八割信じていない。

 エドバルドが言っていたことが本当だとしても、僕よりエルフの血が濃いはずのお爺ちゃんや父さんは普通の人間だったわけだし、何より僕の耳は少しも尖ってなどいない。

 仮に本当にハーフエルフだったとしても、僕を見てそれを信じる人間なんていないだろう。


「はぐれないように付いて来てね」


 ルーベンさんに先導されて、お城の中を歩く。

 初めて見る異国の王宮は、ピザンのそれとはいささか趣が異なった。

 ピザン王国の宮殿にはいつもよく手入れされた絨毯がひかれていて、そこかしこに絵画や花瓶といった調度品の類もよく置かれていた。


 対するカンタバイレのお城には、その白く輝く石造りの城こそが芸術である主張するかのように余計な装飾は一切なく、女王陛下の治める城だというのにどこか無骨な感じがする。

 ピザンが外敵とばかり戦ってきた歴史があるのとは反対に、内乱が多い国だからだろうか。

 国の中枢だというのに戦いを想定している。

 今までは僕たちを護衛してくれていた聖白亜騎士団の面々も、ここに来て僅かに警戒を向けているのが分かる。

 例え不意をついたつもりでも、下手な真似をすれば見習い騎士の僕たちではあっという間に制圧されることだろう。


「ごめんなさいね不快な思いをさせて」


 そんなことを考えていると、ルーベンさんが僕の頭の中を読んだみたいに謝った。


「今日になって変な情報が入ってね。貴方たちに注意するように言われてるの。まったく、警戒されてるのを気取られるようじゃまだまだねうちの団員も」


 ルーベンさんがそう言うと、廊下に立っていた団員の一人がばつが悪そうに顔を伏せた。


「変な情報というのは? 差し支えなければ……」

「貴方たちがピザンの放った諜報員だっていうの」

「はあ?」


 それはまた変な情報だ。仮に本当でもこんな目立って身動きが取りづらい諜報員を送り込んでどうなるというのだろうか。

 むしろ本命のための囮と言われた方がいくらか信用できるだろう。


「ま、テオドールくんたちは気にしなくてもいいわよ。うちのお偉方が疑り深いだけの話だから」

「そうですか」


 しかし気にするなと言われても、そんな情報が何処から、何故入ってきたのかというのは気になる。

 厄介ごとの前触れでなければいいのだけれど。

 そんなやり取りをしている内に、とうとうカンタバイレ王の待つ謁見室へと辿り着いた。



「よく参られましたシュティルフリート伯」


 謁見室で玉座に座って待っていたのは、脹脛まである長く赤い髪が印象的な妙齢の女性だった。


 彼女がソフィア・パシオン。

 カンタバイレ王国の国主。


 カンタバイレの女王はまだ若い方だと聞いていたけれど、二十歳そこそこだろうか。

 噂では戦が起きた時には自ら戦場に立ったと聞くけれど、とてもそんな苛烈な人には見えないたおやかな女性だ。


 そんなことを笑顔を顔にはりつけたまま考えていると、いつの間にか女王陛下が頭を垂れた状態からでも見える位置まで近付いて来て、僕の右手を両手で握っていた。


「どうぞ頭をお上げになって。長旅お疲れでしょう」

「は……い?」


 一瞬動揺してしまったのを隠しながら、手を引かれるようにして立ち上がる。


 ……え? 何これ? いいのこれ?

 頭上げるどころか女王陛下と目線が同じ――いや、僕の背が低いせいで同じにはならないけれど、慣例的に考えてありえないことだ。

 それに女王陛下は未婚のはず。まだ年齢的には子供とはいえ、こんな気軽に男の手を取っていいのだろうか。


 そんな戸惑いを笑顔の下に隠しながらゆっくりとルーベンさんの方へ視線を向けると、ルーベンさんも表情を変えずに僅かに肩をすくめて見せた。

 諦めろってことですね。はい。


「過分なお心遣い痛み入ります。陛下。我が主、ピザン王国国王ヨーン・フォン・ピザンより書簡を預かっています」

「確かに受け取りましたわ。大儀でした」


 装飾の施された筒に入った書簡を渡し終え、ようやく今回の目的が終わる。

 しかしそれに安堵するわけにもいかず、僕はこのまま立ちっぱなしで良いのだろうかと内心で悩んでいると、書簡を配下に手渡したソフィア様が再び僕の手を握り、覗き込むようにこちらを見てきた。


「それでは、折角の機会ですもの。是非とも白騎士のお話を子孫であるシュティルフリート伯からお聞きしたいのですけれど」


 そういえばルーベンさんがソフィア様は白騎士の物語が好きだと言っていたけれど、公式の場なのにブレないなこの女王陛下。

 普通そういう話は場を改めるだろうに、プレゼントの開封を待ちきれない子供みたいな顔でこちらを見てくる。


「申し訳ありません。私は早くに両親と死別し白騎士についてあまり知ってはおらず……。連れのクレヴィングならば詳しいはずですが」

「まあ。白騎士に政治的に多大な支援をしたというあのクレヴィング公の末裔まで!?」


 そうだったのか!?

 なんて驚くわけにもいかず愛想笑いを浮かべながらソフィア様の相手をする。


 しかしクレヴィングと聞いて現ロイヤルガードであるヴァルトルーデ卿よりもそちらの話が先に出るあたり、本当に白騎士の物語が好きらしい。

 なんか後ろから「てめえ矛先こっちに向けんなよ」という視線を感じたけれど、気付かなかったことにした。

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異世界召喚が多すぎて女神様がぶちギレました
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