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カンタバイレ王国にて3

「本当にごめんなさいねテオドールくん」

「いえ。大丈夫です」


 ソフィア様への謁見からしばらくして。

 女王陛下の静かなる暴走は、大臣らしき強面のおじさんの「うおっほん!」というわざとらしい咳によって無事収束した。

 できることならもう少し早めに止めてほしかったところだけれど、他国の人間の前で女王の情けない姿を見せたくなかったのだろう。

 あの暴走っぷりの時点で手遅れな気がしないでもないけれど。


「でも本当に陛下も悪気があったわけじゃないの。本当に白騎士が好きなだけなのよ」

「ええ、もうそれは痛いほど分かったので」


 痛いの意味は少し違うけれど。


「それで、どこに向かってるんですか?」


 現在僕は、一人だけルーベンさんに呼び出されてお城の中を移動していた。

 謁見が終わったからか、城内の警備も少し緩くなっている気がする。


「あのままじゃ陛下がただのミーハー暗愚だと思われかねないから、ちょっとフォローをね」

「……」


 否定したかったけれど、現時点では内心でちょっとそう思っていたので何も言えなかった。

 いや、伝え聞く噂が本当なら賢王と言っていい方のはずなのだけれど。


「ついたわ。テオドールくん。ちょっとしばらくは何があっても黙っててね」


 唇に人差し指を当てながら言うと、ルーベンさんは目の前のドアをその太い腕でノックした。


「入るわよ姫」

(ええ……)


 そして遠慮なくガチャリとドアを開けて入っていくルーベンさん。

 姫ってことは王族か貴族の女性だろうに、返事を待たずに入って良いのだろうか。

 しかも僕が戸惑っていると、中から「入れ」と手招きまでしてくる。


 大丈夫だろうか。まあルーベンさんが今更僕をどうこうするとも思えないけれど。

 そう考えながら、ルーベンさんの背中を追って室内へと入る。


「……?」


 中はそれなりに広いけれど、あまり物が置かれていない部屋だった。

 調度品の類は正面に飾られた大きな絵画くらいで、あとは溢れかえるほどの本が詰め込まれた本棚くらいだろうか。

 そして部屋の隅には天蓋のついたベッドが一つ……?


「姫。またそんな恰好で本なんか読んで」

「別にいいだろ誰も見てないんだから。あと姫はやめろって」


 そのベッドの上に、長く赤い髪をポニーテールにした――しかし長すぎるせいで先端がベッドに扇みたいに広がってる女性が居た。

 うつ伏せに寝転がって、分厚い本を枕に立てかけて読みふけっている。


「何不貞腐れてるのよ。そんなに白騎士様とのお話を中断されたのが悔しかったの?」

「だって白騎士だぞ白騎士。絶体絶命の状況でも主のために忠を尽くす理想の騎士。ああ、そんな騎士がうちにも居たらなあ」

「あら。私じゃ不満かしら」

「おまえのは忠義とは何か違うだろ」

「確かに。腐れ縁と言ったほうが正しいかもしれないわね」


 僕が居る事には気付かず、本へと目を向けたままルーベンさんと会話を続ける女性。

 なんというか、おかしな光景だった。

 見た目は男の中の男といった感じのルーベンさんが女口調で喋り、見た目は見目麗しい女性が男のような荒い口調で返している。


 それにあまり信じられないのだけれど、この女性はもしかしなくても。


「それで陛下。シュティルフリート伯が一日しか滞在しないから、余計な時間をとらせたくないと個人的な対面はしないと言っていた、心づかいのできる素晴らしい陛下に、サプライズなプレゼントがあるのだけれど」

「何だよその説明じみた言い方……は?」


 ここで女性がようやくルーベンさんの方へと振り返り、そして当然その隣に居る僕を視界に収める。


「……」


 半目のジト目だった目が見る見るうちに大きくなっていき、そして限界まで見開いたところで徐々に顔が赤くなっていく。

 そりゃ完全に気を抜いたプライベートな姿を身内でもない男に見られたらそうなるだろう。


「しゅ、しゅ、しゅ……シュティルフリート伯?」

「……」

「いや、その、違うんだこれは……そう! 勉強をしてたんだ!」


 枕に立てかけていた本を両手で持ちながら、宿題をやらずに遊んでたのがバレた子供みたいなことを言い出す女性。というかカンタバイレ王なはずのソフィア様。

 勉強をしてたと言っているけれど、その本の表紙が「白騎士物語」という実に分かりやすい代物なので説得力はない。


「ルーベンさん。これどうすればいいんですか」

「頑張って」


 何をだ。

 ベッドの上でてんぱっているソフィア様を眺めながら、本当にどうすんだこれと頭を抱えたくなった。



「落ち着きましたか?」

「ああ。おかげさまでな」


 数分後。

 ようやく頭に登った血が下りたらしいソフィア様がやや自棄気味に言う。

 テーブルを挟んで対面に向かい合っているのだけれど、時折背後に控えているルーベンさんに鋭い視線を向けている。

 どうやらルーベンさんのサプライズは成功したけれどプレゼントとしては微妙だったらしい。


「ああ、もう! 久しぶりの客だから帰るまでは猫かぶってるつもりだったってのに!」

「そんなもんすぐにはがれるわよ。というか謁見室の時点でかぶった猫が虎になってたもの」

「なんだそりゃ」


 わけが分からないという顔をするソフィア様だけれど、確かにアレは油断すると食われるような警戒心を抱かせた。

 ルーベンさんもソフィア様の醜態を見て、もういっそ素顔を見せた方がいいと判断したのかもしれない。

 少なくとも今ここで起こっていることを他人に話しても、信じてくれる人間は少ないに違いない。

 まあともあれ。


「本当に白騎士が好きなんですね」

「もちろん! 騎士物語の代名詞といえば白騎士だろ!」


 半ば呆れて言ったのだけれど凄い勢いで食いつかれた。

 一体僕の先祖は異国の地でどれだけ存在が大きくなっているのだろうか。

 それとも単にソフィア様が騎士フリークなだけか。


「あ、でも勘違いするなよ。シュティルフリート伯に白騎士の真似事やれとは言わないからな。いや、でも一目見た時に『こいつは化ける』ってピンときたから是非ともうちで雇いたいくらいだけど」

「化けるって……」


 それは要するに今は冴えないと言っているのだろうか。

 いや確かに見た目からしてただの子供で弱そうだろうけれど。


「あら。ピンときたなら本気で誘わないの陛下?」

「馬鹿言え。裏切り寝返り下剋上当たり前なうちと違って、ピザンの騎士がそう簡単に靡くか」


 ルーベンさんの言葉に途中まで吐き捨てるように言うソフィア様。

 やはり内乱が多い国だけあって、家臣の裏切りが多いのだろうか。腐れ縁だというルーベンさんも、確実に裏切らないと信頼できる数少ない家臣なのかもしれない。

 というかピンときたって。そんな不確かなもので家臣に加えるか決めていいのだろうか。


「あら。陛下の勘は馬鹿にできないわよ。特に危険の感知は本当に予知能力じみててね、私も何度か命を救われてるの」

「だからって素直に信じるのもこいつくらいだけどな。まあこんな小娘が他の王位継承者蹴散らして王になれたのは、運をものにできる何かがあったとでも思っとけ。私はピザン王家の血も薄いが混じってるから、王になったら国をピザンに差し出すんじゃないかって警戒されてたしな」

「え?」


 ピザン王家の血も混じっている。ということはソフィア様はヨーン様の親戚ということになるのだろうか。

 それはそれとしても。


「そんな疑いをもたれてるなら、ピザンの外交使節の僕とあまり親しくしない方がよかったんじゃ」

「まあそれはそうだが。外交使節が来た時点でいちゃもんつけてくる奴はいるからな。だから敢えてあんな態度を取り、私はピザンに媚びてるわけじゃなくただの白騎士好きだと印象付けたわけだ」

「嘘おっしゃい」

「嘘じゃねえよ!」


 ルーベンさんの茶々に眉尻を上げて抗議するソフィア様。

 ともあれ、隣国の女王様は随分と親しみやすい人のようだ。

 隣国の女王と懇意になれたと、僕個人としてもいいコネができたと考えるべきだろうか。

 もしかすれば今後ピザンとカンタバイレの友好関係を円滑にするために、僕ができることも増えるかもしれない。

 そう前向きに考えることにした。


 そう。この時はまだ僕は予想もしていなかった。

 この関係が僕自身を追い詰める破滅の引鉄になるなんて。この時はまだ。

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異世界召喚が多すぎて女神様がぶちギレました
日本の神々の長である天照大神は思いました。最近日本人異世界に拉致られすぎじゃね?
そうだ! 異世界に日本人が召喚されたら、異世界人を日本に召喚し返せばいいのよ!
そんなへっぽこ女神様のせいで巻き起こるほのぼの異世界交流コメディー
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