↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法学校に普通の人間が入学してきた ~紋無しと人間オタクの魔法使い~  作者: カラス
第二章 ダメダメメイドは命令を聞かない

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
41/67

グリフォン暴走

 羊に慣れているからといって、すべての動物に慣れているとは限らない。

 そのことを、俺たちは十分後に思い知った。


「次は、あちらを手伝え」


 逃げた雲羊を群れへ戻したアリサに、セレナ先生が指示を出した。

 先生が示したのは、ミカの担当しているペガサスだ。


「ペガサスさんも、わたしが?」

「雲羊を扱えたからといって、そこで満足するな。補助に入るなら、ほかの魔法生物との違いも覚えておけ」

「承知しました!」


 アリサが元気よく返事をする。

 レイナの許可を確かめてから、ミカの待つ区画へ駆けていった。

 アリサの行く先には、若いペガサスが、銀色の翼を畳んで立っていた。

 若い個体が地面から飛び立つには、ある程度の助走が必要だと聞いたことがある。今日の訓練も、まずは地上で大人しく歩かせるところから始める。

 さっきまでミカが引いていたからか、暴れる様子はなかった。


「アリサちゃん、引き綱は強く引かなくていいから。自分が進みたい方向を見て、少しだけ引き綱を動かせばいいじゃん」


 ミカがペガサスの首元を撫でている。さっきまでの訓練で、完全にミカに慣れたらしい。


「少しとは、どの程度でしょうか?」

「うーん、これくらい?」


 ミカが指を二本使って長さを示している。それをアリサが「なるほどなるほど」と頷き、


「一・五センチほどですね!」

「わお、見て分かるとかすごい。でも別にそこまで細かくなくていいじゃん」


 アリサは背筋を伸ばし、両手で

引き綱を受け取った。

 ペガサスの左側へ立ち、正面を見る。引き綱を持つ手が、きっちり一・五センチだけ動いた。


「では、お願いいたします!」


 誰にお願いしたのか分からないけど、とにかくペガサスは素直に歩き出した。

 アリサとペガサスは、ほとんど同じ歩調で歩いていく。


「上手じゃん!」

「羊よりも背が高いですが、とても大人しい子なのです!」


 安心したアリサが、ペガサスの首を撫でる。

 ペガサスは気持ちよさそうに目を細めた。


「ペガサスさんも、耳の向きで気持ちが分かるのですね」

「羊と似てる?」

「はい。歩く速さも、先頭の子へ合わせようとするところも似ております」


 アリサの肩から力が抜けていく。

 ペガサスもアリサへ慣れたらしく、鼻先をエプロンへ寄せた。


「どうしました?」


 ふんふんと鼻を鳴らし、ポケットを嗅いでいる。

 ポケットには雲羊用の餌と、ラジオの修理で余った羊毛が入っているらしい。


「アリサちゃん。もしかして、餌を持ったままじゃん?」

「はい。雲羊さんがまた逃げたときのために――」


 ペガサスの鼻先が飼料の荷車へ向けられた。


「アリサちゃん、引き綱――」


 ミカが声をかけるけど遅かった。すでにペガサスが飼料目がけて走り出していたんだから。


「ひゃああああああ!」


 引き綱を握ったアリサの身体が勢いよく引っ張られる。小柄なメイドは、何度も足をもつれさせながらも、ペガサスに付いていく。


「引き綱を離して!」


 沙耶香に言われて、アリサはすぐに引き綱を離した。けど、走り出した勢いまでは消えない。


「止まれないのですうううう!」


 勢いを殺せないまま、アリサは藁の山へぼふっと頭から突っ込んだ。その隣では、ペガサスが飼料に到着し、喜びの宴を開いていた。

 衝撃で、藁と一緒にアリサのポケットへ入っていた物が空へ舞い上がった。

 雲羊用の餌や、灰色の羊毛、替えのホワイトブリム等々。

 あのメイド服、拡張収納の魔法でも使われていたのかな。あんなに色々入っていたのか。


「だ、大丈夫か?」


 俺と沙耶香が駆け寄る。頭から突っ込んで、両足を天に伸ばしてぴくぴくとしている。


「アリサちゃん、生きてるじゃん!?」

「多分」

「その多分、今は止めて!」


 沙耶香とミカが左右の脚を掴み、藁の山からアリサを引き抜いた。


「面目ないです……羊と同じようにはいきません……」


 藁だらけになったアリサが、肩を落とした。そんな彼女の体に付いた藁を、ミカが払い落としていく。


「ペガサスを羊と同じように扱おうとしてたの?」


 沙耶香が髪に絡んだ藁を取り除く。


「足が四本ございますので、ある程度は同じかと」

「その分類、大雑把すぎるでしょ」

「耳の動きと、群れへ合わせる性質までは似ていたのです!」

「でも、餌へ突進するところは分からなかったじゃん。この藁取れない……」


 ミカに指摘され、アリサがしゅんと肩を落としている。


「わたしは、あなたのことを分かったつもりになっていたのですね」


 当のペガサスは、もう飼料の中に夢中だ。多分、何も気にしていない。


「反省はあとにしろ」


 レイナが、アリサの頭から替えのホワイトブリムを取り上げた。


「なぜ、動物を扱う実習へ餌を持ち込んだ?」

「雲羊さんが、もう一度逃げた場合に備えました」

「先生の許可は?」

「……いただいておりません」

「なら、今すぐ返してこい」

「はい!」


 アリサは地面へ散らばった餌を拾い始めた。

 俺たちも手伝おうと屈んだとき、ペガサスが銀色の翼を動かした。

 弱い風が、草の上を通り抜ける。

 アリサが拾おうとしていた灰色の羊毛が、一つだけ宙へ浮かんだ。


「あ」


 羊毛は俺の手をすり抜け、隣の区画を囲む柵の向こうへ飛んでいく。

 その先には、若いグリフォンがいた。

 地面へ落ちる直前、グリフォンがくちばしで羊毛を捕まえた。


「食べちゃだめです!」

「待て、アリサ!」


 セレナ先生が止めるより先に、アリサは走り出していた。

 柵の出入口を抜け、グリフォンへ向かっていく。

 俺たちも、すぐにアリサの後を追った。


「アリサ!」


 レイナに呼ばれても、アリサは足を止めない。

 グリフォンが、くちばしを上へ向けた。このまま行けば、間違いなく羊毛を飲み込むだろう。


「駄目です! 羊毛はお腹の中で膨らんでしまうのです!」


 アリサはグリフォンの正面へ飛び込み、くちばしから垂れている羊毛を掴んだ。

 グリフォンも、取られまいとばかりに頭を後ろへ引く。

 それでもアリサも、両手で羊毛を握って踏ん張った。


「これは食べ物ではないのです!」

「先にお前が離せ!」


 追いついたセレナ先生が怒鳴る。


「こちらで吐き出させる! 今すぐ下がれ!」

「ですが、今離したら飲み込んでしまいます!」

「その前に、お前が食われるぞ!」


 グリフォンが苛立ったように翼を広げた。激しい羽ばたきが風を巻き起こし、周囲の魔獣たちまで騒ぎ始めた。


「きゃっ!」


 そんな強風にあおられて、アリサの小さな身体が浮き上がる。

 羊毛から手を離したのに、アリサの身体は地面に落ちず、宙に浮いたままだった。


「何か絡まってる!」


 沙耶香が叫ぶ。

 グリフォンの足から伸びた飛行訓練用の長綱が、地面に大きな輪を作っていた。羊毛を取り返そうと踏み込んだアリサは、その輪へ左腕を通してしまったらしい。


「アリサ、綱を外せ!」

「外れません!」


 グリフォンが地面を蹴り、その身体が一気に舞い上がる。


「アリサ!」


 俺たちの目の前で、十三歳のメイドが空へ連れ去られた。


「おねえちゃあああああああああああん!」


 アリサの悲鳴が、みるみる遠ざかっていく。

 五メートル。十メートル。

 グリフォンは旋回しながらぐんぐんと高度を上げ、飼育場の上空を覆う結界へ向かっていく。

 アリサは綱へぶら下がったまま、空いた右手で腕に絡んだ部分を外そうとしていた。


「だからメイドは面倒なんだ!」


 セレナ先生が杖を抜く。俺たちも一斉に杖を構えた。

 この状況、一体何を使えばいい?

 炎なら綱を切れるけど、アリサまで地上に落ちる。

 雷でグリフォンを止めれば、綱を通してアリサまで感電するかもしれない。

 水をぶつければ、空中で姿勢を崩す。

 えっと、他に使える魔法は……


「下手に撃つな! グリフォンじゃなく、アリサに当たるぞ!」


 分かっているけど、どうすればいいんだ。

 グリフォンが、さらに高度を上げる。

 アリサのエプロンから、一本の短い杖が落ちかけた。

 アリサは空いた手で、慌ててそれを掴む。


「杖? アリサ、もしかして魔法を使えるのか!?」

「はい!」


 上空から、震えた返事が届いた。


「何が使える!」

「見たことのある魔法でしたら!」

「見たことのあるって――」

「ミカ!」


 セレナ先生が俺の言葉を遮った。


「アリサの真下へ風魔法でクッションを作れ! 落ちても地面へ叩きつけられないようにしろ!」

「分かったじゃん!」


 ミカが杖を振り上げた。


「《軟風》!」


 ミカの体に魔紋が浮かび、緑色の魔法陣が開く。

 草を撫でるような柔らかい風が生まれ、アリサの真下へ集まっていく。


「アリサ! 風の魔法は使えるか!」

「今、見ました!」

「見たって、今まで___」


 俺の言葉の途中で、アリサが短い杖を下へ向けた。

 遠くて表情までは分からない。ただその視線は、じっとミカの作った魔法陣を追っていた。

 そして彼女の体にも、俺たちと同じように魔紋が浮かび上がる。杖の先には、ミカのもと同じ魔法陣が浮かび上がった。


「嘘だろ……」


 一度見ただけで、説明もない。

 アリサは、それだけで術式を完成させていた。

 次の瞬間、離れた地上からでも分かるほど強い光が、アリサの腕を覆った。

 空気が重くなる。

 草が伏せ、柵が軋み、浮いていた雲羊たちが一斉にアリサの方を向く。


「何だ、この魔力量……!」


 俺たちよりも小さな身体から、誰よりも多い魔力が溢れ出している。

 アリサが杖を握り締めた。


「《軟風》!」


 十三歳のメイドが放った魔法によって、飼育場全体の空気が爆発した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。