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魔法学校に普通の人間が入学してきた ~紋無しと人間オタクの魔法使い~  作者: カラス
第一章 九年前に消えた一人目

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三回目

「三回目があるかもしれないんだ!」

「何でお前たちが調査しているんだ!」


 そう報告した俺たちは、当然のように怒られた。

 翌日の放課後。昨日来たばかりの職員室で、セレナ先生が頭を抱えていた。


「勘弁してくれ! お前たちがそう現場をかき乱すと、面倒のしわ寄せがこっちに来るんだよ!」

「いや、これは調査じゃないです。考察です」

「屁理屈を覚えるな!」


 駄目だった。火に油を注いだだけだ。


「まあ、薄々こうなるとは思ってたけど……」


 俺の隣では沙耶香が呆れたようにため息をつき、ルカに至っては最初から他人のふりをしている。


「俺、昨日から巻き込まれてるだけなんで」

「ルカ! この裏切り者!」

「ヤザワ君も同席している以上、同類だ」


 向かい側の机から、クドウ管理官が淡々と言った。


「ほら!」

「何で嬉しそうなんだよ!」


 そりゃあ、仲間だし? 同じ謎を追いかけているんだ、怒られる時も一緒だろ?


「でも先生……もし、二回の爆発がどっちも失敗だったら、大変なことじゃないですか? 何らかの装置を試験していた可能性が……」

「残念だが、君たちの考えなど、我々からすれば素人同然だ。その考えも、当然行き当っている」


 クドウ管理官が即答した。

 そのはっきりとした返答に、俺たちは三人で顔を見合わせる。


「じゃあ……三回目も?」

「無論、警戒している。過去再現魔法が通用しないならば、人の目を増やすまでだ。警備員の増員も手配済みだ」

「……」


 先に気づかれていたんだ。

 折角考え付いたのに、ちょっと悔しい。


「おい、アズマ。何だその顔は」


 セレナ先生が、目ざとく俺を睨んだ。


「……別に」

「自分たちだけが気づいたとでも思っていたんだろう」

「うっ……ちょっとだけ」

「教師を舐めるなよ、バカ者共」

「すみません」


 あまりにも見透かされていた。思わず、素直に謝った。

 一方で、俺たちの考えが完全な見当外れじゃなかったことは分かった。それだけでも収穫だ。


「ただし」


 クドウ管理官が続けた。


「装置の目的については、まだ断定できていない。このノートとの関連についても同様だ」


 クドウ管理官は、舞維さんのノート……その複製品を手にしながら言った。


「……やっぱり舞維さんの研究と似てるんですよね?」

「アズマ君……また勝手に情報を増やしているぞ」

「……質問しただけなのに」

「顔が断定していた」


 そんなことまで顔に出るのか、俺。もうポーカーフェイス名乗れないな。

 ふと、俺はノートを見てまた別の疑問を抱いた。


「あの……舞維さんって、一人であの研究してたんですか?」


 何しろ、あのノートに書かれている範囲だけでも相当な量だ。

 爆発装置や人間の機械。それにつながるように改良した魔法の回路。

 それに、九年前の研究。

 いくら舞維さんが天才だったとしても、一人でできるキャパシティーを超えていないか?


「……何故そう思う?」


 セレナ先生の表情に影が入った。ちょっと角度が変われば、分からなくなるくらい小さいけど、確かに。


「今回の装置を舞維さん本人が作ってないなら……」


 一瞬、沙耶香を見た。彼女も驚いた目線で俺を見返している。


「舞維さんの研究を知ってる誰かが作った可能性もあるんじゃないですか?」

「……」


 今度はクドウ管理官も口を閉じた。

 二人の先生の反応が、俺の質問に肯定と答えているみたいだった。


「チッ……面倒だな、本当に……」

「確かに……先生、すごい研究だっていってたし、共同研究者とか、いなかったんですか?」


 セレナ先生の呟きを無視しながら、ルカも続ける。

 二人はそれぞれ目を合わせる。先に折れたのはセレナ先生の方だった。


「ああ……いた」

「本当ですか?」


 真っ先に反応したのは沙耶香だった。


「それは一体……?」

「教えられない」

「何で!」

「柊」


 声を強くした沙耶香を、セレナ先生が止める。


「今は事件の捜査中だ。名前を出せば、お前たちはそいつを疑うだろ」

「でも、研究を知ってたなら――」

「可能性と疑惑は違う」


 クドウ管理官の声が割って入った。


「君自身が今、何をされているか忘れたのかね?」

「……!」


 沙耶香が黙る。


「人間である。爆発現場の近くにいた。人間製の部品が使われていた。その事実だけを繋げて、学院では君が犯人だという噂が広がった。その苦しみを知る君が、同じことをするな」

「……はい」


 言い返せなかった。

 沙耶香だけじゃない。俺も、同じだ。

 舞維さんの研究を知っていた。それだけで、その誰かを犯人候補だと思いかけていた。


「……すみません」

「分かればいい」


 クドウ管理官はそれ以上責めなかった。


「ただ、舞維に複数の教員が関わっていたのは事実だ」


 セレナ先生が机へ寄りかかる。


「複数?」

「ああ。何せ前例がなかったからな」


 史上初めて御霊代に入った人間。魔紋がないにも関わらず、魔法を学ぼうとした。

 普通の生徒と同じように、一人の教師だけでは、対応できなかったんだろう。


「魔法理論、魔道具、魔力生理。分野ごとに担当がついていた」

「その中に、今も学院にいる先生は?」

「ああ、いるさ。無論、教えられないがな」

「……」

「そういう顔するな。事件が解決すれば、話を聞けるよう掛け合ってやる」

「いつ解決するか分からないじゃないですか」

「だから私たちが調べてるんだろ」

「俺たちは?」

「授業を受けろ」


 はっきりと、そして力強く。

 いつも面倒とばかり言っている先生とは思えないほどの声色に、俺たちは圧倒された。


「……それだけですか?」

「それだけだ。お前たちはあくまで生徒だ。お前たちの学びが、この場の最重要課題だ。それ以外の面倒は、私たちに任せておけ」


 今初めて、セレナ先生に尊敬の念を抱いた。小声で「出来れば私以外にな」と言わなければもっとかっこ良かったのに。


「それからアズマ」


 セレナ先生の視線が俺に向かう。


「人間製品と魔道具を勝手に組み合わせるな」

「……もうやってません」

「この前扇風機を改造していただろう」

「何で知ってるの!?」


 ああ、確かに沙耶香には無理だ。

 俺がどこに何をしていようとも、先生たちには筒抜けみたいだから。


    ◇


 職員室を出た途端、俺たち三人は揃って息を吐いた。


「……疲れた」

「何で俺まで怒られたんだ」


 よくもまあまだそんなプンスカする体力が残っているよな、ルカ。

 そんなコイツを、沙耶香が「一緒にいたからでしょ」と宥める。


「お前らが連れてきたんだろ!」

「でも気になってたじゃん」

「それは……まあ」


 そこまでは否定しないらしい。

 ルカが落ち着いたところで、俺たちは廊下を並んで歩いていく。

 教員棟を出て、中庭に出る。放課後の生徒たちが元気に動き回る中庭で、俺たちは明らかに大人しい空気を纏っていた。


「でも、いるんだね……」


 寮へ向かう途中、沙耶香が小さく口を開いた。


「お姉ちゃんのことを知ってる先生」

「ああ……」


 九年前、史上初めて御霊代へ入学した人間。

 その舞維さんには、複数の教師が担当として付いていた。

 当時の舞維さんが何をしていたのか知っていそうな人たちだ。九年という時が経っても、誰か一人くらいは残っていないだろうか。


「聞きたいこと、いっぱいあるな」


 沙耶香がノートを取り出した。そのボロボロの表紙を見下ろしながら、沙耶香は一言一言言葉を紡いでいく。


「お姉ちゃんが学院で何してたのか。何を研究してたのか。最後に何があったのか」

「なら探してみるか?」


 思わず、俺はそう言った。すると、沙耶香とルカの目が一気に集まってきた。


「……どうやって?」

「昔の記録、探せるだろ?」

「さっき『勝手な調査するな』って言われたの、もう忘れたの?」

「公開されてる資料を見るだけだろ?」

「また屁理屈始まったぞ」


 ルカが呆れている。

 その一方で、沙耶香が少し考えている。


「うん、そうだね。そもそも最初、学院の年報とかを調べようとしていたんだもんね」

「ああ、そういえばそうだったな。爆発があってのゴタゴタで延期に延期を重ねていたけど……今こそ、いい機会だと思わない?」

「調子乗らないで。後、先生たちに隠れて何かするのはなしだからね」

「分かってるよ」

「本当に?」

「もちろん。……多分」

「信用できない」

「何で!?」

「お前の日頃の行い」


 ルカがケラケラ笑っていやがる。何だよ、さっきまで呆れ果てていたくせに。


「じゃあ図書館行こうぜ。えっと……」

「待って。その前に、何か忘れてない?」


 沙耶香が俺とルカの前に立ちはだかる。

 俺が戸惑っていると、すぐさま沙耶香は言い切ってきた。


「今日の練習」

「あ」

「……ねえ、もしかして忘れてた?」

「忘れてない」

「今、完全に『あ』って言ったよね」

「思い出しただけ」

「それを忘れてたって言うのよ!」

「まあまあ」


 ルカが割って入る。


「俺は図書館だけ合流でも――」

「ルカも来てよ。魔道具詳しいでしょ」

「いや練習に俺いらねえだろ!」

「見学」

「少しの間だけでも帰らせろ!」


     ◇


 第三演習場。俺たちみたいに個人練習をしている人はあまりおらず、広いこの場所をほぼ独占状態だ。


「《灯火》」


 沙耶香の杖に、小さな炎が灯った。

 以前なら、出した瞬間に大きくなったり、逆に消えたりしていた炎だが、今は親指より少し小さいくらいの大きさで、静かに燃えている。


「どう?」

「かなり良くなったな」

「ふふん、でしょ?」


 ちょっと得意そうに鼻を鳴らした。


「じゃあそのまま維持しようか」

「うん、分かった。どれくらい?」

「一分かな」

「……長くない?」

「いいから、やってみて」

「簡単に言うなあ……」


 文句を言っても、彼女の灯火が消えることはなかった。

 ちょっとだけ揺れて、時々大きくなって。様々な形に揺れることはあるけれど、決して火が途切れることはない。

 そして。


「六十。よし、これで一分だ」

「……!」


 沙耶香の気が抜けたのか、炎が消えた。

 途端に彼女は、俺に顔を向けてぱあって明るくなった。


「できた!」

「ああ! できたな!」

「やった! やったよ!」

「お? 一分出来たか?」


 ベンチに寝転がっていたルカが顔だけ上げた。

 そのままこっちに歩いてきて、笑顔で沙耶香の背中をたたいた。


「やったじゃねえか! 上達してんな!」

「ちゃんと見てたの?」

「……見学って言っただろ」

「本当に見てた? 寝そべってたように見えたけど」

「マジで見学しか仕事ねえとは思わなかったんだよ!」


 小言を言うけど、沙耶香は嬉しそうだ。

 その顔を見ていると、昔を思い出す。

 俺が小さい頃、魔法を見せるたびに、驚いて笑って、次は何ができるの、と聞いてきた人。

 もし、本当にあの人が舞維さんだったなら――


「一分行ったの? さーや、すごいじゃん!」

「うわっ!?」


 突然後ろから聞こえた声に、沙耶香が飛び上がった。

 振り返と、明るい栗色の髪がそこにはいた。


「ミカ?」

「やっほー」


 演習場の入口で、ミカが手を振っている。

 もう片方の手には小さな紙袋を持っていた。


「何でここに?」

「さーや探してたんだけど。最近、放課後になったら全然部屋にいないじゃん?」

「あ……ごめん」

「別に謝ることないじゃん」


 ミカは俺たちのところまで来ると、沙耶香の指先を見る。


「それより今の、灯火? この前からめっちゃ上達してんじゃん!」


 ミカがすごいはしゃいでいる。まるで自分のことみたいだ。


「めっちゃかは分からないけど……へへ、うん!」


 沙耶香が少し照れたように笑っている。


「よかったよかった。マジで心配していたじゃん」

「心配、させちゃってたの?」

「最近、さーやずっと元気なかったからさ。ほら、教室でも何かみんな変な感じじゃん?」


 沙耶香の顔が凍り付く。

 だけどそんな彼女へ、ミカは持っていた紙袋を突き出した。


「だからこれ!」

「何?」

「焼き菓子。食堂のおばちゃんにもらった差し入れじゃん! 四人分!」

「俺たちのも?」

「あるよ、マナッちも、ルカっちも」

「っしゃあ! 見学していた甲斐があったぜ!」


 ルカが初めて元気になった。さっきまで帰りたいしか言ってなかったのに、現金なやつだ。


「ありがと」


 沙耶香が紙袋を受け取る。


「ううん。それ食べて元気出しなって」

「……うん」


 沙耶香に笑顔が戻った。

 さっき魔法が成功した時とは、また違う笑い方だ。

 俺は紙袋から茶菓子を取り出したところで、ミカに向き直った。


「そうだ、このあと図書館行くけど、ミカも来るか?」

「図書館? 何かムズい宿題とかあったっけ?」

「いや、そうじゃなくて九年前の学院記録調べる」

「九年前? 何でまたそんな前のやつを?」

「あ、そういえばミカにはお姉ちゃんのこと話してなかったっけ……? 私のお姉ちゃんの記録を調べようと思って」

「んー……さーやのお姉ちゃん……あー」


 彼女の中でも、何かがつながったらしい。


「一人目の紋無しって、もしかして……」

「うん。私のお姉ちゃん」

「マジか! さーや、それどうして今まで黙ってたの!?」

「だって……聞かれなかったから」

「いや、それ聞かれないと喋らない情報じゃなくない!?」

「そう……かな?」

「そうだよ! 自慢できるじゃん! 姉妹そろって御霊代って普通にすげえじゃん!」


 ミカ、ここに来てからすげえとしか言ってない気がするんだけど。

 粗方感心し終えたミカは、少し考えてから首を振った。


「んにゃ。それなら、あたしはいいや」

「来ないの?」

「字でいっぱいの本って、眠くなるし、絶対に足手まといになるじゃん。第一、あたしが横から首突っ込んでも仕方ないじゃん。何か分かったら教えてくれりゃいいから」

「……分かった」


 少し寂しそうな、それでも少し嬉しそうな。沙耶香のこの顔は、多分ミカにしか見せないと思う。


「あとマナッち、さーや連れ回しすぎないでね」


 え、俺が連れ回していると思っているの?

 彼女の目は、明らかに俺をそういう風に捉えていた。


「いや、俺はむしろ連れ回されているというか……なんというか……」

「え? 違うの?」

「……違うよな?」


 沙耶香に同意を求める。

 彼女も茶菓子をもぐもぐと食べながら、「うーん」と顎に手を当てた。


「半分くらいはね」

「半分!?」

「うん。残り半分は私が」

「ああ、そうなん? じゃあ問題ないじゃん」


 ミカが笑った。


「とにかく、ご飯までには帰って来るじゃんよ。今日は一緒に食べるから」

「うん、分かった」


 沙耶香の返事に、ミカは満足そうに頷いた。

 そのまま演習場を出ていく彼女の背中を、沙耶香が少しだけ長く見送っていた。

 その顔は、俺たちといる時とは違っていた。

 力が抜けているというか、何も警戒していないというか。

 多分、ああいうのを、友達っていうんだろうな。


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