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戦国に死霊は舞う〜戦国×ゾンビ奇譚〜  作者: Takahiro
終章

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53/55

本能寺の変

 鬼が日本からほぼ駆逐されてから三年、天正十五年のことである。


 織田五大将と呼ばれた者のうち、勝家・長秀・一益は病を得て世を去った。残っているのは秀吉と光秀のみである。


 九州の復興は依然として道半ばだが、漂着する南蛮船はほとんどなく、平和な時が流れていた。それは南蛮人がほとんど絶滅したということでもあったが。


 九州の勢力図は、鬼との戦が始まる前の状態に戻すこととされた。一時はその領地の全てを鬼に奪われていた龍造寺家は、領地こそ広大なものの、国力は全く奮わず、大友や島津に後れを取っていた。


 信生は名を鍋島左衛門大夫直茂と改めていた。そして信長と知己である直茂は、織田政権のお墨付きを得て龍造寺家の家政のほとんどを担うようになり、実質的な当主とまで認識されるようになっていた。


 そんな折、驚くべき報せを携えた使者が佐嘉城に飛び込んできた。


「申し上げます。織田大相国様、並びに織田右府様、京の本能寺にて謀反に遭い、討ち死にされたとのこと……!」

「……は? 今、何と申した?」


 信長と信忠が死んだという報せである。にわかには信じ難い。しかし、聞き間違いなどではない。


「……誰がやった?」

「惟任日向守光秀とのこと」

「惟任殿か……。全く信じられぬが……真であれば、すぐに動かねばならぬ。このこと、御屋形様にはお伝えしているか?」

「いえ、まだです」


 政家よりも先に直茂のもとへ情報が入ってきていた。政家は最早、龍造寺の支配者だとは思われていないのだ。


「ならば、誰にも伝えるな。よいな?」

「はっ……!」


 直茂は信を置ける僅かな者だけにこのことを伝え、上方や九州諸大名の動きを探るよう命じた。そして表向きには、龍造寺家は何も知らないというふうに振る舞った。


 〇


 時は五日ほど巻き戻る。


 光秀が九州へ派遣する軍勢を集めている折、京に信長と信忠が同時に逗留するという好機が到来した。これを逃せば次はない。


 光秀は一万ばかりの軍勢を京に向かわせ、信長と信忠を討ち取った。


「上様の首は見つからぬか」

「はい。本能寺は激しく燃え、仮に上様の首を拾ったとしても、雑兵のそれと見分けることは出来ませぬかと」


 光秀の重臣・斎藤内蔵助利三は言った。


「そうか。ならば、これ以上探しても無駄であろう。引き上げだ」

「……本当に、これでよかったのでしょうか」

「目の前に大きな獲物が寝転がっていた故、思わず矢を放ってしまった」

「左様でしたか」


 やれるからやった。それが最大の理由であり、光秀の本心であった。


「だが、全く大義がない訳ではない。上様は覇者であって、王者ではないのだ」

「日本を征することは出来ても、治めることは出来ぬと?」

「いかにも。上様は結局、天下一統を成し遂げた後、ほとんど何もしておられぬ。上様は日本を平らげた後のことには興味がなかった」


 信長は日本中の大名を服属させ、戦をなくすことに成功した。だが、それほどの絶大な力を手にしながら、信長は日本のあり方に何ら手を加えていなかった。


「では、誰ならば王者になれるのですか? 殿ですか?」

「私など、所詮は戦に取り憑かれた古き者。覇者にすらなれぬ小物だ」

「では……」

「羽柴筑前守秀吉……。あの男ならば、王者になり得よう」

「所詮は百姓だったあの男がですか?」

「だからこそだ。あの男は百姓から大名に至るまで、あらゆる地位から日本を見てきた。羽柴ならば、真に王者たり得よう」

「では、我らはただ滅ぶまでですな」

「私の血迷いに付き合わせてすまぬな」

「最期は戦場で華々しく散りましょうぞ」


 畿内や近国の諸大名で光秀に味方する者はなく、光秀は完全に孤立していた。


 〇


 変の翌日、秀吉が本拠地としている姫路城にも、信長・信忠が討たれたとの報せが届いた。


「やーっと上様が死んだか。長かったわ」

「御運が開けましたな。惟任を討てば、殿こそが唯一の織田家宿老になります」


 黒田官兵衛は言う。今や織田家中で軍団と呼べるほどの実力を持つのは、秀吉と光秀のみであった。光秀さえ死ねば、秀吉が織田家中において比類なき実力者となる。


「兵を集めよ。さっさと惟任を殺しに参るぞ」

「毛利は大丈夫なのか、兄者?」


 美濃守長秀は尋ねた。毛利との間には、このような変事があった際に羽柴の背後を守るとの密約があるが、所詮は口約束である。


「我らは織田そのものじゃ。織田を敵に回せば、日本六十六国の全大名を敵に回すことになる」

「小早川殿がいるからには、毛利がそんな愚かな選択をするとは考えられません。心配せずともよろしいかと」

「まあ、兄者と官兵衛が言うなら……」


 もしも毛利が秀吉を攻撃すれば、全国の大名に毛利を攻める大義名分を与えることになる。乱世とはまた違った理由で、毛利が羽柴に手を出すことは出来ない。


 それどころか、輝元は秀吉に援軍を申し出た。秀吉はこれをありがたく受け入れ、都合四万ばかりの軍勢を用意できる目算が立った。それを実際に集めるには、まだ暫しの時が掛かりそうであるが。

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