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戦国に死霊は舞う〜戦国×ゾンビ奇譚〜  作者: Takahiro
九州征伐篇

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逆さ城

 鬼は佐嘉城内や城下町に寄り集まりつつ、時折周辺の村落に出ては、備蓄されていた米や腐肉などを回収して戻っているようだ。どうやらその場で食べるだけでなく、ある程度の量を獣のように持ち帰っているらしい。


 腹が空いて食べ物を取りに出ているだけかもしれないが、結果的には長期間の籠城を可能とする、知的とも言える行動であった。


「やはり、このままでは一向に鬼は飢えぬな。鬼共を佐嘉に閉じ込める。まずは南東から近づこうぞ」

「万一にも鬼が襲いかかってきたら、一大事かと存じますが」


 信生は進言した。もしも四万の鬼が一斉に襲いかかってきたら、全滅する可能性が高い。


「無論、わかっておる。全ては鬼が人に怯えて城に引きこもるか次第よ。なればこそ、兵の多寡はさしたる問題ではあるまい」

「……確かに、八万だろうが一万だろうが、襲われればひとたまりもありませんが」


 隈本に残していた五万の兵も柳川まで前進させている。柳川には都合八万の兵が駐屯している。


「であるからして、筑間(ちくま)川のこちら側に兵を残し、万一の際の備えとする。六万を残し、二万のみで佐嘉に近づき、堀を築くのだ」


 筑間川――後世に言うところの筑後川――には、すぐに落とせる橋をいくつも架けておき、逃げ道とする。


「鬼が出てきたら、筑間川の南側に逃げ込むと」

「うむ。無論、儂も佐嘉に参ろう。左様な危なき役目、北条殿に任せ切りにする訳にはいかぬからな」

「そ、それは頼もしいことだ」


 想定外に危険な仕事を聞かされ、北条氏政は顔を引き攣らせていたのだが、信長自ら出馬すると言われて断ることは出来なかった。


 〇


 二万の軍勢は鬼を追い払いながら前進した。鬼が全力を出せば簡単に皆殺しに出来るほどの戦力差であるにもかかわらず、鬼は戦わず、佐嘉城の方へ一目散に逃げていった。


「孫四郎、堀を築くからには、この辺りの家々は壊すことになろう。構わぬか?」


 視野を確保するため、堀の予定地にかからない家屋も破壊しておく必要がある。


「……佐嘉の復興に織田の助けを得られると、信じてよいのですね?」

「無論だ。左様なつまらぬ嘘は吐かぬ」

「そのお言葉、お忘れなきよう」


 鬼が食糧を確保するのを防ぐという目的もある。信生は佐嘉の村々の破壊を命じた。


「まずは佐嘉城の南東に壁を作る。鬼が四万で襲いかかってこようとも防げる堀を造るのだ。孫四郎、この辺りでよいな?」

「はい。地形が平らで、普請もしやすいかと。また、左右の端を溜池に繋ぎ、守りを固めるのがよろしいかと存じます」

「相分かった。まずは仮の陣地を作る。気休めではあるが、万一の際に逃げる時くらいは稼げよう」


 まずは事前に組み立てておいた柵や逆茂木を並べ、長さにして半里ほどの陣地を速やかに構築した。鬼にはあっという間に突破されるだろうが、あるとないとでは兵士の心持ちが全く違う。


 二日で仮の防衛線を築いた後、北条勢は早速、空堀の構築に取り掛かった。


「北条殿、半月で終わらせられそうか?」

「小田原城のように障子堀などを造る必要はない。人夫も侍も関係なく普請を行わせれば、間に合うであろう」


 本来の空堀は、ただの溝ではない。東国には、堀の中を障子のように区切る土塁を並べて堀の中の敵兵の動きを制限する、障子堀という仕掛けがある。だが、鬼は真っ直ぐ突っ込んでくるだけなので、そのような構造は意味をなさない。


 北条勢は鬼に怯えながらも、深さにして人間二人分ほどの空堀を迅速に掘った。鬼が襲ってこなさそうなのを見ると、信長は堀の普請に追加で二万を投入した。


 四万で堀の普請を行いながら、残る四万は常に武装し、筑間川の対岸で鬼の襲撃に備える。


「殿、地下から水が湧き出してきております」

「水を用水路に流す管を設けよ」

「雨で一角が崩れております!」

「鬼が登りやすくなるが、やむを得ぬ。土留めを設けよ」


 氏政をはじめとする北条の将は、小田原城総構えの建設で得た知見を活かし、順調に普請を進めた。


「織田殿、これでこの一角は完成だ」


 作業を開始してから半月。長さにして四分の一里だけだが、佐嘉城の南東に堅牢な堀が完成した。


「予定通りか。大儀である。鬼が堀を迂回でもせぬ限り、守りは安泰よ」


 人間二人分の深さまで地面を掘り、その土を土塁にしているので、堀の底からは四人分の高さを登らなければならない。もちろん、その面は極めてなめらかに整えられており、人が掴む場所など全くない。


 堀の中には逆茂木や杭が所狭しと配置され、鬼の動きを妨害する。土塁の上は整地され、多くの兵が動きやすくなっている。


「この堀を延ばすのだ。延ばして延ばして、佐嘉城を隙間なく囲い込む。孫四郎、引き続き北条殿に付き、どこに堀を設けるべきか見極めよ」

「ははっ」


 佐嘉城を包囲するための総構え、逆さ城は着実に完成に近づいている。


 だが、鬼も黙って眺めていてくれる訳ではなさそうだ。普請を始めてから四十日が経過した頃のこと。


「申し上げます。鬼の一部が、佐嘉城を離れ、西に動き始めたとのこと。数は五十ばかりとのことです」

「これは……すぐに対処せねば」

「で、あるな」


 包囲網が完成する前に逃げられては、鬼を餓死させる計画が破綻する。信生は焦っていた。


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