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戦国に死霊は舞う〜戦国×ゾンビ奇譚〜  作者: Takahiro
東国篇

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東国仕置

 関八州では、一部の大名が北条家に実質的に従属させられることに反発し、わずかながら抵抗を起こしたが、信長はこれを武力によって鎮圧することを命じた。


 降伏勧告に応じぬ大名は、北条軍やその与力たる坂東の大名の軍勢によって攻撃を受け、その大半は、領地のほとんどを没収された上、改めて服属を強いられた。領地の配分は信長が差配することになっており、氏政は口出し出来なかった。


 また信長は、最後まで降伏せぬ者については、一族郎党を皆殺しにするよう氏政に命じていた。


「すまぬな、鍋島殿。これも、東国を一統に必要な処置なのだ」


 滝川一益は鍋島信生に言った。


「大きな目的のためならば、小さな犠牲はやむなしと?」

「そうじゃな。もしも北条と織田の戦になっていたら、数え切れぬ者が死んでおった。ほんの数千の死人は仕方がなかろう」

「これも九州のため、ですか……」


 信長の強硬な措置がなければ、北条の九州への派兵は大幅に遅れたであろう。信生は表立って抗議することは出来なかったが、多くの血が流れたことに煮え切らぬ思いを抱えていた。


「あの者共は、某のせいで死んだも同然です」

「それはそうじゃろうが、誰も死なせず、円満に東国を一統するなど、無理な話じゃ。そのようなことを望むのは、傲慢というもの」

「……左様ですね」

「そうそう。惟住(これずみ)殿が小田原に来るそうじゃ。東国の仕置についての上意を、諸大名に伝えるとな」


 惟住越前守長秀は、以前は丹羽長秀と呼ばれていた、柴田勝家と並ぶ織田家筆頭家老である。


 〇


 小田原城には、長秀をはじめ、東国の諸大名の重臣が集まっていた。特に奥羽の仕置については、ここで初めて正式に伝えられることになる。


「皆の者、よく集まってくれた。織田家宿老、惟住越前守長秀である。これより東国の仕置について、上様のお言葉を伝える。心して聞かれよ」


 各大名家の重臣が集まっているので、名目上の地位は同じようなものであるが、織田家でも屈指の実力者である長秀が上座となることは、暗黙の了解となっていた。


「まず奥羽の諸大名についてじゃ。伊達に従属している大崎や葛西、並びに最上、及びそれより南の大名は全て、織田の与力として、伊達の指図を受けるべし。それより北の大名については、南部の指図を受けるべし」


 米沢城の伊達左京大夫輝宗、三戸(さんのへ)城の南部田子九郎信直が、奥羽の筆頭として認められたことになる。


 ここで言う与力は、本来の意味通りの与力である。軍事指揮権だけが伊達家や南部家に与えられ、家中への介入は許されず、信長の意思次第で与力を外すことも出来る。


「最上に、伊達に屈せよと仰るか」


 最上家重臣・志村伊豆守光安(あきやす)は言った。最上家の実力は伊達家に伯仲している。


「これはあくまで鬼と戦うための与力。決して従属ではない。不平があれば織田に申し伝えよ。また、既に従属している大名については、今の関係を維持されたし」

「その言葉、お忘れなきよう」


 鬼との戦の間だけという条件付きであるが、奥羽の有力大名達も、伊達や南部の与力となることを受け入れた。


「奥州は広大な土地の割に人が少なく、沿岸の防備に難儀しよう。よって、南部勢は九州に兵を送らず、沿岸の守りを固めよ。伊達勢が送る兵は一万だけでよい。残りの兵で沿岸を守れ。南部も伊達も手を取り合い、鬼が奥州に踏み入ることを絶対に許すでないぞ」


 奥羽に鬼が流れ着いた事例はないものの、今後も起こらないとは限らない。背後を固めなければ、鬼の討伐には乗り出せない。


「続いて、北条には約束通り、五万を出してもらう。これは鬼との戦が終わった後も関八州の大名を与力として付ける対価である。北条の与力からは五千だけを出してもらう。武田は二万五千、上杉は一万五千を出していただく」

「お待ちください。一万五千も出すとなれば、越後の守りはどうせよと?」


 樋口兼続が尋ねた。


「越後を含め北陸道の守りは、柴田修理亮が担う。上杉は心置きなく、九州や中国で鬼と戦ってもらいたい」


 柴田勝家は織田・上杉の正式な和睦が締結されると同時に解放されている。また、上杉も五千程の兵を越後に残し、柴田勢と行動を共にさせることとなる。


「……承知しました。織田があれほどの誠意を示してくださったからには、柴田殿を信じましょう」

「また、東海道の沿岸防備は徳川に一任する。伊勢や志摩、それに尾張を含めてじゃ。また、東国からの軍勢の多くは東海道を通ることになろう。その荷駄や宿所の手配も、徳川に任せたい」

「我らは九州に出陣せずともよいと?」


 徳川家家老・酒井忠次が尋ねた。


「左様。徳川には織田の脇腹を守ってもらいたい。これも上様が徳川殿を信じておられる故じゃ」

「はっ。ありがたきお言葉です」


 かくして、東国から九州へ、十一万ばかりの兵が送られることとなった。未曾有の大軍勢である。


 もちろん、十一万人を一斉に行軍させれば、たちまち兵糧が尽き、飢え死にする者が続出するだろう。


「まずは第一陣として、武田・上杉の四万を大坂に集める。他の大名方は、上様より指図があるまで、くれぐれも勝手に動かれぬよう」

「惟住殿、まだはっきりとは聞いておりませんでしたが、此度の総大将は誰なのですか?」


 武田勝頼の弟・仁科薩摩守盛信は尋ねた。


「ああ、わざわざ申すこともないとは思っておったが、無論、上様が直々に全軍を率いられることとなる」

「恐れ多いことです」


 もちろん、今回の大遠征の総大将は、織田信長である。

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