掃討戦
「いかがなさいますか?」
「一匹たりとも逃してはならぬ! 側面の隊を前に出し、鬼を囲い込め! 正面の二番備え・三番備えも前に出せ! 土佐守殿にも遣いを出せ!」
「はっ!」
危険は大きいが、鬼を逃す訳にはいかない。陣地を離れて鬼と戦わざるを得ない。
「長宗我部殿は、既に城から打って出ている様子!」
「わざわざ言うまでもなかったか……。これならば、鬼を根切りに出来よう」
鬼は岡豊城の城下町に閉じ込められた。三百体の鬼を一万を超える兵で囲い込み、一気に押し潰す。
「四人組を崩すな! 常に四人組を四つ以上束ねて動け!」
城下町に兵を進めた光秀の重臣・三宅左馬助秀満はそう命じた。
「鬼が!」
「槍で突き刺し、動きを止めよ!」
八人が二人一組で四本の槍を持ち、四方から鬼に突き刺した。ここまでされれば鬼も身動きが取れなくなる。
「近づくでない! 槍で刺し殺せ!」
更なる槍兵が鬼の胸を突き刺して殺した。
「しかし、鬼を刺した槍はいかがしましょうか? ここに捨てる訳には……」
「ああ、捨てる訳にはいかないな。皆、鬼の血が決して体内に入らぬよう注意しつつ、槍を運べ」
「鬼だ!! 三匹来るぞ!」
「槍では止めきれぬか! 刀で殺せ!」
「ぐああぁぁぁ!!」
細い路地で三体の鬼と出くわし、瞬く間に四人が首に噛みつかれ、倒れた。槍兵による整然とした拘束は成り立たなかったものの、剣術に優れた侍らが鬼の首を落とし、窮地を切り抜けた。
「鬼に噛まれた者らは、首を斬り落とせ。鬼にしてはならぬ」
「はっ……」
「殿、鬼の血が目に入ったという者がおりますが……」
「縄で拘束せよ。今すぐだ」
「いえ、殿。お手を煩わせはいたしません。この場にて、自害いたします」
「……わかった。そなたの働き、忘れはせぬ」
ある侍は自ら心臓に脇差を突き刺して自害した。彼の首は速やかに落とされた。その最期は光秀にも報告され、遺族には褒美が与えられたという。
逃げ出した鬼の数は少なく、城下町での戦闘はそう長くは続かなかった。城下町に逃げ込んだ鬼は殲滅されたのである。
「終わりましたか……。実に見事な采配にございました、惟任殿。ありがとうございます」
「戦の勝敗とは、戦端を開く前から決まっているもの。その場の采配に頼るのは愚者のみでありましょう」
岡豊城を襲った鬼は殲滅された。早期に大兵力を投入できたお陰ではあるが、一つの地域に現れた鬼を完全に掃討することに成功した最初の好例であった。
しかし、死者は五百人に上り、鬼の血が体内に入った疑いのある者も三百人を数え、決して容易な勝利ではなかった。疑わしき者のうち二百人ばかりが実際に鬼となり、首を刎ねられた。
〇
光秀は元親への挨拶のため、岡豊城に入っていた。
「おお、惟任殿、よくぞ来てくれた。礼を申す」
「四国を失う訳には参らぬというだけにございます」
「相変わらず生真面目だな」
「しかし……城下町が鬼の死体まみれになってしまったが……これはどうするべきだ?」
「私が調べた限り、鬼の血は概ね五日で、人を鬼にする力を失います」
「何と。そんなことが」
「ですので、念のため十日の間、城下町には誰も足を踏み入れないようにしていただきたい」
鬼の血は城下町のあちらこちらに飛び散っている。
「十日も死体を放っておくのか……? 流石にそれはな……」
「……ならば、死体だけは運び出させましょう。我が配下の者に運び出させます故、不用意に手を出さないでいただきたい」
「承知した。任せよう」
光秀は城下町の鬼の死体を慎重に運び出させ、焼き払った。
また、主戦場となった陣地の手前には、大量の鬼の死体と使い捨てられた武具が散乱していた。油を撒いて鬼の死体をあらかた焼却した上で、こちらも十日の間、誰も足を踏み入れないよう封鎖した。
〇
戦闘から三日後、光秀は漂着した南蛮船を調べさせていた。船内には数体の鬼がまだ残っていたが、兵らは鉄砲の音で外に誘き出し、問題なく処理できた。
「それで、何か見つかったのか?」
元親は光秀に尋ねた。
「はい。このルイス・フロイスと申す南蛮人に調べさせたところ、あれらは阿蘭陀国の船とのこと。船に残っていた文に寄れば、船を操れる者が足りぬ故、船同士を結び合わせ、一縷の望みを託して南蛮から逃げ出したとのことです」
「南蛮もそれほど酷いことになっておるのか……。そして、逃げることも叶わず、かようなことに……」
「南蛮の諸国はほとんど滅びているも同然とのこと」
「そうか。せめてこの者共は、供養してやらねばな」
「長宗我部殿のご随意に」
死体の処理や沿岸警備体制の構築などにより、光秀の九州行には、なおも遅れが生じることとなった。




