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究極の防具って知ってますか?そうビキニアーマーですね。  作者: チラミン


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6/20

ビキニアーマーは手入れが大事

 翌朝。


「……ん……」


 リーネアは、ゆっくりと目を開けた。

 窓から差し込む朝の光が、部屋の中を明るく照らしている。


「……朝かぁ」


 身体を起こす。

 昨日は本当に色々なことがあった。

 ツノウサギを三匹。

 そのあとにミニワイバーン。

 ギルドで初めての報酬を受け取ったときは、嬉しさのあまり叫んでしまった。

 そして、その直後にはヴィーゴから「四十八回払い」などという悪い冗談を聞かされて――。


「……あいつ、本当に性格悪いときあるなぁ」


 思い出して、頬を少し膨らませる。

 けれど。

 不思議と、嫌な気持ちにはならなかった。

 むしろ、少しだけ笑ってしまう。


「……まあ、いっか」


 リーネアはベッドから降りた。

 いつもなら、朝は適当なパンだけで済ませることも多い。

 しかし今日は違う。

 昨日、自分で稼いだお金がある。

 それだけで、朝食まで妙に豪華に感じられた。


「いただきます!」


 焼いたパン。

 卵。

 少しだけ厚めに切ったベーコン。

 それから、温かいスープ。

 特別な料理というわけではない。

 それでも、リーネアにはいつもよりずっと美味しく感じられた。


「……やっぱり、自分で稼いだお金で食べるご飯って違うなぁ」


 誰に聞かせるでもなく呟く。

 昨日までなら、同じ料理を食べてもこんな気分にはならなかっただろう。

 少しだけ胸を張れる。

 そんな感覚があった。


「よし!」


 朝食を終えると、リーネアは勢いよく立ち上がった。

 今日もヴィーゴのところへ行く。

 昨日、今後のことは明日話そうと決めたのだ。

 もちろん、これから何をするのかも気になる。

 だが――。


「……そういえば、昨日の鎧」


 リーネアは自分のビキニアーマーを手に取った。

 ミニワイバーンの爪を受けた跡がいくつか残っている。

 身体は無傷だった。

 だが、装備そのものにはしっかりと傷がついていた。


「これ、怒られるかな……」


 少し不安になりながら、リーネアは工房へ向かった。

 グリューネヴァルトの街は、朝から活気に満ちていた。

 商人たちが店を開け、通りを人々が行き交っている。

 パン屋からは焼きたての香ばしい匂いが漂ってくる。

 冒険者たちはすでにギルドへ向かっていた。

 その光景を横目に見ながら、リーネアは工房へと歩いていく。

 ほどなくして、見慣れた看板が見えた。


「……ここだ」


 扉を開ける。


「おじゃましまーす」


 返事はない。


「ヴィーゴ?」


 工房の奥から、金属を削る音が聞こえる。

 キィィ……。

 続いて、金属を叩く音。

 カン。

 カン。

 カン。

 リーネアはそっと奥を覗いた。

 そこにはヴィーゴがいた。


「……」


 真剣な表情。

 いつもの少し変わった雰囲気はない。

 眼前の装備だけを見つめ、手にした工具を正確に動かしている。

 机の上には加工途中の金属板。

 細かな部品。

 革紐。

 そして、見慣れた形の装甲。

 ビキニアーマーだった。

 だが、今まで見たものとは少し違う。

 胸部装甲の形。

 腰部の構造。

 肩や脚の動きを邪魔しないための細かな工夫。

 一つ一つが、恐ろしく丁寧に作られている。

 ヴィーゴは無言で作業を続けていた。


 その姿を、リーネアはしばらく黙って見ていた。

 カン。

 金属が叩かれる。

 カン。

 また一度。

 形を確かめるように、ヴィーゴが装甲を持ち上げる。

 少しだけ角度を変える。

 光の反射を見る。

 指先で表面を撫でる。

 そして、また作業へ戻る。


「……」


 リーネアは自然と息を潜めていた。

 普段のヴィーゴしか知らなければ、きっと分からなかった。

 変なことを言う。

 ビキニアーマーにやたらとこだわる。

 妙な冗談も言う。

 けれど。

 目の前の彼は、間違いなく職人だった。


「……ヴィーゴって」


 思わず口からこぼれる。


「ちゃんと職人だったんだね」

「え?」


 その声で、ようやくヴィーゴが顔を上げた。


「……リーネアさん?」

「おはよう」

「おはようございます……」


 ヴィーゴは少し驚いた顔をした。


「いつからいたんですか?」

「結構前から」

「全然気づきませんでした」

「すごい集中してたもん」


 リーネアは工房の中を見回した。


「何作ってたの?」

「新しいビキニアーマーです」

「また?」

「はい。またです」


 ヴィーゴは当然のように答える。


「昨日の戦闘を見て、いくつか思いついたことがありまして」

「昨日ので?」

「はい」


 ヴィーゴは作りかけの装備を手にする。


「装備者の動き方には個人差があります。筋肉の付き方、関節の可動範囲、重心の位置、戦闘時の癖――」


 そこまで言って、リーネアの顔を見る。


「……興味ありますか?」

「ちょっとだけ」

「では――」

「でも今はいいや」

「……そうですか」


 ヴィーゴの肩が、ほんの少し落ちた。


「分かりやすいね」

「職人なので」

「それ関係ある?」


 リーネアが笑う。


「それより、昨日の鎧」

「ああ」


 ヴィーゴの視線がリーネアの装備へ移る。

 その瞬間、表情が変わった。


「……見せてください」

「やっぱり?」

「はい」


 ヴィーゴはすぐに作業台を片付けた。


「傷がありますね」

「結構ついた?」

「思ったより軽いです。ミニワイバーンの爪を何度も受けたにしては、ほとんど問題ありません」

「身体は本当に何ともなかったよ」

「それは良かったです」


 ヴィーゴは装甲の傷を一つ一つ確認していく。

 指で触れる。

 角度を変える。

 光に当てる。


「ここは少し削れていますね」

「うん」

「こちらは表面だけです」

「なるほど」

「ただ――」


 ヴィーゴが眉を寄せる。


「昨日の戦闘で、左側に若干のズレが出ています」

「ズレ?」

「装備を着ている本人には、ほとんど分からない程度ですが」


 ヴィーゴは装甲を裏返した。


「こういう小さなズレが積み重なると、動きに影響が出ます」

「そんなの分かるんだ」

「分からなければ職人失格です」


 即答だった。


 リーネアは思わず笑う。


「じゃあ、直せる?」

「もちろんです」


 ヴィーゴは工具を取り出した。


「少し時間をください」

「分かった」


 リーネアは工房の隅に置かれた椅子へ腰を下ろした。

 ヴィーゴはすぐに作業へ戻る。

 そこからしばらく。

 工房には、金属を削る音だけが響いていた。

 その静かな時間が、リーネアには妙に心地よかった。

 昨日までは、ビキニアーマーを見るだけで落ち着かなかった。

 今は違う。

 この装備を作った人間が、こうして目の前で手入れをしている。

 そう思うと、少しだけ愛着が湧いてくる。


 待っている間、暇になったリーネアは工房の中を改めて見渡した。

 棚には、完成したビキニアーマーが並んでいる。

 白銀。

 黒。

 赤みを帯びた金属。

 革を使ったもの。

 布を組み合わせたもの。

 軽量そうなものから、見るからに頑丈そうなものまである。


「……こんなに種類あったんだ」


 リーネアは立ち上がって近づいた。

 一つ一つ眺めていく。


「これ、全部ヴィーゴが作ったの?」

「はい」

「すご……」

「装備者によって適した形が違いますから」

「でも、普通の鎧も作れるんじゃないの?」

「作れますよ」

「じゃあ、なんでビキニアーマーなの?」


 その質問に。

 ヴィーゴの手が止まった。


「……」

「?」


 しばらく沈黙が続く。

 やがてヴィーゴは、工具を置いた。


「少し昔の話になりますけど」

「うん」

「俺は子供の頃、モンスターに襲われたことがあるんです」


 リーネアは振り返った。


「森の中で、どうにもならなくなっていたところを、一人の女戦士に助けてもらいました」

「女戦士?」

「はい」


 ヴィーゴは少しだけ笑った。


「その人が、ビキニアーマーを着ていたんです」

「……なるほど」

「当時の俺には、それがすごく印象的でした」


 ヴィーゴは遠くを見るような目をした。


「その姿で、ものすごい速さで動いて、モンスターを倒した」

「へぇ……」

「もちろん、今考えれば装備だけが強さの理由じゃありません」

「うん」

「その人自身が強かったんです」


 ヴィーゴはそう言ってから、もう一度作業台へ目を向けた。


「でも、あのときの俺には、ビキニアーマーを着た姿がとても格好よく見えた」

「それで?」

「それで、いつか自分も、あんな装備を作れる職人になりたいと思ったんです」

「……」

「自分を助けてくれた人に、いつか自分の作った装備を着てもらいたい」


 リーネアは少しだけ目を丸くした。


「今も、その人を探してるの?」

「……はい」


 ヴィーゴは小さく頷いた。


「まだ会えていません」

「そっか」

「だから俺は、もっと良い装備を作れるようになりたいんです」


 ヴィーゴが装甲へ手を伸ばした。


「ただ露出が多いからビキニアーマーを作っているわけではありません」

「うん。昨日でちょっと分かった」

「本当ですか?」

「うん」


 リーネアは、自分の身体を軽く動かしてみた。

 腕を回す。

 腰をひねる。

 一歩踏み込む。

 確かに、身体の動きがほとんど邪魔されない。


「動きやすいし」


 装甲を見る。


「ちゃんと守ってくれる」


 そして。


「……私でも、ちゃんと戦えた」


 最後の言葉に、ヴィーゴは少しだけ嬉しそうに笑った。


「それが一番です」

「……ねえ」

「はい」

「もしかして、この鎧って」


 リーネアは少し考えてから尋ねた。


「私に合わせて作ったの?」

「もちろんです」

「最初から?」

「見たときに大体の身体的特徴は分かりました」

「……怖っ」

「職人ですから」

「それ何でも職人で済ませるね」


 二人とも笑った。

 そんな話をしているうちに、ヴィーゴの作業が終わった。


「できました」

「もう?」

「簡単な修復と調整ですから」


 ヴィーゴは装備をリーネアへ渡した。


「着てみてください」

「うん」


 リーネアは工房の隣にある簡易の着替えスペースへ入る。

 ほどなくして出てきた。


「どう?」

「動いてみてください」

「はいはい」


 リーネアが腕を回す。

 腰をひねる。

 軽く跳ぶ。


「……すごい」

「違和感は?」

「ない」

「なら問題ありません」

「昨日より着やすい気がする」

「それは錯覚ではありません」


 ヴィーゴが少し得意げに胸を張った。


「微調整しましたから」

「そっか」


 リーネアは装甲に触れた。

 昨日、ミニワイバーンに何度も引っかかれた場所。

 そこにはもう、傷がほとんど見えない。


「ありがとう」

「いえ」

「大事にするね」

「……」


 ヴィーゴが一瞬、驚いたような顔をした。


「どうしたの?」

「いえ」


 小さく笑う。


「そう言ってもらえると、職人として嬉しいです」


 その笑顔を見て。

 リーネアは昨日とは少し違う気持ちになった。

 この男は変だ。

 かなり変だ。

 でも。

 作っているものには、誰より真剣だ。

 そのことが分かっただけでも、今日ここへ来た意味はあったのかもしれない。


「さて」


 ヴィーゴが作業台の上を片付ける。


「では、これからのことを話しましょう」

「うん!」

「次に狙うなら――ホーンボアがいいと思います」


「ホーンボア?」


 リーネアが少し考える。


「ツノウサギより一段上の相手だよね」

「はい」

「森や草原にいる猪型のモンスター」

「そうです」


 ヴィーゴが頷く。


「体長はこのくらいでしょうか」


 両手を広げて、大きさを示す。


「一・二メートルから一・五メートルくらい。結構大きいよね」

「ええ。しかも、見た目以上に厄介です」

「頭が分厚いから?」

「そこもあります。あと牙ですね」

「正面から行くと危ないやつ」

「はい」


 リーネアは腕を組んだ。


「ホーンボアって、確か前脚で地面を掻くんだよね」

「よく知っていますね」

「二年も冒険者やってれば、そのくらいはね」


 少し得意げに胸を張る。


「突進する前に、前脚で地面をガッ、ガッて掻くんだよ。あれが予兆」

「その通りです」

「慣れてる冒険者なら、そこで来るって分かる」

「ただし――」


 ヴィーゴが人差し指を立てる。


「分かっていても、油断はできません」

「まあね」

「魔力を脚に集中させて、一気に加速しますから」

「ツノウサギと同じ魔力強化型か」

「はい。ただ、ツノウサギが速さを活かして何度も動くのに対して、ホーンボアは一発の突進に魔力を全部叩き込むようなタイプです」

「ああ。だから、当たったら痛いどころじゃない」

「その通りです」


 ヴィーゴは真剣に頷く。


「でも、逆に言えば」

「外させればいい?」

「はい」


 リーネアは少し身を乗り出した。


「突進したあと、すぐ方向転換できないんだよね」

「そこもよくご存じで」

「だから、横に避けるのが基本」

「そうです」


 ヴィーゴは満足そうに頷いた。


「ただ、今回はそれだけではありません」

「何?」

「素材です」


 その一言だけ、声の調子が変わった。


「……素材?」

「はい」

「またその目だ」

「どんな目でしょう」

「職人の目」

「当然です」


 ヴィーゴは目を輝かせた。


「ホーンボアの牙は強度がありますし、皮も厚くて防具に向いています」

「なるほど」

「それに頭部の素材が良いんです」

「頭?」

「分厚い頭部を守るために、魔力の影響で組織がかなり強固になっています」

「へぇ……」

「加工できれば、防具の補強材としてかなり使えると思います」


 ヴィーゴは作業台の上に置かれた装甲を眺めた。


「今の装備をさらに改良するにも、ちょうどいい素材です」

「……だからホーンボア?」

「はい」

「強いモンスターを狩りたいんじゃなくて、素材が欲しいんだ」

「それもあります」

「それも?」


 ヴィーゴは少し考えた。


「……正直に言えば、かなりあります」

「やっぱり!」


 リーネアは笑った。


「ほんと、分かりやすいなぁ」

「職人ですから」

「はいはい」


 リーネアも笑いながら頷いた。


 だが、ふと表情を変える。


「でも」

「はい」

「ホーンボアなら、私一人で戦うのはちょっと怖いな」

「ですから」


 ヴィーゴが立ち上がる。


「今回は僕も戦います」

「え?」


 リーネアが目を丸くした。


「ヴィーゴが?」

「はい」

「大丈夫なの?」

「一応、僕も冒険者ですから」

「……そういえばそうだった」

「一応、戦闘経験もあります」

「すっかり忘れてた」

「ひどいですね」

「だって、どう見ても職人なんだもん」

「職人で冒険者です」

「器用だね」

「よく言われます」


 ヴィーゴは剣を手に取った。


「昨日は、僕があまり戦える装備ではなかったので」


 剣を腰に戻す。


「次は、きちんと準備していきます」


 その言葉を聞いて、リーネアは少し嬉しくなった。

 昨日のように、自分だけで戦うのではない。

 今度は、二人で戦う。


「分かった」


 リーネアは頷いた。


「ホーンボア、狩ろう」

「はい」

「でも――」


 リーネアが少しだけ意地悪そうに笑う。


「また私ばっかり危ない目に遭わせたら怒るからね?」

「善処します」

「そこは『絶対守る』とか言うところじゃない?」

「冒険に絶対はありません」

「真面目か!」


 二人の笑い声が、工房の中に響いた。

 昨日までとは、少し違う。

 まだ始まったばかりの関係。

 けれど。

 これから先、一緒に戦うたびに。

 少しずつ。

 二人の距離は近づいていく。

 そして次の冒険の舞台は――。

 ツノウサギより一回り大きな危険が潜む、森の奥だった。

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