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究極の防具って知ってますか?そうビキニアーマーですね。  作者: チラミン


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4/20

ビキニアーマーの本領

 ミニワイバーンが翼を大きく広げた。

 夕暮れの草原に、巨大な影が落ちる。


「来るぞ!」


 ヴィーゴの声とほぼ同時に、ミニワイバーンが地面を蹴った。

 翼が大きく羽ばたく。

 風圧で周囲の草が一斉に倒れた。


「うわっ!」


 リーネアは反射的に横へ飛んだ。

 直後。

 ドンッ!

 ミニワイバーンの身体が、ついさっきまで彼女が立っていた場所を通り過ぎる。


「速い……!」


 振り返ったリーネアの目に、ミニワイバーンが翼を広げて旋回する姿が映った。

 体長は二メートルほど。

 巨大な竜と呼ぶには小さい。

 しかし、リーネアがこれまで相手にしてきたモンスターとは、明らかに格が違った。

 鋭い爪。

 長い牙。

 そして何より、空を自由に飛び回れる機動力。


「リーネア!」


「分かってる!」


 再び飛びかかってくる。

 今度は爪だ。

 リーネアは身体をひねってかわす。

 爪先が、頬のすぐ横を通り過ぎた。


「っ!」


 怖い。

 ツノウサギとはまるで違う。

 あちらは速いとはいえ、地面を走るだけだった。

 動きにもある程度の予測がつく。

 だが、ミニワイバーンは違う。

 飛ぶ。

 急に高度を変える。

 方向を変える。

 そして、上から襲いかかってくる。


「ヴィーゴ!」


「はい!」


「これ、どうするの!?」


「……」


 ヴィーゴは答えなかった。

 答えられなかった。

 彼は今回、戦闘をするつもりでここまで来たわけではない。

 目的はリーネアのツノウサギ討伐。

 そして、そのついでに少し素材を採取すること。

 そのため、身につけている装備も軽量な採集用のものだった。

 剣は持っている。

 だが、ミニワイバーンと正面から戦えるような武器ではない。

 盾もない。

 重装備もない。


「……まずいな」


 ヴィーゴは周囲を見回した。

 逃げる。

 それが一番いい。

 しかし、ミニワイバーンは空を飛ぶ。

 こちらより遥かに速い。

 しかも、二人が巣の近くまで入り込んだことで完全に警戒状態になっている。

 縄張りから出るまで追ってくる可能性が高い。


「リーネア!」


「なに!」


「俺が言ったら、街道の方向へ走れますか!」


「走るだけなら!」


「分かりました!」


 その瞬間。

 ミニワイバーンが再び急降下した。


「来る!」


 リーネアは身を低くした。

 頭上を爪が通り抜ける。

 続けざまに翼が横薙ぎに振られる。


「っ!」


 リーネアは後ろへ跳んだ。

 さらに一歩。

 もう一歩。

 攻撃を避ける。

 避ける。

 避ける。

 だが――。


「くっ!」


 爪の先端が、脇腹を掠めた。

 リーネアは思わず身体を強張らせる。

 けれど。

 痛みがない。


「……え?」


 リーネアは自分の身体を確認した。

 傷がない。

 白銀の装甲には、細い爪痕が残っている。

 だが、その下の身体には何もない。


「……当たったよね?でも、痛くない」


「当然です」


 ヴィーゴは落ち着いた声で答えた。


「その程度の攻撃なら、装甲が防ぎます」


 ミニワイバーンはすでに次の攻撃へ移っている。

 リーネアは慌てて避けた。

 今度は肩。

 爪が装甲を引っかいた。

 キィン!

 金属音が響く。

 それでも傷はない。


「ヴィーゴ!」


「はい!」


「これ、すごくない!?」


「ええ。俺の設計どおりです」


 ヴィーゴは自分の作った装備を見つめた。

 もちろん、性能には自信があった。

 ミニワイバーンの爪は、駆け出し冒険者にとって十分に致命傷になり得る。

 それを。

 リーネアは紙一重でかわしながら、何度も装甲に受けている。

 それでも傷一つない。

 しかし――。


「リーネア!」


「分かってる!」


 次の攻撃。

 さらに次。

 リーネアは必死にかわす。

 避ける。

 身体をひねる。

 しゃがむ。

 跳ぶ。

 ビキニアーマーが、その動きを一切邪魔しない。

 むしろ、身体が勝手に動いているような感覚だった。

 だが、攻撃する余裕はない。


「くっ……!」


 ミニワイバーンが空へ舞い上がる。

 リーネアは剣を構えた。

 しかし、攻撃するべきタイミングが分からない。

 高い。

 速い。

 怖い。

 これまで相手にしたことのない大きさ。

 もし剣を外したら。

 次の攻撃を受けたら。

 頭の中にそんな考えが浮かぶ。


「……怖い」


 思わず口から漏れた。

 ヴィーゴはその言葉を聞いた。

 無理もない。

 ツノウサギなら、まだ戦える。

 だが、目の前にいるのは別物だ。

 リーネアは一人でよく耐えている。

 それでも、このままではいずれ体力が尽きる。

 ヴィーゴは周囲を見回した。


 草。


 岩。


 倒木。


 ミニワイバーン。


 そして自分の持ち物。


「……」


 何かないか。

 武器ではない。

 ミニワイバーンを倒す必要はない。

 必要なのは――。

 逃げるための隙。


「……そうか」


 ヴィーゴの目が止まった。

 腰に下げていた採集道具。

 その中に、布があった。

 採取した素材を包むための簡単な布袋。

 そして、足元に落ちている拳より少し小さな石。


「リーネア!」


「なに!」


「今から俺が合図したら、俺の方向を見てください!」


「分かった!」


 リーネアはミニワイバーンの攻撃を避けながら答えた。

 ヴィーゴは布を取り出した。

 石を一つ拾う。

 布を石に軽く巻きつけ、完全には固定しないように結ぶ。

 簡単な仕掛けだ。

 上手くいく保証などない。

 それでも、他に方法はなかった。


「……頼むぞ」


 ヴィーゴは立ち上がった。


「リーネア!」


「うん!」


「今!」


 ヴィーゴが走り出した。


「こっちだ!」


 大声で叫ぶ。

 ミニワイバーンの頭が動いた。

 敵意の対象が変わる。

 翼を広げる。

 ヴィーゴへ向かって急降下してくる。


「よし……!」


 怖い。

 自分が狙われるのは当然怖い。

 だが、今はリーネアを守らなければならない。

 ミニワイバーンが近づく。


 十五メートル


 十メートル。


 五メートル。


 ヴィーゴは布を巻いた石を握りしめた。

 そして――。


「これでも食らえ!」


 投げた。

 石は真っ直ぐ飛んでいく。

 ミニワイバーンの目前まで迫った瞬間。

 布を留めていた結び目がほどけた。

 バサッ!

 布が一気に広がった。


「ギャッ!?」


 ミニワイバーンの視界を覆う。

 突然目の前を塞がれたことで、ミニワイバーンが大きく体勢を崩した。


「今だ!」


 ヴィーゴが叫ぶ。

 リーネアはすでに走り出していた。


「やああああっ!」


 白銀の装甲が草原を駆ける。

 ミニワイバーンの視界を覆う布。

 その隙間から見えた目。

 リーネアは迷わなかった。


「ごめん!」


 一閃。

 剣がミニワイバーンの目元を切り裂いた。


「ギャアアアアアッ!」


 絶叫が草原に響く。

 ミニワイバーンが激しく暴れた。

 翼がめちゃくちゃに動き、草が舞い上がる。


「走れ!」


「分かってる!」


 二人は全力で駆け出した。

 振り返らない。

 とにかく離れる。

 ミニワイバーンの縄張りから出る。

 それだけを考えて走った。

 しばらくして。


「……はぁ……!」


 リーネアが息を切らした。


「もう……追ってこない?」


 ヴィーゴも振り返る。

 遠くにミニワイバーンの姿は見えない。


「大丈夫です」


「……助かった」


 二人はその場に座り込んだ。

 しばらく、何も言えなかった。

 やがてリーネアが口を開く。


「ねえ、ヴィーゴ」


「はい」


「私さ」


「はい」


「今日、一回も怪我してないよね?」


「……そうですね」


「何で?」


 リーネアは自分の身体を見る。

 装甲にはいくつか傷がある。

 しかし、身体には傷一つない。


「ツノウサギのときもそうだったけど……」


 彼女は自分の胸部装甲や腰部装甲を見る。


「ミニワイバーンに何度も攻撃されたのに、全然平気だった」


「ビキニアーマーの性能です」


「そんなにすごいの?」


「ええ」


 ヴィーゴは少し得意げに胸を張った。


「ビキニアーマーというのは、効率を究極まで追い求めた装備です」


「効率?」


「はい」


 ヴィーゴは装備を指差す。


「鎧を全身に装着すれば、当然、防御できる場所は増えます。しかしその分、重くなり、動きも制限されます」


「うん」


「そこで、敵の攻撃が集中しやすい場所を重点的に守る」


「……なるほど」


「さらに、守っていない部分には、装備者自身の回避能力を使わせる」


 ヴィーゴはリーネアを見る。


「あなたの場合、特にそれが有効です」


「私?」


「はい。あなたは身体能力が高い」


 ヴィーゴは続ける。


「ならば、身体能力を活かして攻撃そのものを避ける。そして避けきれない攻撃だけを装甲で受ける」


「……だから」


 リーネアは気付いた。


「さっき、何度も攻撃されたのに……」


「ええ。紙一重で避けた攻撃は、そのほとんどが空を切りました」


「でも、避けきれなかった爪は鎧が受けた」


「その通りです」


 ヴィーゴは笑った。


「これがビキニアーマーです」


「……すごい」


 リーネアはしばらく装備を眺めた。

 最初は、ただ恥ずかしいと思った。

 こんな格好で街を歩くなんて、と。

 けれど。

 ツノウサギを倒せた。

 そして今日、ミニワイバーンから生きて逃げられた。

 もちろん、ヴィーゴの機転がなければ危なかった。

 それでも、この装備が自分の身体能力を最大限に引き出してくれたことは分かる。


「……ねえ、ヴィーゴ」


「はい」


「ビキニアーマーってさ」


「はい」


「ちょっとだけ……」


 リーネアは照れくさそうに笑った。


「悪くないかも」


「……!」


 ヴィーゴの目が輝いた。


「本当ですか!?」


「ちょ、ちょっとだけだからね!」


「やはり! 俺の設計思想は間違っていなかった!」


「そこまで喜ぶ!?」


「これは大きな一歩ですよ!」


「はいはい」


 リーネアは笑った。

 そして二人は、夕暮れの街道を歩き始めた。

 グリューネヴァルトの城壁が遠くに見えてくる。

 街の灯りが、少しずつ夕闇の中に浮かび始めていた。


「今日は色々あったね」


「ええ」


「ツノウサギも倒せたし」


「三匹です」


「ミニワイバーンにも襲われた」


「それは予定外でした」


「でも、生きて帰れた」


「それが一番です」


 リーネアは歩きながら、もう一度自分の装備を見下ろした。

 白銀のビキニアーマー。

 まだ少し恥ずかしい。

 街へ戻れば、きっとまた人目を引くだろう。

 それでも。

 今までとは少しだけ違う気持ちで、この装備を身につけている自分を受け入れられそうだった。


「……ねえ、ヴィーゴ」


「何です?」


「この鎧さ」


「はい」


「ちゃんと手入れしてね」


「もちろんです」


「今日、結構傷ついたから」


「俺が責任を持って直します」


「よろしく」


 二人の足音が、夕暮れの街道に響く。

 その先には、二人が暮らすグリューネヴァルトの街が待っている。

 そしてこの日を境に。

 リーネアとヴィーゴの冒険は、少しずつ変わり始めていくのだった。


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