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究極の防具って知ってますか?そうビキニアーマーですね。  作者: チラミン


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16/20

初めての旅

旅立ってから、しばらく経った。


街道は、グリューネヴァルトを出てからゆるやかに南へ伸びている。道幅は馬車がすれ違える程度には広く、ところどころ車輪の跡が残っていた。左右には草原が広がっていたが、少し先には南へ続く森林地帯の木々が見えている。


二人は並んで、その街道を歩いていた。


グリューネヴァルトを出るときは、これから始まる旅への期待で胸がいっぱいだったリーネアも、しばらく歩いているうちに、いつもの狩りとは違うことを少しずつ実感し始めていた。


何しろ今日は、帰る必要がない。

目的地は数日先だ。

いつものように、夕方になれば町へ戻ってベッドで眠るというわけにはいかない。

そんなことを考えていたのか、ヴィーゴがふと横を見る。


「そういえば、リーネア」

「ん?」

「歩くペース、速くないですか?」

「え?」


言われて、リーネアは少しだけ首を傾げた。


「そうかな?」

「そうですよ。かなり歩けています」


ヴィーゴはそう言いながら、リーネアの歩幅と自分の歩幅をちらりと見比べた。


「今までは日帰りの依頼がほとんどだったでしょう。目的地まで行って、狩りをして、また町へ戻る。多少無理をして歩いても、あとで休めばよかったですけど……旅はそうもいきません」

「なるほど」

「長時間歩き続けることになりますから、きつくなったらちゃんと言ってくださいね」

「うん。今のところは大丈夫」


リーネアは軽く足を振ってみせる。


「しんどくなったらちゃんと言うから」

「ならいいんですけど」


ヴィーゴは頷きながら、また前を向いた。


「無理をして途中で動けなくなるのが一番困りますからね」

「そこまで私、無茶しないよ」

「……それはどうでしょう」

「なんでそこで疑うの!?」


「何となくです」

「ひどい!」


笑いながらも、リーネアは少し歩く速度を落とした。

ヴィーゴも合わせて歩調を緩める。

二人の横を、風が吹き抜けていく。

しばらくすると、リーネアが背負った荷物を気にするように肩を揺らした。


「そういえばさ」

「はい?」

「食料って、どれくらい持ってきたんだっけ?」

「何日か分はあります。保存のきくものを中心にしてありますから」

「水は?」

「水は食料ほど余裕がありません」


ヴィーゴは少し考えてから答えた。


「一応、今の分はありますけど、飲み水はどうしても減ります。どこかで補給できるといいですね」

「街道沿いなら、水場とかあるかな」

「あると助かるんですけどね。井戸か、川か、小さな泉でもあればいいんですが」


リーネアは前方を見た。

街道はまだまだ先へ続いている。


「こういうのも旅なんだね」

「そうですね」

「冒険者って、モンスターを倒すだけじゃないんだ」

「むしろ、町の外に長くいるなら、こういうことのほうが大事かもしれません」


ヴィーゴは背中の荷物を少し持ち上げた。


「食料、水、寝る場所、火を起こす道具、それに装備の手入れ。どれか一つでも欠けると困りますから」

「……」


リーネアは隣のヴィーゴを見た。

相変わらず荷物が大きい。

しかも、その大半が普通の冒険者の荷物だけではないことをリーネアは知っている。

自分とヴィーゴの装備の修理道具。


替えの革。

留め具。

鋲。

糸や針。

小さな金槌。

やすり。

穴あけ工具。

細かな補修用品。

旅先で何かあれば、ヴィーゴはその場で直すつもりなのだろう。


「ヴィーゴって、本当に職人なんだね」

「どうしたんです、急に」

「いや、なんでもない」


リーネアはくすっと笑った。


「でも、頼りにはなるよね」

「それは……どうも」


少しだけ照れたようにヴィーゴは前を向く。

そんなやり取りをしながら歩いているうちに、太陽は少しずつ高くなっていった。

やがてヴィーゴが足を止める。


「そろそろお昼にしましょうか」

「えっ、もう?」


リーネアは空を見上げた。

太陽はまだ真上より少し低いくらいだ。


「ちょっと早くない?」

「長旅では、無理をしないことが大切です」


ヴィーゴは何でもないことのように言った。


「お腹が空いてから探すより、少し余裕を持って休憩したほうがいい。午後もしっかり歩けますから」

「なるほど……」


リーネアは感心したように頷く。


「なんかヴィーゴ、こういうときだけすごくしっかりしてる」

「こういうときだけって何ですか」

「普段はビキニアーマーのことになると急に変になるから」

「それは職人として当然です」

「はいはい」


二人は街道の脇へ少し移動し、昼食を取った。

保存のきくパンに、干し肉、それから簡単な野菜の漬け物。

グリューネヴァルトにいた頃なら、もっと温かくて美味しいものを食べる機会も多い。

けれど、青空の下で二人並んで食べる昼食は、それとはまた違う味がした。


「これ、思ったよりおいしい」

「保存食ですから、期待してなかったでしょう」

「うん」


即答だった。


「でもおいしい」

「それなら何よりです」


食事を終えると、二人は再び街道を歩き始めた。

午前中よりも、ややゆっくりしたペースだった。

それでもリーネアの足取りに疲れはまだ見えない。

時折、すれ違う荷車や旅人に軽く会釈をしながら進んでいく。

グリューネヴァルトの近くにいた頃は、どこか見慣れた景色の中を歩いている感覚があった。

けれど、少しずつ南へ進むにつれて、その感覚が薄れていく。


知らない道。

知らない景色。

知らない町へ続く街道。


リーネアは何度も振り返っては、遠くのグリューネヴァルトを思い出していた。

やがて太陽が傾き始める。

草原の向こうから伸びた影が、街道に長く落ちていた。

リーネアが空を見上げる。


「もう夕方かぁ」

「今日はこの辺までにしましょう」


ヴィーゴが足を止めた。


「え?」

「ここから先へ行くのはやめて、今日は野営です」

「もう?」

「初日ですから。まだ歩けますけど、最初から無理しても仕方ありません」


そう言って、ヴィーゴは街道の先を見た。


「それに、街道沿いでそのまま寝るのは避けたほうがいいです」

「どうして?」

「夜盗に襲われる可能性があります」

「……あ」


リーネアは周囲を見回した。


「そっか。人通りがあるから安全ってわけじゃないんだ」

「昼間ならともかく、夜は別です。街道沿いに明かりを出して寝ていたら、見つけてくださいと言っているようなものですから」


ヴィーゴは少し先にある森林地帯へ視線を向けた。


「森に少し入ったところでキャンプしましょう。深く入りすぎなければ、野営する場所としては悪くないです」

「うん!」


リーネアの顔がぱっと明るくなる。


「キャンプ!」

「……なんでそんなに嬉しそうなんですか」

「だって!」


リーネアは荷物を降ろしながら、目を輝かせた。


「なんだかすごく冒険者っぽいことしてる!」

「今までだって冒険者でしたよ」

「そうだけどさ!」

「森に入って、焚き火をして、野宿するだけですよ」

「それが冒険っぽいんだって!」


妙にテンションの高いリーネアを横目に、ヴィーゴは苦笑する。

二人は街道から少し離れ、森の浅い場所へ入った。

人の手が入っているのか、下草はそこまで深くない。

ヴィーゴは周囲を確認しながら、木々の間に少し開けた場所を見つけた。


「ここにしましょう」

「うん!」


荷物を下ろし、簡単な寝床を整える。

ヴィーゴが薪になる枝を集め、火を起こす場所を決めている間、リーネアはきょろきょろしながら辺りを見回していた。

普段なら依頼の合間に通り過ぎるだけの森。

今日はそこが、自分たちの寝る場所になる。

それだけで、妙な高揚感があった。


「なんか、本当に別の場所に来た感じがする」

「まだグリューネヴァルトからそんなに離れてませんけどね」

「でも今日は帰らないじゃん」

「それはそうです」


ヴィーゴは空を見上げた。

木々の隙間から、夕暮れの空が見える。

雲は少ない。


「明日も晴れそうですね」

「晴れるといいね」

「たぶん大丈夫でしょう」


そう言ってから、ヴィーゴは火の準備をしていたリーネアを見る。


「じゃあ、火をお願いします」

「任せて!」


リーネアは張り切って薪を組み、火打ち石を使って火を起こし始めた。

最初はなかなか火がつかなかったが、何度か試しているうちに小さな炎が生まれる。


「ついた!」

「おお」

「ふふん」

「得意そうですね」

「だって今、すごく冒険者してるもん」

「そこですか」


ヴィーゴは笑いながら、夕食の準備を始めた。

昼よりもしっかり食べられるように、干し肉を細かく切り、持ってきた野菜と一緒に鍋へ入れる。

火の上で鍋が温まり、やがて食欲をそそる匂いが立ち込めた。

二人は焚き火を挟んで向かい合い、温かな夕食を食べる。


赤々と燃える火。

暮れていく空。

遠くで鳴く鳥の声。

そして、町の喧騒がない静かな森。

リーネアはスプーンを止め、しばらく周囲を眺めた。


「……なんか、不思議」

「何がです?」

「私、冒険者になってから、グリューネヴァルトをこんなに離れたことなかったんだよね」


ヴィーゴは黙って聞いている。


「いつも町の近くで依頼受けて、終わったら戻って。だから……」


リーネアは焚き火を見つめた。


「ついに旅に出たんだなって、今になって実感する」

「そうですね」


ヴィーゴはゆっくり頷いた。


「僕も、こうして誰かと旅をするのは初めてです」

「ヴィーゴも?」

「ええ。材料を探しに遠出することは考えたことがありますけど、何日もかけて町を渡り歩くのは初めてです」

「じゃあ、二人とも初めてなんだ」

「そうなりますね」


リーネアは少し嬉しそうに笑った。


「なんかいいね」

「何がです?」

「初めての旅を、一緒にしてるってこと」


ヴィーゴは少しだけ目を丸くした。

それから、穏やかに笑う。


「……そうですね」


しばらく二人は、焚き火の音を聞いていた。

パチと薪が弾ける。

その静かな時間の中で、ふとリーネアが顔を上げた。


「ん?」

「どうしました?」

「……あれ」


彼女が指差した先。

木々の向こう、かなり遠くに、小さな明かりが見えた。

一つではない。

いくつかの淡い光が、暗くなり始めた景色の中でゆっくりと動いている。

ヴィーゴも目を細める。


「……あれは」


立ち上がるほどではない。

けれど、視線は外さない。


「規模からして、おそらく隊商の明かりでしょう」

「隊商?」

「ええ。荷馬車が何台か連なっているんだと思います」

「こんな時間まで移動してるんだ」

「急いでいるんですかね?」


ヴィーゴは少し考えてから、また座り直した。


「まあ、僕たちには関係ありません」

「そっか」

「僕たちは今日は早めに休みましょう」


ヴィーゴはそのまま地面にごろんと横になった。


「また明日は街道を進みますから」

「うん」


リーネアも焚き火の向きを少し整える。

燃える薪が、二人の顔を赤く照らしていた。

遠くでは、隊商らしき明かりが小さく揺れている。

けれど二人はそれを追うこともなく、自分たちの焚き火のそばで静かに夜を迎えた。


明日は、また知らない景色が待っている。

フェルドドルフへ続く街道の先へ。

二人の旅は、まだ始まったばかりだった。


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