↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
究極の防具って知ってますか?そうビキニアーマーですね。  作者: チラミン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/20

旅立ちの理由

 青空が広がる草原を、二人の冒険者が歩いていた。


「今日もいい天気!」


 リーネアが両腕を伸ばす。

 その姿は、以前とは少し違っていた。


 身につけているのは、つい先日ヴィーゴから渡された新しいビキニアーマー。

 以前のものを改良し、より身体に馴染むように調整された白銀の装甲は、陽の光を受けて淡く輝いていた。


「新しい装備の具合はどうですか?」


 隣を歩くヴィーゴが尋ねる。


「かなりいいよ」


 リーネアは身体をひねり、腕を回す。


「動きやすいし、走ってても全然邪魔にならない」

「それなら良かったです」

「魔力も前より使いやすい気がする」

「魔石の配置を変えましたから」

「ほんの少ししか魔力がない私でも?」

「少ないからこそ、無駄を減らす意味があります」


 ヴィーゴは満足そうに頷いた。


「今日はその性能を実戦で確認しましょう」

「うん。相手はスパークラビットだっけ?」

「はい」


 スパークラビット。

 見た目はツノウサギによく似ている。

 ただし、体格は一回り大きく、七十センチほど。

 頭から伸びる角はツノウサギより短い代わりに太く、そこへ魔力を集めることができる。


「脚だけじゃなくて角にも魔力を集められるんだよね」

「ええ」

「突進してくるときに、角へ魔力を集中させる」

「その瞬間に、衝撃波のような一撃を飛ばします」

「それ、食らったら痛そう」

「かなり痛いです」


 ヴィーゴは真顔で答えた。


「ただし、連発はできません」

「一回撃ったら、少し間ができる」

「はい」

「じゃあ、その隙を狙えばいい」

「その通りです」


 スパークラビットは普段は比較的おとなしい。

 だが、ひとたび敵と認識すれば、強烈な一撃を見舞ってくる。

 ツノウサギよりわずかに強く、冒険者が自分の腕を試す相手として選ぶこともある。


「……いた」


 リーネアが足を止めた。

 少し先。

 草むらから、大きなウサギが顔を出していた。


「スパークラビットです」


 ヴィーゴが声を落とす。

 ツノウサギより一回り大きい身体。

 そして、太く短い角。


「本当にツノウサギそっくりだね」

「よく見ると違いますよ」

「分かってるって」


 リーネアは剣を抜く。

 ヴィーゴも盾を構えた。


「じゃあ、行こう」

「はい」


 二人がゆっくり距離を詰める。

 スパークラビットが顔を上げた。

 耳が動く。


「来る!」


 地面を蹴った。

 リーネアは横へ跳ぶ。

 その直後。

 スパークラビットの角が淡く光った。


「魔力!」


 ヴィーゴが叫ぶ。

 スパークラビットが頭を振る。

 ――ドンッ!

 目に見えない衝撃が草を薙いだ。


「わっ!」


 リーネアが身体をひねってかわす。

 背後の草が一気に倒れた。


「これが衝撃波か!」

「一度使えば、しばらく魔力を溜め直します!」

「じゃあ、その間!」


 リーネアが走り出した。

 スパークラビットが体勢を整えるより先に、ヴィーゴが横から回り込む。


「こっちです!」


 盾を構えて威嚇する。

 スパークラビットがヴィーゴへ向く。


「今!」


 リーネアが反対側から踏み込む。

 剣が走る。

 しかし、スパークラビットが身体をひねった。

 刃が毛をかすめる。


「惜しい!」

「次です!」


 ヴィーゴが盾で進路を塞ぐ。

 スパークラビットが右へ跳ぶ。

 そこにはリーネア。


「はい!」


 斬撃。

 今度はしっかりと入った。

 スパークラビットが後ろへ跳ねる。


「やった!」


 だが、すぐに頭を低くした。


「来る!」


 リーネアが身構える。

 スパークラビットが一気に突っ込んできた。

 だが、その軌道をヴィーゴが読む。


「リーネア、左!」

「うん!」


 二人が同時に動いた。

 スパークラビットが二人の間を通り抜ける。

 そのまま振り返ろうとした瞬間。


「今!」


 ヴィーゴが盾で横から押し込む。

 スパークラビットの身体がわずかに傾いた。

 その隙に。


「せえっ!」


 リーネアの剣が振り下ろされる。

 スパークラビットは大きく跳ねた。

 だが、今度は着地した瞬間に動きが止まった。


「終わりです」


 ヴィーゴの一言とともに、二人の剣が同時に閃いた。

 数瞬後。

 草原に静けさが戻る。


「……倒した」


 リーネアが剣を下ろす。


「はい」


 ヴィーゴも息を整えながら頷いた。


「どうだった?」

「良いですね」

「新しい鎧?」

「それもあります」


 ヴィーゴがリーネアの動きを思い返す。


「身体の切り返しが速くなっています。魔力の流れも問題ありません」

「ほんと?」

「はい」


 リーネアは嬉しそうに笑う。


「じゃあ、新しい装備もばっちりってことだね」

「ええ。想定以上です」

「やった!」


 リーネアは拳を握った。

 その後、二人はスパークラビットを手早く処理し、素材をまとめる。

 帰り道。

 二人の歩調はいつもより軽かった。


「ねえ」


 しばらく歩いたところで、リーネアが口を開く。


「私たち」

「はい」

「結構、強くなったよね」


 ヴィーゴは少し考えた。


「以前よりは、かなり」

「だよね」


 リーネアは満足そうに頷いた。


「だったらさ」


 少しだけ前を向く。


「またミニワイバーンと戦えるかな?」


 ヴィーゴの足が止まった。


「……ミニワイバーンですか」

「うん」


 リーネアも歩みを止める。


「前に会ったときは、ほとんど何もできなかったでしょ」

「そうですね」

「でも、今の私たちなら」


 リーネアは剣に手を添える。


「戦える気がするんだ」


 ヴィーゴはすぐには答えなかった。

 しばらく考え。


「……難しいと思います」

「やっぱり?」

「はい」

「どうして?」

「単純に、僕たちの攻撃手段に問題があります」

「攻撃手段?」

「僕もリーネアさんも、基本的には近接戦闘です」


 ヴィーゴは指を一本立てた。


「リーネアさんは剣」

「うん」

「僕は剣と盾」

「うん」

「つまり、どちらも近づいて戦う必要があります」

「……確かに」

「ミニワイバーンは空を飛べます」

「うん」

「上空からこちらを攻撃されれば、僕たちは攻撃する手段がほとんどありません」


 リーネアは黙った。


「石でも投げる?」

「前回の布を巻いた石のような奇策なら可能でしょう」

「でも、いつも使えるわけじゃない」

「はい」

「弓とか魔法とか、遠くから攻撃できる人がいれば……」

「かなり違います」


 ヴィーゴが頷く。


「でも今は、そういう仲間がいません」


 リーネアは腕を組んだ。


「そっか……」


 二人とも、しばらく黙って歩いた。

 街へ続く道。

 草原の風が二人の横を吹き抜けていく。


「じゃあ」


 リーネアがぽつりと言った。


「私たちがこの街の近くで狩れるモンスターって、もうあんまり残ってないんじゃない?」


 ヴィーゴは前を見たまま、頷いた。


「……はい」

「スパークラビット」

「はい」

「ホーンボア」

「はい」

「スピアディア」

「はい」

「ミニワイバーンは難しい」

「はい」

「じゃあ、このまま同じところで狩りを続けてたら……」

「できることは少なくなっていくでしょうね」


 リーネアは空を見上げた。

 グリューネヴァルトの周囲には、これまでたくさんのモンスターがいた。

 ツノウサギを追い。

 ホーンボアと戦い。

 スピアディアに一度敗れ。

 鍛錬を積んで、今度は二人で勝った。

 それなりに強くなった実感はある。

 だが。

 その先が見えない。


「……」


 ヴィーゴも黙っていた。

 やがて。


「実は」

「ん?」

「最近、少し考えていたことがあります」


 リーネアが振り返る。


「何?」

「もっと良い素材を手に入れたい」


 ヴィーゴらしい言葉だった。


「そして、もっと強いモンスターとも戦いたい」

「うん」

「そのためには、この街の周辺だけでは限界があります」

「……」


「だから」


 ヴィーゴは少しだけ間を置いた。


「旅に出てみませんか?」

「……旅?」

「はい」


 リーネアの目が大きくなる。


「この街を出るの?」

「しばらくの間は」

「遠くまで?」

「もっと色々な場所へ行って」


 ヴィーゴは続けた。


「今まで見たことのないモンスターと出会って、珍しい素材を集める」

「うん」

「そして――」


 ヴィーゴは苦笑する。


「僕たちだけでは足りないなら、新しい仲間を探す」

「仲間……」

「はい」


 その言葉を聞いた瞬間。

 リーネアの顔がぱっと明るくなった。


「楽しそう!」

「……」

「私、グリューネヴァルトの外って、あんまり行ったことないんだよね」

「そうなんですか?」

「うん。冒険者になってからも、ほとんどこの辺りばっかり」


 リーネアは遠くを見る。


「知らない街。

 知らない森。

 知らないモンスター。

 知らない人たち」


 次々と思い浮かべる。


「なんか、ワクワクしてきた!」


 ヴィーゴはそんなリーネアを見て、嬉しそうに笑った。


「賛成してくれるんですね」

「もちろん!」

「本当に?」

「うん!」

「もっと危険な場所にも行くことになりますよ」

「そのために強くなったんでしょ?」

「……そうですね」


 ヴィーゴは小さく笑った。


「では、決まりです」

「やった!」


 リーネアが両手を上げる。

 けれど、ヴィーゴはすぐに続けた。


「ただし」

「まだあるの?」

「あります」

「なに?」

「準備です」


 ヴィーゴは指を折りながら数え始めた。


「工房をどうするか決める。

 必要な道具を揃える。

 旅に持っていく装備を選ぶ。

 素材の在庫を整理する。

 それから、旅費も確保しないといけません」


「……結構あるね」

「あります」

「すぐには出られないか」

「はい」


 ヴィーゴは少し考えてから言った。


「一か月後にしましょう」

「一か月!」

「それくらいあれば、準備を終えられると思います」

「分かった!」


 リーネアは頷く。


「じゃあ、一か月後!」

「はい」


 二人は再び街へ向かって歩き始めた。

 見慣れたグリューネヴァルトの城壁が、少しずつ近づいてくる。

 いつもと同じ景色。

 けれど。

 リーネアには、いつもより少し違って見えた。


「一か月かぁ……」

「どうしました?」

「旅に行くまで、もっと鍛えておこうかなって」

「良い心がけです」

「それと、旅先でどんな仲間に会うかも楽しみ」

「どんな人がいいですか?」

「強い人!」

「もっと具体的には?」

「んー……」


 リーネアは少し考える。


「一緒にいて楽しい人」

「なるほど」

「それから、ちゃんと背中を預けられる人」

「それは重要ですね」

「あと!」

「まだありますか?」

「変な人」

「……僕みたいな?」


 リーネアは横目でヴィーゴを見る。


「ヴィーゴより変な人って、なかなかいないと思う」

「そうですか?」

「うん」


 二人は笑った。

 グリューネヴァルトの門が近づいてくる。

 一か月後。

 二人はこの街を旅立つ。

 まだ行き先も決まっていない。

 どんなモンスターが待っているのかも分からない。

 どんな人と出会うのかも分からない。

 それでも。

 今は、それが楽しみだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。