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究極の防具って知ってますか?そうビキニアーマーですね。  作者: チラミン


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13/20

新しいビキニアーマー

 スピアディアを倒した翌日。

 朝の工房には、いつもより静かな空気が流れていた。

 昨日の激戦で二人ともかなり消耗したはずなのだが、ヴィーゴはすでに作業台の前に立っていた。

 手元には、昨日持ち帰ったスピアディアの素材。

 硬い角。

 厚みのある皮。

 そして、加工には少々扱いの難しい魔力を帯びた素材。

 ヴィーゴはそれらを一つずつ確かめながら、何かを考え込んでいる。


「……やっぱり、使える」


 ぽつりと呟いた。

 その様子を見ていたリーネアは、少しだけ苦笑した。


「朝から元気だね」

「ええ」


 ヴィーゴが振り返る。


「昨日の戦いで、色々と分かったことがあります」

「スピアディアとの戦い?」

「はい」


 ヴィーゴは作業台の上に広げられた素材を見る。


「これまでにも、あなたの身体の特徴や戦い方は観察してきました。でも、実際に強敵と戦ってもらったことで、さらに細かい部分が分かりました」

「……私、そんなに見られてたんだ」


 リーネアは少しだけ頬を赤くする。


「職人として必要なことです」

「分かってるけど……」


 なんとなく落ち着かない。

 ヴィーゴはそんな彼女の様子には気づかず、素材を手に取った。


「そこで」

「うん?」

「新しい装備を作ろうと思います」

「新しい?」

「はい」


 リーネアが目を丸くする。


「またビキニアーマー?」

「もちろんです」

「そっか」


 以前なら、ここで嫌そうな顔をしていたかもしれない。

 だが今のリーネアは、素直に頷いた。

 それを見たヴィーゴが、ほんの少しだけ目を細める。


「……」

「どうしたの?」

「いえ」


 ヴィーゴは何でもないように首を振った。


「少し、意外だっただけです」

「何が?」

「以前なら、『また?』と怒られていたので」

「……そんなに怒ってた?」

「かなり」

「うーん……」


 リーネアは顎に手を当てる。


「まあ、最初は恥ずかしかったし」

「はい」

「でも今は」


 自分の腰に手を当てる。


「結構気に入ってるから」


 ヴィーゴの目がわずかに見開かれた。


「……そうですか」


「うん」


 それだけ言うと、リーネアは笑った。


「新しいやつ、楽しみにしてるね」

「はい」


 その返事は、いつもより少しだけ嬉しそうだった。


「ただ」


 ヴィーゴが続ける。


「少し時間がかかると思います」

「どのくらい?」

「二週間ください」

「二週間?」

「はい。その間、僕は制作に集中します」


 ヴィーゴは真剣な表情で続ける。


「これまで以上に細かい調整を入れるつもりです」

「分かった」

「二週間後に、もう一度工房へ来てください」

「うん」

「そのときには完成させておきます」


 リーネアは頷いた。


「じゃあ、二週間後ね」

「はい」


 二人はそこで一度別れることになった。

 だが。

 その二週間を、リーネアはただ待っていたわけではない。

 朝は走り込み。

 昼は素振り。

 午後には近場の草原へ行き、一人でツノウサギを探した。

 以前なら、ツノウサギを前にすると焦っていた。

 勢いだけで追いかけてしまい、振り回されることも多かった。

 けれど、今は違う。

 草むらの向こうで耳が動いた。

 リーネアは足を止める。

 飛び出す気配。

 一歩。

 二歩。

 距離を測る。


「……今」


 ツノウサギが飛び出した。

 鋭い角をこちらへ向けて突進してくる。

 リーネアは慌てない。

 身体を半歩だけ横へずらす。

 ツノウサギが通り過ぎる。

 振り返る。

 その瞬間を狙って、剣を振る。


「よし!」


 今までなら苦戦していた相手。

 それを、落ち着いて仕留められるようになっていた。

 討伐を終えたあと、リーネアは息を整えながら笑う。


「……少しは強くなったかな」


 答える人はいない。

 それでも。

 自分自身では、はっきりと分かっていた。

 身体の動きが変わった。

 敵を見る目も変わった。

 そして何より。

 戦うことが、少しだけ怖くなくなった。

 ヴィーゴと会わない二週間。

 リーネアは自分なりに、自分の力を伸ばしていった。

 そして――。

 二週間後。

 工房の中。

 ヴィーゴは床に倒れていた。

 いや。

 正確には、床で眠っていた。


「……すぅ……」


 作業台の周囲には、工具がいくつも置かれている。

 金属片。

 魔石。

 革。

 何度も作り直したらしい部品。

 工房の壁際にも、失敗したと思われる試作品がいくつか積まれていた。

 扉が開く。


「ヴィーゴー?」

「……ん?」


 リーネアが中へ入ってくる。


「ヴィーゴ?」


 返事がない。


「……寝てる?」


 近づいてみる。


「ヴィーゴ」

「……んん」


 少しだけ身体が動く。


「ヴィーゴ!」

「……あれ?」


 ようやくヴィーゴが目を開けた。


「リーネアさん……?」

「おはよう」

「おはようございます……」


 ヴィーゴは身体を起こした。

 髪は乱れている。

 服には金属粉がついている。

 目の下には濃い隈。


「……すごい顔」

「そうですか?」

「寝てないでしょ」

「……」


 ヴィーゴは少し考えた。


「思ったより制作に難航しまして」

「やっぱり」

「徹夜が続いてしまいました」

「そこまで?」

「はい」


 ヴィーゴは立ち上がろうとする。

 ふらっ。


「わっ」


 リーネアが慌てて支える。


「ちょっと! 大丈夫?」

「大丈夫です」

「大丈夫な人はそんなふらつき方しないよ!」

「少し寝れば問題ありません」

「その少しを寝てないんでしょ!」


 リーネアは呆れながらも、どこか心配そうにヴィーゴを見る。


「でも」


 ヴィーゴは作業台を見る。

 その目だけは、はっきりと輝いていた。


「苦労した甲斐はありました」

「え?」

「素晴らしい出来です」


 ヴィーゴは作業台の上へ手を伸ばした。


「見てください」


 そこに置かれていたものを、ゆっくりと持ち上げる。


「……!」


 リーネアの目が大きくなる。

 新しいビキニアーマー。

 以前のものと同じ系統の装備なのに、雰囲気が違った。

 装甲のラインはより洗練されている。

 余計なものがなく、身体の動きを邪魔しない形。

 それでいて、要所の装甲にはしっかりと厚みがある。


「へえ……」


 リーネアは思わず近づいた。


「カッコいいじゃない」

「……」


 ヴィーゴの動きが止まった。


「どうしたの?」

「……いや」


 ヴィーゴは新しい装備とリーネアを交互に見る。


「思ったより、受け入れてくれているんだなと思いまして」

「だって、これまでのより良さそうだもん」

「……」

「それに」


 リーネアは装甲へ手を伸ばした。


「もう、ヴィーゴが作るビキニアーマーって分かってるから」


 ヴィーゴの表情が少し緩んだ。


「そうですか」

「うん」


 ヴィーゴは改めて装備を見せる。


「今回の装備は、これまでの戦闘を細かく分析して作りました」

「戦い方?」

「はい」

「どんな感じ?」

「まず、身体の動きです」


 ヴィーゴは胸部装甲を指す。


「あなたの骨格に合わせて、可動域をさらに広げています」

「ただでさえ動きやすかったのに?」

「まだ改善できます」


 次に腰部を指す。


「それから、これまで攻撃を受けやすかった場所には、少しだけ防御力を上げています」

「どこ?」

「詳しく説明すると長くなります」

「……じゃあ、いいや」

「そうですか」


 ヴィーゴは少し残念そうだった。


「そして」


 今度は装甲に埋め込まれた小さな魔石を指す。


「ここが今回の新しい部分です」

「魔石?」

「はい」

「これって、何か特別なの?」

「特殊な魔石というわけではありません」


 ヴィーゴは首を振る。


「あなた自身の魔力を、より効率よく流すための補助装置です」

「私、魔力ってそんなに多くないよ?」

「知っています」

「知ってるんだ……」

「量は多くありません」


 ヴィーゴは真顔で言った。


「だからこそ、無駄を減らす必要があります」

「なるほど」

「魔力を脚や腰へ流したときに、ほんの少しだけ流れを補助する」

「それだけで変わるの?」

「大きく変わるわけではありません」

「なーんだ」

「ですが」


 ヴィーゴは微笑む。


「長い戦闘になれば、その差が積み重なります」

「そっか」

「そして、あなたの場合」


 ヴィーゴは少し言葉を選んだ。


「魔力そのものより、身体能力との組み合わせが重要です」

「……」

「少ない魔力でも、効率よく身体へ回せれば」


 装備を軽く持ち上げる。


「あなたの動きを、さらに引き出せます」


 リーネアは黙って装備を見た。

 この人は。

 自分のことを、こんなにも細かく見ていたのか。


「……なんか」

「はい?」

「ちょっと照れる」

「なぜです?」

「だって」


 リーネアは頬を掻く。


「骨格とか、動きとか、どこに攻撃が当たりやすいとか」

「必要な情報です」

「分かってるけど!」


 リーネアは少し赤くなった。


「そこまで観察されてたと思うと……」

「職人としては当然です」

「またそれ……」


 二人は顔を見合わせる。

 そして、どちらからともなく笑った。


「……じゃあ」


 リーネアが新しい装備を見る。


「着てみていい?」

「もちろんです」


 リーネアは着替えのため、工房の隅にある簡易の仕切りへ向かった。

 少しして。


「……どう?」


 出てきたリーネアを見て、ヴィーゴは言葉を失った。

 見た目が大きく変わったわけではない。

 だが。


「……完璧です」


 ヴィーゴの目が輝く。


「腰の動きも問題ない」

「本当に?」

「はい」

「腕は――」


 リーネアがぐるぐると回す。


「動かしやすい」


 身体をひねる。


「こっちも」


 一歩踏み込む。

 軽く跳ぶ。


「……え」


 リーネア自身が驚いた。


「すごい」

「どうですか?」

「今までのより」


 もう一度、身体を動かす。


「さらに動きやすい」


 軽い。

 まるで身体に何もつけていないよう――とまではいかない。

 だが、装備が身体の動きについてくるというより、身体の一部になったような感覚だった。


「これ……すごいね」

「ありがとうございます」


 ヴィーゴが嬉しそうに笑う。


「昨日まで寝ずに作っていた甲斐がありました」

「昨日までって……」

「完成直前まで調整していました」

「やっぱり寝てないじゃん!」

「でも完成しました」

「それはそうだけど……」


 リーネアは呆れながら笑った。

 そして、胸元の装甲へそっと手を添える。


「ありがとう」


 ヴィーゴが顔を上げる。


「今までの装備も良かったけど」


 リーネアは笑った。


「これ、すごく好き」

「……!」


 ヴィーゴの顔が、ぱっと明るくなる。


「そう言ってもらえて、本当に嬉しいです」

「うん」


 リーネアは剣を手に取った。


「じゃあ」


 目を輝かせる。


「さっそく二人でクエスト受けよう!」


「……」


 ヴィーゴは一瞬、黙った。

 そして。


「そうですね」


 笑う。


「行きましょう」


 工房の外から、昼前の街のざわめきが聞こえてくる。

 新しい装備。

 新しい力。

 そして。

 これまで以上に深まった二人の信頼。

 次の冒険は、これまでより少しだけ遠くへ。

 二人は、そんな未来を思い描きながら、クエストへ向かう準備を始めた。


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