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究極の防具って知ってますか?そうビキニアーマーですね。  作者: チラミン


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12/20

二人なら、もっと遠くへ

 スピアディアに敗れてから、数週間が経っていた。

 その間、リーネアとヴィーゴは毎日のように鍛錬を重ねた。

 朝は工房の前を何度も走り、一定の距離を走り終えるたびに、リーネアは息を切らしながらもすぐに立ち上がった。ヴィーゴはその横で時間を計り、走る速度だけでなく、疲れた状態からどれだけ早く動きを戻せるかも確認していた。

 走り込みの後は、木剣を使った素振りを繰り返した。

 リーネアは一振りごとに腰を落とし、踏み込みの位置を確かめる。以前なら力任せに振り下ろしていた剣も、今では肩や腕だけに頼らず、脚から生まれた力を刃へ伝えることを意識していた。


「速く振るだけでは駄目です。戻しも速く」

「分かってる!」


 ヴィーゴの指示に応じ、リーネアは何度も剣を振る。

 疲れて腕が重くなっても、構えを崩さない。剣先がわずかにぶれれば、ヴィーゴはすぐに動きを止めさせ、最初からやり直させた。

 その後は、二人で向かい合っての連携訓練だった。

 ヴィーゴが木の棒で攻撃し、リーネアが避ける。次はリーネアが踏み込み、ヴィーゴが受ける。さらに二人の間に置いた木箱を敵に見立て、左右から挟み込む動きを何度も繰り返した。

 最初は声を掛けなければ動けなかった。


「右!」

「分かっています!」

「今!」

「まだです!」


 互いの声が飛び交い、何度も動きがぶつかった。

 それでも、失敗するたびに立ち位置を直し、相手の視線や足の向きを確認する。少しずつ、声に頼らずとも相手の意図を読み取れるようになっていった。

 さらに二人は、石を使った回避訓練も繰り返した。

 最初は一つずつだった石が、二つ、三つと増えていく。リーネアは飛んでくる石を避け、しゃがみ、身体をひねり、ときには地面を転がった。


「今のは避けられました!」

「でも次の石に当たったよ!」

「実戦では次が来ます」

「分かってるけど痛い!」


 それでも、以前のように反射的に目を閉じることはなくなった。飛んでくるものを見て、軌道を読み、最小限の動きでかわす。

 マンドラゴラの叫び声に耐えながら腹筋を続けたり、激しい水流に逆らって滝を登ったりといった厳しい鍛錬も重ねた。

 だが、こうした地道な反復が、リーネアの身体に少しずつ染み込んでいった。

 そして、訓練の仕上げとして、二人は何度も森へ入った。

 相手はホーンボア。

 最初の頃に比べれば、二人の動きは明らかに変わっていた。

 リーネアはただ勢いだけで突っ込むことがなくなった。

 相手の動きを見て、一歩待つ。

 避ける。

 踏み込む。

 そして、隣にいるヴィーゴの位置を意識する。

 ヴィーゴもまた、リーネアの動きを見ながら戦うようになった。

 最初は互いに声を掛けなければ分からなかった。

 それが今では、目を合わせるだけで次の動きが伝わることもある。

 そして、その日の朝。

 ヴィーゴは工房で剣の手入れをしながら言った。


「そろそろ、行きましょうか」


 向かいで準備をしていたリーネアが顔を上げる。


「……スピアディア?」

「はい」


 リーネアの口元に笑みが浮かぶ。


「やっとだね」

「はい。そろそろ試してみてもいいと思います」


 ヴィーゴは立ち上がり、剣を腰に差した。


「ただし、前回とは条件が違います」

「今回は二人で行くんだよね」

「はい。ただ、二人だからといって簡単に倒せる相手ではありません」


 ヴィーゴは真剣な顔でリーネアを見る。


「普通、スピアディアを狩るなら、四、五人程度のパーティーを組むことが多いです」

「……そんなに?」

「はい。一人に攻撃を集中させ、その間に別の人間が隙を作る。そうやって安全に戦うのが基本です」


 リーネアは少しだけ息を呑んだ。


「じゃあ、前に私が一人で行ったのって……」

「かなり無茶でした」

「……やっぱり」

「スピアディアは一人で相手をすれば、攻撃も回避も全部一人でやらなければなりません」


 ヴィーゴは淡々と続ける。


「前回、あなたが何もできずに追い込まれたのも当然です」

「……」

「そして」


 ヴィーゴは一度、言葉を切った。


「二人で戦うとしても、これまでの僕たちなら厳しかったでしょう」


 リーネアが顔を上げる。


「ホーンボアには勝てても、スピアディアは動きが速い。二人とも相手の動きを追うだけで精一杯になって、連携する余裕なんてなかったはずです」

「……確かに」


 リーネアは思い返す。

 初めてホーンボアと戦ったときでさえ、ヴィーゴと何度も動きがぶつかった。

 それより速く、複雑に動くスピアディアを相手にしていたら。

 二人で戦ったとしても、結局は押し切られていただろう。


「でも」


 リーネアは拳を握る。


「今は違う」

「ええ」

「私たち、ずっと練習してきた」

「はい」

「回避も、剣も、連携も」


 リーネアは笑う。


「ホーンボアだって何度も一緒に狩った」

「その通りです」

「だったら」


 リーネアはまっすぐヴィーゴを見る。


「今の私たちなら、二人で挑める」


 ヴィーゴは少しだけ笑った。


「僕も、そう思っています」


 ただし、

 勝てると保証しているわけではない。

 それでも。

 今まで積み重ねてきたものを試す価値はある。


「二人で、これくらい倒せなければ」


 ヴィーゴが言った。


「もっと上は目指せません」


 リーネアは頷いた。


「うん」


 以前なら、勢いだけで「勝てる」と言っていたかもしれない。

 けれど今は違う。

 自分たちが何を積み重ねてきたのかを知っている。


「じゃあ」


 リーネアは笑った。


「特訓の成果を見せに行こう!」

「はい」


 二人はグリューネヴァルトを出た。

 南へ向かう。

 目指すのは、境界の森。

 以前と同じ森なのに。

 今日は、どこか見え方が違った。

 森へ入ってしばらくすると、リーネアが足を止めた。


「……いた」


 ヴィーゴも顔を上げる。

 木々の向こう。

 巨大な鹿が立っていた。

 体長は一・五メートルほど。

 頭には、一本一本の先端まで鋭い角。

 まるで巨大な槍を頭から生やしているようだった。


「スピアディアです」


 ヴィーゴが小さく呟く。

 リーネアは剣を抜く。


「……前は、あれに何もできなかったんだよね」

「はい」

「でも今日は」


 リーネアが深く息を吸う。


「違う」


 ヴィーゴも盾を構えた。


「集中しましょう」

「うん」


 二人は無言でスピアディアを見つめた。

 積み重ねてきた鍛錬の日々を思い出す。

 マンドラゴラ。

 滝登り。

 石投げ。

 野菜の高速スライス。

 ホーンボアとの何度もの実戦。

 何度も失敗して。

 何度もやり直して。

 少しずつ身につけてきたもの。


「……行くよ」

「はい」


 二人が走り出した。

 スピアディアがこちらを向く。

 頭を下げる。


「来る!」


 地面を蹴った。

 一直線。

 しかし、二人は慌てなかった。


「右!」


 リーネアが叫ぶ。


「左!」


 ヴィーゴが応える。

 二人が同時に左右へ散る。

 スピアディアが間を駆け抜けた。


「今!」


 リーネアが振り返り、剣を振る。

 しかし、

 スピアディアは身体をひねる。

 角が剣を弾いた。

 そのまま横へ大きく跳ぶ。


「っ!」


 リーネアが追う。

 しかし、速い。

 右。

 左。

 そして、突然の跳躍。


「前回と同じ……!」


 リーネアが歯を食いしばる。

 スピアディアの角が迫る。

 身体をひねって避ける。

 だが完全には避けきれない。

 角の先端が脇腹をかすめた。


「くっ!」


 痛みが走る。

 ビキニアーマーに浅い傷が入った。


「リーネア!」


「大丈夫!」

 ヴィーゴが駆ける。

 スピアディアの後ろへ回り込む。


「今度は僕が――」


 剣を振る。

 だが、これもぎりぎりでかわされる。


「……速いですね」

「うん!」


 スピアディアがこちらを睨む。

 明らかに警戒していた。

 前回のリーネア一人のときとは違う。

 こちらには二人いる。

 どちらへ突っ込んでも、もう一人がいる。


「ヴィーゴ!」

「はい!」


 リーネアが走る。

 ヴィーゴも反対側へ。

 スピアディアが右へ跳ぶ。

 リーネアが追う。

 今度はヴィーゴが進路を塞ぐ。

 スピアディアが左へ。

 リーネアが回り込む。


「そこ!」


 リーネアの剣が、角の根元をかすめる。


「入った!」


 スピアディアが慌てて距離を取る。

 ヴィーゴの剣先も、前脚を浅く切った。


「やりましたね」

「うん!」


 確かに当たった。

 前回とは違う。

 自分たちの攻撃が、少しずつ届いている。

 だが――。

 スピアディアも余裕がなくなっていた。

 呼吸が荒い。

 動きにわずかな乱れが出ている。


「このままいける!」


 リーネアが踏み込む。

 スピアディアが横へ跳ぶ。

 それに合わせてヴィーゴも動く。

 リーネアとヴィーゴの位置が自然に入れ替わる。

 右。

 左。

 前。

 後ろ。

 二人はまるで決められた動きをするように、スピアディアを挟んでいく。

 

 そして――。

 リーネアが目線を送る。

 ヴィーゴが頷いた。

 次の一手。

 そう思った瞬間。


「うわっ!」


 ヴィーゴの身体がよろめいた。


「ヴィーゴ!」


 足元。

 木の根。

 森の中に張り出した根へ、足を引っかけてしまった。


「しまった!」


 ヴィーゴが体勢を崩す。

 スピアディアの目が鋭くなる。

 逃さない。

 身体を反転させ、ヴィーゴへ向かって駆け出した。


「ヴィーゴ!」


 角ではない。

 蹄で踏みつぶすつもりだ。

 ヴィーゴは立ち上がりきれない。

 間に合わない。


「――させない!」


 リーネアが飛び込んだ。

 ヴィーゴの前に滑り込む。

 両手で剣を握る。


「せえええっ!」


 ドンッ!

 スピアディアの前脚が剣にぶつかった。

 衝撃でリーネアの身体が沈む。

 だが、踏みとどまる。


「……っ!」


 脚が震える。

 それでも。

 絶対に退かない。

 数秒のにらみ合い。

 そしてスピアディアが跳び退いた。


「……大丈夫ですか?」


 ヴィーゴが立ち上がる。


「大丈夫」


 リーネアは息を切らしながら笑った。


「ヴィーゴ」

「はい」

「今までだって、何度も助けてもらったでしょ」

「……」

「だから、お互い様だよ」


 笑顔だった。

 その言葉に、ヴィーゴの顔も少し緩む。


「……ありがとうございます」

「どういたしまして」


 そして、

 ヴィーゴの目が変わった。


「……さっきので」

「うん?」

「良いアイデアが浮かびました」

「どんな?」


 ヴィーゴはスピアディアを見る。


「さっき、僕が転んだ瞬間」

「スピアディアがこっちに意識を向けた」

「うん」

「だったら、それを利用する」


 リーネアの目が輝く。


「なるほど」

「ただし」


 ヴィーゴが真剣な顔をする。


「タイミングが重要です」

「任せて」


 二人は再び構えた。

 スピアディアも、身体を低くする。

 互いに動きを窺う。

 そして。


「行きます」

「うん!」


 二人が左右へ分かれる。

 スピアディアが突っ込む。

 リーネアが避ける。

 ヴィーゴが攻撃。

 スピアディアが横へ跳ぶ。

 リーネアが追う。

 ヴィーゴが反対側へ回る。

 何度も。

 何度も。

 攻撃と回避を繰り返す。

 スピアディアの呼吸が荒くなる。

 動きが少しずつ鈍る。


「今です!」


 ヴィーゴが叫んだ。

 リーネアが頷く。

 スピアディアへ向かって駆ける。

 左右から挟み込む。

 スピアディアがリーネアを見る。

 次にヴィーゴを見る。

 どちらへ行くか。

 迷う。

 その瞬間。

 ヴィーゴが突然、背を向けた。


「え?」


 リーネアが一瞬だけ驚く。

 だが、すぐに意味を理解した。

 スピアディアの視線がヴィーゴへ集中する。

 背中を見せた。

 隙だ。

 そう思わせる。

 スピアディアがヴィーゴへ向かって踏み込む。

 その瞬間。


「今!」


 ヴィーゴが叫ぶ。

 リーネアが一気に踏み込んだ。


「――っ!」


 剣を振る。

 速い。

 一振りではない。

 身体全体を連動させた高速の斬撃。

 これまでの特訓で身につけた動き。

 野菜を切るときに磨いた速度と正確さ。

 それが今、実戦の中で一つになった。

 剣筋が見えない。

 ただ空気を切り裂く音だけが響いた。

 ズバッ!

 スピアディアの身体が大きく揺れる。


「キィィィィッ!」


 鳴き声を上げ、ふらついた。


「今の……!」


 ヴィーゴも驚いていた。

 だが、まだ終わっていない。


「もう一度!」


 リーネアが踏み込む。

 今度はヴィーゴも同時に動いた。

 スピアディアは反撃しようとする。

 しかし、すでに動きが鈍っている。

 二人の連続攻撃を避けきれない。

 そして――。

 しばらくの激闘の後。

 森に、静けさが戻った。


「……」


 リーネアは剣を下ろした。


「……終わった?」

「終わりました」


 ヴィーゴもその場に座り込む。


「……はぁ……」


 リーネアも地面へ腰を下ろした。


「疲れた……」

「僕もです」


 二人とも荒い息を吐いていた。

 スピアディアの身体には、二人の攻撃による傷が残っている。

 二人の装備にもいくつか傷がついていた。

 だが。

 その表情は明るかった。


「……勝ったね」

「はい」

「私たち、スピアディアに」

「二人で」

「……二人で」


 リーネアは嬉しそうに笑った。

 前回とは全く違う。

 あのときは、一人で挑んで何もできなかった。

 今日は違った。

 攻撃を避けた。

 攻撃を当てた。

 ヴィーゴと助け合った。

 最後には、自分たちで勝ち筋を作った。


「特訓、無駄じゃなかったね」

「うん」


 ヴィーゴが笑う。


「かなり無茶な特訓もありましたけど」

「マンドラゴラとか?」

「はい」

「滝登りとか」

「はい」

「スイカとか」

「……あれは特訓とは関係ありません」


 二人は顔を見合わせる。

 そして。


「ふふっ」

「ははっ」


 声を上げて笑った。

 森の木々の間から、午後の光が差し込んでいる。

 まだまだ強くならなければならない。

 もっと強いモンスターもいる。

 もっと遠くへ行けば、今まで知らなかった敵もいるだろう。

 けれど。

 今日、二人は確かに知った。

 一人では届かなかった場所にも。

 二人なら、届く。


「ヴィーゴ」

「はい?」

「次はどうする?」


 リーネアの目は、もう次の冒険を見ていた。

 ヴィーゴは少し考えてから笑った。


「まずは、このスピアディアを解体して素材を集めましょう」

「……やっぱりそれかぁ」

「当然です」

「でも、そのあとね」

「ええ」


 どちらからともなく立ち上がる。

 二人の冒険は、まだ始まったばかりだった。

 けれど今日。

 その歩幅は、確かに昨日までより大きくなっていた。


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