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究極の防具って知ってますか?そうビキニアーマーですね。  作者: チラミン


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11/20

特訓開始!

 スピアディアに敗れてから、数日。

 グリューネヴァルトの外れにある、ちょっとした空き地。


「――というわけで!」


 朝っぱらから、ヴィーゴが妙に張り切った声を上げていた。


「今日から特訓です!」

「……」


 リーネアは無言でヴィーゴを見る。

 その表情には、期待と不安が半分ずつ混ざっていた。


「本当にやるんだね……」

「やります」

「スピアディアに勝つために?」

「はい」

「私、そこまで弱かった?」

「先日の戦いを見る限り、まだまだ伸びしろがあります」

「言い方!」


 リーネアは頬を膨らませた。

 けれど、それ以上文句を言うことはしなかった。

 スピアディアに挑んで、分かったことがある。

 ビキニアーマーを着れば、確かに身体は動かしやすい。

 以前より自分の力を引き出せる。

 でも、それだけでは足りない。

 もっと速く。

 もっと強く。

 もっと正確に動けるようにならなければならない。


「……やる」


 リーネアは拳を握った。


「今度は、ちゃんと自分の力で勝てるようになりたい」

「その意気です」


 ヴィーゴは満足そうに頷いた。


「では、まずは準備運動から始めましょう」

「普通に走ったり、身体を伸ばしたりするやつ?」

「もちろん、それもします」

「それも?」


 嫌な予感がした。

 ヴィーゴは空き地の横に置かれていた箱を開ける。


「今回の特訓用に、いくつか準備してきました」

「……何それ」

「マンドラゴラです」

「なんで!?」


 箱の中には、細い根を身体のようにうねらせた植物が何本も入っていた。

 葉のついた頭。

 土まみれの根。

 そして、見ているだけで嫌な予感しかしない姿。


「これ、引き抜いたら叫ぶやつでしょ!?」

「よく知っていますね」

「冒険者やって二年目だからね!」


 マンドラゴラ。

 土に埋まった状態から引き抜かれた瞬間、耳をつんざくような叫び声を上げる魔草である。

 その声を至近距離で浴びると、身体より先に精神が削られる。


「今日はこれを使って腹筋をします」

「……どういうこと?」

「題して――」


 ヴィーゴが地面を指した。


「『マンドラゴラ引き抜き腹筋』です」

「絶対嫌な予感しかしない!」

「内容は簡単です」


 地面に埋めたマンドラゴラの前に、リーネアが仰向けになる。


「腹筋で起き上がるタイミングに合わせて、マンドラゴラを引き抜く」

「うん」

「そのまま叫ばれる前に、また埋める」

「うん?」

「そして寝る」

「……それを繰り返すの?」

「はい」

「なんで腹筋とマンドラゴラを組み合わせる必要があるの!?」

「身体能力と精神耐性を同時に鍛えられます」


 ヴィーゴは真顔だった。


「理にかなっています」

「理って言えば何でも許されると思ってない?」

「では、始めましょう」

「話を聞いて!」


 しかし。

 数分後。


「……ふっ!」


 リーネアが起き上がる。

 両手をマンドラゴラへ伸ばす。


「ぬおおおっ!」


 ズボッ!

 引き抜いた瞬間。


『キィィィィィィィィィィィッ!!』

「――っ!」


 耳をつんざく叫び声。

 リーネアは歯を食いしばった。


「うるさっ!」

「戻してください!」

「分かってる!」


 ズボッ!

 埋める。

 寝る。

 起きる。


「オラァァァッ!」


 ズボッ!


『キィィィィィッ!』

「オラァァァァッ!」


 ズボッ!


『キィィィィィッ!』


 数十回。

 やがて。

 マンドラゴラの叫び声より。


「オラァァァァァァァッ!!」


 リーネアのほうがうるさくなっていた。


「ぬおおおおおっ!」

『キィィィィィ……』

「オラァァァァッ!!」

『……』

「……?」


 ヴィーゴが首を傾げた。

 リーネアがまたマンドラゴラを引き抜く。

 しかし。

 叫び声がしない。


「……?」


 見ると、

 マンドラゴラが白目を剥いていた。


「……」

「……」


「気絶していますね」

「なんで!?」

「たぶん、リーネアさんの声のほうが大きすぎて」

「私のせい!?」

「精神耐性の訓練にはなっています」

「どういう意味よ!」


 ともあれ。

 第一の特訓は終わった。

 リーネアは地面に大の字になっていた。


「……もう、声聞きたくない……」


 目は完全に据わっている。

 髪も少し乱れている。

 そして、なぜかマンドラゴラのほうまでぐったりしていた。


「まだ一つ目です」

「……え?」


 ヴィーゴが笑顔で立ち上がる。


「次に行きましょう」

「まだあるの!?」

「もちろんです」


 ◇


「というわけで、次は滝登りです!」

「帰っていい?」

「駄目です」


 場所を移した二人がやってきたのは、森の中を流れる渓流だった。

 その先には、かなり勢いのある滝がある。


「これ……本当に登るの?」

「はい」

「上から打たれる滝行じゃなくて?」

「下から泳いで登ります」

「……」


 リーネアは滝を見上げる。

 落ちてくる大量の水。

 轟音。

 岩肌。

 どう考えても人間が登る場所ではない。


「行きます!」

「ちょっと待って!」


 ヴィーゴの声が響く。


「水流に逆らって全身を使うことで、脚力と体幹、持久力を鍛えます」

「それは分かったけど……!」

「スピアディアの攻撃を避けるには、こうした全身の連動が重要です」

「……」


 リーネアは滝を見上げた。

 先日の敗北が頭をよぎる。


「……やる」

「その意気です」


 水へ入る。


「冷たっ!」


 足元から全身へ冷気が駆け上がる。


「頑張ってください」

「う……!」


 リーネアが泳ぎ始める。

 水流が強い。

 前へ進もうとしても、身体が押し戻される。


「くっ……!」


 一気に腕をかく。

 脚を蹴る。

 身体を前へ。


「進んでる!」

「その調子です!」

「もっと――!」


 少しずつ。

 本当に少しずつ。

 滝を上へ進んでいく。


「よし!」


 半分ほどまで来た。


「いける……!」


 その瞬間だった。


「ん?」


 上流から。

 何かが流れてくる。

 水に揉まれながら、ころころと近づいてくる赤い物体。


「……あれ何?」


 ヴィーゴも目を凝らした。


「……スイカですね」

「なんで!?」


 次の瞬間。

 ゴンッ!


「ぶっ!」


 リーネアの頭に直撃。


「うわぁぁぁっ!」


 身体がバランスを崩す。

 そのまま。

 ざぶん!

 滝を滑り落ちていく。


「リーネア!」


 ヴィーゴが駆け寄る。


「……」


 水面から顔を出したリーネアの目は、ぐるぐる回っていた。


「……スイカ……」

「大丈夫ですか?」

「なんで滝からスイカが流れてくるの……」

「知りません」

「……もう嫌」


 リーネアが岩にしがみつく。


「今日は十分じゃない?」

「まだ二つ目です」

「鬼!」

「次があります」

「まだあるの!?」


 ◇


 三つ目。

 特訓場所に戻った二人。

 リーネアの顔には疲労が色濃く表れていた。


「次は何?」

「回避能力を鍛えましょう」


 ヴィーゴが地面から小石を一つ拾う。


「石投げです」

「……それだけ?」

「はい」

「それなら普通だね」

「最初は一つですから」

「最初は?」

「はい」

「……」


 嫌な予感。


「では」


 ヴィーゴが構える。


「いきます」


 ヒュッ!


「えいっ!」


 リーネアが避ける。


「もう一回」


 ヒュッ!


「ほっ!」


 避ける。


「いいですね」


 ヒュッ!

 ヒュッ!


「ちょっと!」


 石が二つ。

 三つ。

 四つ。


「増えてない!?」

「増えています」

「だよね!」


 ヴィーゴの投げる石が次々と飛んでくる。

 リーネアは右へ。

 左へ。

 身体を低くする。

 跳ぶ。

 しゃがむ。


「うわっ!」

「もう少し低く」

「分かってる!」


 さらに石が増える。


「今度は五つです」

「待って!」


 ヒュッ!

 ヒュッ!

 ヒュッ!

 ヒュッ!

 ヒュッ!


「――っ!」


 避ける。

 避ける。

 転がる。

 飛ぶ。

 それでも。


「痛っ!」


 一個が肩に当たった。


「すみません」

「絶対すみませんと思ってないでしょ!」

「思っています」

「顔が楽しそうなんだけど!」


 ヴィーゴは黙って石を拾う。


「では、次は十個です」

「十!?」

「はい」

「多すぎる!」


 次の瞬間。

 十個の石が一斉に飛んできた。


「うわああああっ!」


 リーネアは全力で動いた。

 右。

 左。

 前。

 後ろ。

 しゃがむ。

 跳ぶ。

 身体をひねる。

 石と石の隙間を、身体が勝手にすり抜けていく。

 だが。


「痛っ!」


 肩。


「うっ!」


 脚。


「いたぁっ!」


 背中。

 何個かは当たった。

 それでも。

 最初の頃より、明らかに避けられるようになっていた。


「……はぁ……はぁ……」


 最後の石が地面に落ちる。

 リーネアはその場にへたり込んだ。

 全身あちこちに赤い跡がついている。


「……終わった?」


 ヴィーゴがゆっくり歩いてくる。


「終わりですか?」

「……!」


 リーネアの顔がぱっと明るくなる。


「終わり!?」

「はい」

「よかった……!」


 リーネアがその場に崩れ落ちる。


「もう無理……」


 しかし。

 ヴィーゴはそのまま彼女の前を通り過ぎた。


「……?」


 そして。


「さあ、最後の特訓ですよ」


「…………」


 リーネアの笑顔が消えた。


「……最後?」

「はい」

「……まだあるの?」

「最後です」

「……何?」


 ヴィーゴは優しく微笑んだ。


「剣技を磨きましょう」


 リーネアの顔が引きつる。


「……どうやって?」

「これを使います」


 ヴィーゴが運んできた木箱。

 蓋を開ける。


「…………」


 大量の野菜。


「まさか」

「そのまさかです」

「え?」

「野菜高速スライスです」

「……」

「ひたすら切ってください」

「……」

「より速く」

「……」

「より正確に」

「……」

「やりましょう」

「……はい」


 もう逆らう気力もなかった。

 リーネアは剣を抜く。

 目の前には山のような野菜。


「これ全部?」

「全部です」

「……よし」


 リーネアは深く息を吸った。

 剣を構える。


「――オラァァァァァァァッ!!」


 振り下ろす。

 ズバッ!

 一瞬で野菜が切れる。


「……」


 リーネア自身も驚いた。


「もう一回!」


 ズバッ!

 ズバッ!

 ズバッ!

 剣が走るたび、野菜が次々と薄切りになっていく。

 目では追えないほど速い。

 ヴィーゴは隣で鍋を持ちながら、それらを次々と回収していく。


「いいですね」

「まだ!」


 ズバッ!


「速い!」

「もっと!」


 ズバッ!

 ズバッ!

 ズバッ!

 これまでの特訓で疲れ切っていたはずなのに。

 腕は動いた。

 脚も動いた。

 身体が自然に剣の軌道を選んでいく。

 避ける。

 動く。

 踏み込む。

 切る。

 それらすべてが少しずつ繋がっていた。


「……」


 ヴィーゴは感心したように見つめる。


「かなり良くなっています」

「まだまだ!」


 リーネアは止まらない。

 一本。

 二本。

 十本。

 山積みだった野菜が、見る見るうちに鍋へ吸い込まれていく。

 そして――。


「……これで最後!」


 ズバッ!

 最後の野菜が切れた。

 森に静寂が戻る。


「……」


 リーネアは剣を下ろした。


「……終わった?」

「はい」


 ヴィーゴが笑った。


「特訓完了です」

「……」


 その言葉を聞いた瞬間。


「……やったぁ……」


 リーネアは力なく呟き、その場にしゃがみ込んだ。


「少し休んでください」

「うん……」


 二人は工房へ戻った。

 ソファへ座ったリーネアは、そのまま背もたれに身体を預ける。

 全身が重い。

 肩も脚も痛い。

 頭もぼんやりする。


「今日……何したんだろ、私……」

「色々しましたね」

「マンドラゴラ……」

「はい」

「滝登り……」

「石投げ……」

「野菜……」


 リーネアは目を閉じた。


「……もう動きたくない」

「そうでしょうね」


 しばらくして、

 キッチンのほうから、いい匂いが漂ってきた。


「……?」


 リーネアが鼻を動かす。


「ヴィーゴ?」

「お待たせしました」


 ヴィーゴが鍋を持ってやってきた。


「本日の夕食です」


 鍋の中には、先ほどリーネアが必死に切った野菜がたっぷり入っている。


「名付けて――」


 ヴィーゴが微笑む。


「特訓スライス野菜スープです」

「……!」


 リーネアの目が開いた。


「食べていいの?」

「もちろんです」

「……いただきます」


 スプーンを手に取る。

 一口。


「……」


 温かいスープが身体に染み込んでいく。

 野菜の甘み。

 程よい塩気。

 疲れた身体に、驚くほど美味しく感じられた。


「……美味しい」

「それは良かった」

「めちゃくちゃ美味しい」


 もう一口。

 さらにもう一口。


「今日、こんなに頑張ったんだから……美味しく感じるに決まってるよね」

「そうかもしれません」


 ヴィーゴは笑った。


「でも、実際に美味しく作ったのは料理をした僕です」

「そこは譲らないんだ」

「職人なので」

「はいはい」


 リーネアは笑った。

 スープをもう一口飲む。

 身体の痛みが、少しずつ遠くなる。

 今日の特訓は、滅茶苦茶だった。

 マンドラゴラに叫ばれ。

 滝を登り。

 スイカに頭をぶつけ。

 石を投げつけられ。

 最後には野菜を切りまくった。

 それでも。


「……ヴィーゴ」

「はい?」

「明日もやる?」


 ヴィーゴが少し驚いた顔をする。


「もちろんです」

「そっか」


 リーネアは笑った。


「じゃあ、もっと強くならなきゃね」


 スピアディアに負けた悔しさは、まだ消えていない。

 けれど。

 今は、それを力に変える方法が少しだけ分かる気がした。

 一日では強くならない。

 少しずつ。

 一つずつ。

 自分の身体と向き合っていく。

 そうすれば、いつか。

 ヴィーゴの隣で胸を張って戦える日が来る。


「……そのときは」


 リーネアはスープを飲みながら呟いた。


「今度こそ、スピアディアに勝つからね」

「期待しています」


 二人は顔を見合わせる。

 そして。

 また笑った。

 特訓初日。

 リーネアは確実に一歩。

 強くなるための道を歩み始めていた。


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