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【書籍化&コミカライズ】双子の妹に殺された姉、二度目の人生は初恋のイケおじ王弟にフルベットします!  作者: 黒猫ている
5章:激動の時代

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89:元夫は立ち上がる

「な……っ」


オドノヒュー侯爵家の騎士団。

新たな軍勢の登場に、王国軍だけではない、ガザード家とエルドレッド家の連合軍も動きを止めた。


翻る旗は、確かにオドノヒュー侯爵家のもの。

次男のマイルズはガザード家の双子と幼馴染みとして知られるが、同時に王太子ローレンスの側近でもあった。


王家は各貴族家に参戦を命じている。

一方で、ガザード家とエルドレッド家からも、各家へ援軍要請が送られていた。

果たして、どちらに味方する軍なのか──誰もが一瞬、息を呑んだ。


「あれは──!?」


先頭の騎士が、兜を脱ぐ。

はらりと揺れる茶色の髪と、透き通るような碧眼──オドノヒュー侯爵家次男マイルズの姿がそこにあった。


「良く来た、マイルズ!!」


元側近の姿に、ローレンスが声を上げる。

皆がじっと視線を送る中、マイルズは南門広場に馬を進めた。


「ご無沙汰しております、王太子殿下。蟄居の身でありながら王都へ参りました非礼、どうかご容赦を」

「そんなのは構わん! ああ、嬉しいぞ。やはり、こういう時に駆けつけてくれる相手こそ、重用すべきなのだ」


援軍の到着に浮かれた様子のローレンスとは対照的に、マイルズがゆっくりと息を吐く。


「オドノヒュー騎士団、ここに馳せ参じました」


馬上で、マイルズがすらりと剣を引き抜く。

鈍い光を放つ切っ先が向けられた先は──壇上のローレンスだった。


「は……?」

「我等オドノヒュー侯爵家は、ガザード家、エルドレッド家と共に、乱れた国を在るべき姿へ戻す所存です」

「──マイルズうぅぅぅぅぅ!!」


マイルズの宣言に、ローレンスが目を見開く。

彼にとっては、幼い頃からの忠臣。

能力を自覚するより先に心酔し、ローレンスの言うことならば何でも聞いてくれる相手だったはずだ。


そのマイルズが、何故。


「──マイルズ殿!」


マイルズは行く手を阻む騎士達を馬上から次々と打ち払い、アランの元へと駆けつけた。


「遅くなりましたが、加勢いたします」

「あ、あぁ……それは有難いが、どうして君が?」


援軍に沸き立つ連合軍。

そんな中でも、指揮官のアランの顔には喜びよりも戸惑いが滲んでいた。


「エルドレッド令嬢が、俺の目を覚ましてくれました」

「ケイリー嬢が?」


アランの問いに、マイルズが頷く。


「援軍を要請する為に、南部まで行くとは聞いていたが……そうか……」


ケイリーの浄化能力は、兄クライドには及ばない。

だが王都を離れて領地で蟄居していたマイルズならば、ローレンスの影響は薄れているのではないか──マイルズを味方に引き込むことは、一種の賭けでもあった。


「進め、騎士達よ! 王弟殿下の手を煩わせる迄もない!!」

「おお!!」


マイルズの号令に、オドノヒュー侯爵家の騎士達が一斉に刃を振り上げた。


新手の騎兵が王国軍の側面へ雪崩れ込む。

正面にはアラン率いる連合軍、側面にはオドノヒュー騎士団。

挟撃を受けた王国兵の隊列は、瞬く間に崩れていった。


数で勝っていたはずの王国軍は、いつしか連合軍に押されるようにして後退を続けていた。


「マイルズ、貴様……っ」


護衛騎士に囲まれ、王城への道を進みながら、ローレンスが憎々しげにマイルズを睨み付ける。


「王都を離れて、ようやく俺は自分を取り戻しました」


ローレンスの視線を真っ向から受け止め、マイルズが笑う。


王太子の隣に在り、その最側近として働き続けていた日々。

誰もが愚かしく、取るに足らない相手に思えていた。

地位も名誉も、全てが手中にある。

ディアナと結婚すれば、ガザード公爵家の婿として、マイルズの立場はより強固なものになるはずだった。


──それが、どうだ。


ディアナはマイルズではなく、アランを選んだ。

十七歳も年上の、国王と王太子に敵視された男を。


そんなディアナが、許せなかった。

憎らしかった。

自分の手に入らないならば、いっそ壊してやる──そうまで感じていた。


(あの頃の俺は、どうかしていた……)


マイルズには、ローレンスが持つ能力など知る由もない。

だが、当時の自分が明らかに正気を失っていたことは、理解している。

その原因が──おそらく、彼にあることも。


(俺は、ただディアナが羨ましかっただけなんだ)


誰よりも美しく、誰よりも強いディアナ。

マイルズがどれだけ噂を流そうが、周囲がどれほど冷たい目を向けようが、ディアナは凜として立ち続けた。

彼女が強くあればあるほどに、悪意ある噂を流すことしか出来ない自分が惨めだった。


(俺はディアナに憧れ、ディアナに認められたかった──ただそれだけだったはずなのに)


いつから、道を誤ってしまったのだろう。

今更、やり直すことなんて出来やしない。

もう彼女の隣には、別の男が居るのだから。


それでも──。


「貴方は、王位に就いてはならぬ人だ」


低い声が、戦場に響き渡る。

かつての暗く澱んだ表情とは違う。

マイルズは澄んだ瞳で、じっとローレンスを見据えた。


「くそっ、退け、退けえぇぇ!!」


ローレンスの命に従い、王国軍が退却する。

王城には、まだ多くの兵が配備されている。

籠城し、国境から帰還する兵を待てば、まだ勝算はある──そう考えてのことだ。


「マイルズ殿、加勢感謝する」

「いえ」


ようやく剣を下ろしたアランの前で、マイルズは深々と頭を垂れた。


「これまでの数々のご無礼、お許しください」

「……気にするな」


生真面目に頭を下げるマイルズに、アランが苦笑する。


アランにとって、マイルズは因縁浅からぬ相手だ。

ディアナと同い年で、親友とも呼べる彼の存在に、心掻き乱されたこともある。

前世では夫婦関係にあったと知って、今も心中は複雑だ。


それでも──今世は、ディアナは自分を選んでくれた。

彼女が自分に注いでくれる愛情を思えば、嫉妬心など抱いてもいられない。

今までのマイルズの行き過ぎた行動が、全てローレンスの影響だったと思えば、なおさらだ。


「過去のことを今更どうこう言うつもりはない。それよりも、だ」


アランが、大きな掌でマイルズの肩を叩く。


「暫く、部隊を任せても良いだろうか」

「は? 俺──いや、私に、ですか?」


突然のアランの申し出に、マイルズが目を見張る。

援軍として駆けつけはしたものの、そこまで信頼してくれるとは予想もしていなかったのだろう。


「別に構いませんが……殿下はどうなさるおつもりですか?」


問われたアランが、顔を上げる。


「兄上に、会いに行く」


視線の先には、王都中央に高く聳(そび)える、かつての居城──ラトリッジ王城があった。

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