87:王弟は門を打ち破る
王都南門広場。
そこに集った民衆は、一様に不安な表情を浮かべていた。
反乱軍は南側を中心に、王都を取り囲んでいる。
一時は“反乱軍は民衆の味方だ”という声もあった。
だが、今はどうだ。
倉庫街の火災以降、表立って反乱軍を支持する者は居なくなった。
とはいえ、彼等が王都に攻め込んで来ないのも、また事実。
そんな最中、反乱軍に加担したとされる貴族が、よりによって南門広場で処刑されるという。
どうして反乱軍が陣を構える南側、それも南門広場で処刑を執り行うのか。
他の罪人達は皆牢に投獄されているというのに、どうしてこの貴族だけが、わざわざ広場で処刑されるのか。
様々な噂が飛び交うが、どれも憶測の域を出ない。
「おい、来たぞ……」
「あれが罪人なのか?」
両手に枷を嵌められ、前後左右を騎士達に囲まれながら歩いてくる人物。
白い顎髭を蓄えた老人は、背筋を伸ばし、毅然と前を見据えていた。
罪人というには、あまりに毅然とした立ち居振る舞い。
粗末な衣を纏ってなお、所作から気品は失われていない。
武人らしい迷いのない足取りに、集まった民衆から戸惑いの声が上がる。
「あの人が、何かしたのか?」
「なんでも、反乱軍に味方したとか……」
「あんなご老人が、反乱軍に加担したっていうのか……?」
南門広場に設えられた処刑台。
罪人は一歩、また一歩と、処刑台へ続く階段を上っていく。
約束の刻限は、既に目前まで迫っていた。
「なんてことだ……」
「伯爵様っ」
処刑場の警備に駆り出された騎士の中には、かつてダウズウェル伯爵から教えを受けた者も居た。
皆、口に出しては何も言えない。
異議を唱えれば、自分達も反逆者として罰せられる──目の前の老人のように。
それを理解しているからこそ口を噤み、恩師が刑場に上がるのをただ見守ることしか出来ない。
やがてダウズウェル伯爵が処刑台へ上がる。
壇上に置かれた場違いなほど豪奢な椅子には、王太子であるローレンスが足を組んで座っていた。
「どうだ、ダウズウェル老。今からでも命乞いをするなら、許してやらんこともないぞ」
老人を嘲笑うかのように、ローレンスが薄笑いを浮かべる。
当のダウズウェル伯爵は、臆することなく真っ直ぐにローレンスを見つめた。
「はて、私はオスニエル陛下に忠心を誓った身。陛下ならばいざ知らず、どうして王太子殿下に生殺与奪の権利がありましょうや」
真っ向から反論するダウズウェル伯爵に、ローレンスが歯噛みする。
「……もういい、刑を執行しろ」
「はっ」
両脇を固めた騎士達が老人の腕を掴み、その身を引き摺った──その時だった。
「なんだ!?」
「地響きが──?」
突然、南門広場に大地を揺るがすような轟音が鳴り響く。
足元から突き上げるような衝撃と共に、彼等の目に飛び込んできた物──それは、巨大な南門が外から打ち破られる光景だった。
「うわあああぁぁ!!」
パラパラと、木片が降り注ぐ。
そうして、轟音が収まった後──開かれた門の向こうには、無数の騎馬兵が犇めいていた。
「……来たな」
先頭に立つ騎士の姿を認め、ローレンスが口の端を吊り上げる。
王太子として、完璧でなければならない。
そんな自分の、罪を知る者。
王太子である自分の地位を脅かし得る者。
ずっと目の上の瘤だった叔父を、ようやく排除出来る。
どす黒い喜びを胸に、ローレンスは声を張り上げた。
「反逆者、アラン・ガザードを討ち取れ!!」




