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【書籍化&コミカライズ】双子の妹に殺された姉、二度目の人生は初恋のイケおじ王弟にフルベットします!  作者: 黒猫ている
5章:激動の時代

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85:老人は諫言する

反乱軍による備蓄庫の襲撃と放火──この一報は、驚きをもって王都を駆け巡った。

倉庫街の延焼は三日三晩続き、死傷者も多く発生した。

街では反乱軍に対する不満の声が相次ぎ、これまで彼等を支持していた者達も、一斉に口を噤むしかなかった。


今や、表立って反乱軍を支持する者は居なくなった。

焼けたのは、国営の備蓄庫だけではない。倉庫街そのものが炎に巻かれ、王都では深刻な物資不足が起きていた。

市場の品棚は日に日に寂しくなり、今の状況では、他の街から新たな物資が運び込まれる望みも薄い。


反乱軍への期待は、反乱軍への憎悪へと裏返った。

国境に出征した騎士団が戻ってくれば、王都を包囲する反乱軍を蹴散らし、再び元の生活に戻れるのでは──食料や生活必需品の不足に喘ぐ民衆は、ただひたすらに待ち続けるしかなかった。


当然、批判を集めたのは反乱軍だけではない。

王都の警備を担う部隊も、また矢面に立たされていた。

警備責任者は辞任に追い込まれ、民衆からは警備隊への批判が殺到した。

王都の空気は、どこまでも澱んでいた。




そんな中、一人の重鎮が王太子に面会を申し出た。

王家の剣術指南役を務める、イーデン・ダウズウェル伯爵だ。

齢六十を過ぎてなお矍鑠(かくしゃく)たるこの老人は、アランにとっても剣術の師である。


「ダウズウェル老、久しいな」

「ご無沙汰しております、殿下」


ローレンスを前に、ダウズウェル伯爵が深々と頭を垂れる。

ローレンスにとっても老人は剣の師であったが、王太子教育に追われるローレンスは、アランほど剣に打ち込んではいない。

その為、二人の間に師弟らしい親しさはなく、関係は王太子と臣下の域を出なかった。


「して、何用だ?」

「先の備蓄庫襲撃について、不審な点がありましてな」


ダウズウェル伯爵が、すっかり白くなった顎髭を撫でる。


「私が知る限り、アラン・ガザード卿は、あのような手段に出る御方ではありませぬ」


老人の黒い瞳が、じっとローレンスを見つめる。

その視線を真っ向から受け止めながら、ローレンスは不敵な笑みを浮かべた。


「人は、変わるものだ。叔父上とて、こと戦になれば手段は選ぶまい」

「いえ、人の本質は変わりません」


ローレンスの言葉に、老人がゆっくりと頭を振る。


「アラン様の本質は、剛にして直。どこまでも強く、そして真っ直ぐに進まれる御方だ」

「ならば、別の者が立案したことかもしれんな」

「それも、有り得ないでしょう」


ローレンスと向き合うダウズウェル伯爵の声は、嘆息に塗れていた。


「たとえ立案者が別人であろうと、備蓄庫を焼き払うなどという策を、アラン様が許すはずがありません」

「……何が言いたい?」


ローレンスの細められた瞳に、強い光が宿る。

それを受け止めるダウズウェル伯爵の瞳にも、仄暗い色が浮かんでいた。


「有り得ないのですよ。反乱軍が、あのような焼き討ちを行うなど」


ダウズウェル伯爵の言葉に、その場に居る侍従と護衛騎士が息を呑む。

ローレンスはと言えば、どこか愉快そうに口元を歪め、老人を見上げていた。


「証拠の品も見付かったというのにか?」

「物的証拠など、いくらでも捏造が可能でしょう」

「──はっ」


ローレンスが、声を上げて笑う。


「結局は、教え子を庇いたいだけか。老いたな、ダウズウェル」

「では、別の質問をいたしましょう」


嘲笑うような王太子の声に、落ち着いた老人の声が重なる。


「火災の一報は、炎が倉庫街へ燃え広がるより先に王城へ届いていたはず。炎を操ることに長けた貴方であれば、被害を抑えることも出来ましたな?」


ローレンスの笑顔が、ぴたりと凍り付く。

その碧眼は、まっすぐ目の前の老人を見据えていた。


「まさか、王太子であるこの僕に、燃え盛る倉庫街へ出向けと?」

「そう申している訳ではありません。ただ──倉庫街全体へ燃え広がるより先に、鎮火出来たのではないかと」

「そんなもの、結果論に過ぎん」


ローレンスが足を組み替え、ゆるりと老人を見上げる。


「どうやら、年を取ると想像力ばかり豊かになるらしいな」

「恐れ入ります」


恭しく頭を下げながらも、ダウズウェル伯爵の瞳は、なおもローレンスを真っ直ぐに射貫く。


「他に考えられんのですよ。アラン様の仕業でないのなら、誰がこの一件で最も得をするのか──答えは、貴方しか居ない」

「──っ」


ローレンスの白い肌が、一瞬で赤く染まる。

頭に上った血を鎮めるように、ローレンスはゆっくりと息を吐いた。


「もはや、耄碌(もうろく)した老人の戯言と聞き流す域を超えているぞ」


ローレンスの言葉に、護衛騎士達が進み出る。

そんな彼等を、ダウズウェル伯爵が一瞥する。


「未来ある若者達を危険に晒す訳にはいくまい。憎まれ役を引き受けるのは、老人の務め」

「嫌われた結果、命を落とすことになってもか?」


老いたとはいえ、相手は王国随一の剣士。

その迫力に圧され、戸惑う騎士達の前で、老人は声を上げて笑ってみせた。


「──それが、正義の為ならば」


ローレンスが、深く息を吐く。


「其奴を捕らえろ」

「はっ」


指示が出たことで、ようやく護衛騎士達が動きを取り戻す。

ダウズウェル伯爵は抗うこともなく、両腕に縄を掛けられた。


「殿下……この後、伯爵を如何なさいますか?」


老人を捕らえた護衛騎士の声には、不安が滲んでいた。

長年指南役として剣術を教えてきたダウズウェル伯爵を、慕う騎士は多い。

発言力の強い彼が真っ向から物申してきたことで、側近達の間に不安が広がっていた。


「牢にでも放り込んでおけ──あぁ、いや」


ふと、ローレンスの内に歪んだ感情が浮かび上がる。

──この老人を殺せば、如何に温厚なあの男(アラン)とて、平静ではいられまい。


「──ダウズウェル老を、謀反の一味として処刑する」


一度思い付けば、決断は早かった。

どす黒い感情が、愉悦となって全身を駆け巡る。


「処刑は、南門広場で行う。大々的に喧伝するがいい」


民衆の血を見ることを厭うてか、王都を包囲しながらも、これまで直接攻め込んで来ることはなかった。

だが、恩人の死を前にしてはどうだろうか。

民衆を巻き込む覚悟で王都へ攻め込むか。

それとも、恩師を見殺しにするか──。


「叔父上には、こちらから招待状を送ってやらねば」


薄暗い王城の一角に、乾いた笑い声が響いた。

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