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【書籍化&コミカライズ】双子の妹に殺された姉、二度目の人生は初恋のイケおじ王弟にフルベットします!  作者: 黒猫ている
5章:激動の時代

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84/86

82:軍師はほくそ笑む

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https://renta.papy.co.jp/renta/sc/frm/item/430666/

「ふあぁぁ」

「おい、こら油断するんじゃない!」

「んなこと言われてもさぁ……」


大欠伸をする兵士を、同僚が肘で小突く。


王都南門を守る守備隊。

王家から警戒指示は出ているが、末端の兵士にまでその理由は開示されていない。

上層部は危機感を持って軍備に駆け回っているようだが、事情を知らされていない末端の兵士達は、ただ命令に従って門の守備に就いていた。


王都を駆け巡る噂は様々だ。

公爵家なんていう雲の上の御方が反乱を企てただとか、王族が乱心したとか、国家転覆の危機だとか、あまりに日常生活とかけ離れた大袈裟な話が飛び交っている。

真に受けて脱走を図る民衆も数多く、現在の王都は混乱を極めている。


事情を知らされていない兵士達とは対照的に、指揮官達は張り詰めた空気を隠せずにいた。


「どうだ、異変はないか」

「ハッ」


先ほどまで欠伸をしていた兵士の前に現れたのは、この緊急時に南門の守護を任されたアーヴィング・ラブキン男爵だ。

突然現れた貴族に、兵士達の背筋が伸びる。


「今のところ、異変は──」

「うん? ちょっと待て」


何もないと答えようとした兵士を制し、もう一人が街道に目を凝らす。

厳戒態勢にあるとは思えないほど、門外には穏やかな景色が広がっている。

が、兵士が目を凝らした先、南門から伸びる街道の向こうに、微かな砂埃が舞っていた。

猛烈な勢いで近付いてくる砂埃の中から、やがて複数の人馬が姿を現した。


「たた、たすけっっ」


砂埃の中に見えてきたのは、輸送隊らしき馬車と護衛の一団だった。

その背後に追いすがる騎馬に追い立てられ、這々(ほうほう)の体で南門を目指している。


「救援隊を出せ! 開門は最小限に留めろ!」


ラブキン男爵の号令により、門が開く。

門から出撃した騎馬隊が、輸送隊の元へと駆け寄る。

彼等を追い立てていた一団は、すぐさま踵を返して街道を元来た方向へと走っていった。


「大丈夫か、其方達は?」

「はっ、こちらテンパートン領より、子爵様のご指示にて王都に物資を輸送している最中でした、が……」


護衛らしき男の一人が、チラリとボロボロになった馬車に視線を向ける。

何本もの矢が突き刺さった車体と、ひしゃげた車輪。

今にも壊れそうな有様だったが、中の荷は無事らしい。


「良かった……」


兵士の報告に、護衛の男は安堵したようにその場にへたり込んだ。


「一体何があった?」

「街道を走っている最中に、複数の騎士達に襲われました……あれはおそらく、ガザード家の騎士だと思います」


男の言葉に、詰めかけていた兵士達がざわめく。

建国の名門、ガザード公爵家──噂でしかなかった謀反が、にわかに現実味を帯びる。


「詳しく教えてくれ、相手の数は? 装備は? 指揮官は誰だ!?」


ラブキン男爵が、前のめりになって男に詰め寄る。


「えぇと、数は十五か十六か……おそらく、二十はいってないと思います。装備は、王国軍のものとそう変わらなかったように思いますが……」


突然の剣幕に、男がしどろもどろに答える。


「指揮官と言われても……ああ、他の騎士達がしきりに指示を仰いでいる男は居ましたね」

「その男の特徴は?」

「無精髭でしたが、こざっぱりとした印象の男でした。ああ」


男が、思い出したかのように付け加えた。


「他の騎士達が、確か──“アラン様”と呼んでいました」

「アラン──だと?」


男の肩を揺さぶっていたラブキン男爵の手が、ピタリと止まる。

現場を指揮する男爵の耳には、既に反乱軍の情報は全て届いている。


アラン・ガザード。

その名を、ラブキン男爵が知らぬはずもない。

ガザード公爵家の入り婿であり、先王の血を引くアラン・ガザード──王弟でありながら臣籍に下り、王家に弓引く大罪人だ。


(まさか、彼ほどの者が輸送隊を襲撃する為に指揮を執るなんて、そんなこと……有り得るのか?)


相反する思いが、ラブキン男爵の胸中でせめぎ合う。


これは、きっと罠だ。

そうに違いない。

理性が警鐘を鳴らす傍らで、彼の野心はこの上ない好機だと甘く囁きかけていた。


(討ち取ったなら、間違いなく恩賞ものだ……いや、此度の一番手柄ともなり得る)


先ほど、砂埃を上げながら街道の向こうへ逃げていく騎馬の一団を、この目で確認している。

あの中にアラン・ガザードその人が居るのだとしたら──?

今はまだ、そう遠くには行っていないはずだ。


「……準備をしろ」

「は?」


ラブキン男爵の言葉に、傍らの兵士が首を傾げる。

門の守備を任されている最中に、何の準備を命じられたのか分からず、兵士は目を瞬いた。


「今動かせる騎馬兵をかき集めろ! 門の守備は残し、すぐに先の一団を追うぞ!」

「は、はいっっ」


バタバタと、兵士が駆けて行く。


「どうしますか、王城に報告は──」

「いや、まだ報告するほどの確証はない。俺が直接確認する」


小隊長の言葉を、ラブキン男爵が遮る。

問い掛けた小隊長は、それ以上何も言わずに頭を下げた。


(報告など入れては、他の者に手柄を奪われてしまうかもしれない……)


大罪人アラン・ガザード。

その首を、この手で挙げられるかもしれない。

そんな思いが、ラブキン男爵の心を逸らせていた。


こうして、王都南門から総勢二百の騎馬隊が出撃した。

狙うは、近辺に潜んでいるであろうガザード公爵家の小部隊。

ラブキン男爵が直接陣頭指揮を執り、騎馬隊は真っ直ぐに街道を南下した。


目指すは、アラン・ガザードの首級。

ほどなくして、疲弊した様子で逃げる小部隊を視界に捉えた。


「行け、向こうは少数だ! 追いつきさえすれば勝てるぞ!」


男爵の号令に、兵達が鬨の声を上げる。

二百騎の馬蹄が地面を打ち、街道を揺らした。


(行ける、行けるぞ……!!)


我知らず、アーヴィング・ラブキンの心は浮き足立っていた。




「さて、と……」


時を同じくして、ガザード・エルドレッド連合軍の野営地。

鎧を纏ったアランが、馬上から街道の先を見据えていた。


「ご武運を、アラン様」

「ああ。後は任せろ」


その背後で、総勢四百もの騎兵が静かに出撃の時を待っていた。

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