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【書籍化&コミカライズ】双子の妹に殺された姉、二度目の人生は初恋のイケおじ王弟にフルベットします!  作者: 黒猫ている
5章:激動の時代

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79:王弟は未来を見据える

ガザード公爵邸は、いつになく緊張に包まれていた。

執務室には何人もの文官が出入りし、修練場には大勢の騎士達が詰めている。

それ全て、軍を率いる将の号令を待ってのことだ。


「どうだ、国一つを奪いに行く気分は」


当主のウェズリーが、娘婿を揶揄うように笑う。

言われた方は、軽く肩を竦めるばかりだった。


「そんなもの、頼まれても要らないとずっと思っていたんだがなぁ」


アランにとっては、紛れもない本音であった。

母方の実家であるペニントン公爵家が謀反で断絶して以来、謀反人の一族という汚名がついて回っていた。

払拭しようとして、払拭出来なかった罪状。

それを自ら背負う日が来るとは、以前のアランならば到底信じられなかった。


彼等は皆、幼い頃からガザード家に仕え、王家からの密かな圧にも耐えてきた。

だからこそ、アランの下で剣を執ることに迷いはない。


「頼んだぞ……その、コーデリアのことも、な」

「ああ」


ウェズリーの顔に、影が差す。

双子の妹であるコーデリアは、一通の書き置きを残して屋敷から姿を消していた。


“大恩あるエルドレッド公爵様の処刑を、見過ごす訳には参りません”


コーデリアにとって、クライドは洗脳を解いてくれた恩人だ。

王太子ローレンスはいまだコーデリアをなんとか王城に招こうと、何度も書状を送りつけている。

彼女が内部に潜入したならば、あるいはクライドを地下牢から助け出すことも出来るのかもしれない。


しかし、コーデリアはディアナのように剣を嗜んでいる訳ではない。

アランに憧れて育ったディアナとは違って、コーデリアはごく普通の貴族令嬢なのだ。

城内に潜入したは良いものの、怪しまれでもしようものなら、彼女一人で脱出する術はない。

ギリリと、ウェズリーが下唇を噛みしめる。


「大丈夫だ、一人ではないんだろう?」

「あ、あぁ……一応な」


ウェズリーの肩を、アランが叩く。

公爵令嬢であるコーデリアには、表立って護衛する騎士以外にも、常にガザード家の影が付き従っている。

尾行に気付き、時には自らそれを撒こうとするディアナとは違って、コーデリアは常に守られる対象であった。


「彼女は、俺にとっても大事な義妹だ。必ず無事に連れてくるよ」

「頼んだ」


頼もしい親友の言葉に、ウェズリーが力無く笑う。


王家が最も警戒するガザード公爵──彼もまた、娘を心配する一人の父親であった。


「──大変です、公爵様!!」


出陣間近なガザード家の執務室に、従者が駆け込んでくる。


「なんだ」

「王城に潜ませた間諜からの報告ですが──」


一瞬声を詰まらせた従者が、息を整え、唇を開いた。


「お嬢様が──コーデリア様が、エルドレッド公爵を地下牢から脱出させ、共に王城を出たと報告がありました」

「なんだと……?」


その報告に目を見張ったのは、ウェズリーだけではない。

アランもまた、毒気を抜かれたようにブルーグレーの瞳を瞬かせた。


「今は公爵と共に、エルドレッド家の野営地に合流したそうです」

「そう、か……」


安堵か呆れかも分からぬ息が、ウェズリーの唇から零れ落ちる。


「このことは、王家は?」

「既に把握されています。影と近衛兵の戦闘も、発生したようです」

「だろうな」


従者の言葉に、二人が頷く。


コーデリアが、処刑が決まっていたエルドレッド公爵を逃がした。

武力蜂起より先に、コーデリアが王家に一石を投じた形だ。


「ははっ、これは一本取られたな」

「まったく、お転婆なのはディアナだけではなかったか……」


声を上げて笑うアランとは対照的に、ウェズリーは額を抑えて顔を顰めた。

しかし、その面には隠しきれない安堵の色が広がっている。


「まったく、あの子と来たら……」

「良いではないか」


コーデリアを庇うように、アランが力強く頷く。


「こうなったからには闇に潜んで進軍するのではなく、堂々と兵を進めよう」

「……そうだな」


ガザード公爵家と、エルドレッド公爵家。

ラトリッジ王国が誇る二大公爵家の武力蜂起に、王国は真っ二つに割れるだろう。

ましてや、ガザード公爵家の兵を預かるのは、先王の血を引くアランだ。

他の貴族達は、すぐには動かずに情勢を見極めようとするに違いない。


所詮、彼等は勝ち馬に乗るだけの存在。

勝利は、自分達の手で掴み取らなければならないのだ。


(負ける訳にはいかない──)


出立を前に、アランが静かに目を閉じる。


(今は、もう──一人ではないのだから)


愛する妻だけではない。

そのお腹には、新たな生命が宿っている。

ここでアランが敗北すれば、お腹の子は彼と同じ“反逆者の血筋”という汚名を着せられることになる。


(俺と同じ想いは、絶対にさせない)


ゆっくりと開いたブルーグレーの瞳は、真っ直ぐに未来を見据えていた。

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