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【書籍化&コミカライズ】双子の妹に殺された姉、二度目の人生は初恋のイケおじ王弟にフルベットします!  作者: 黒猫ている
5章:激動の時代

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75:王太子は決断する

「お、王太子殿下……」


エイブラムが振り返った先には、王太子ローレンスの爽やかな微笑みがあった。

凍てつき、張り付いたような笑顔。


「して、僕と陛下にどんな問題があると言うのだ? もう一度、申してみよ」

「は、それは──」


エイブラムは彫像のようにその場に立ち尽くした。

その身体が、やがて小さく震え出す。


無理もない、彼は王家に対する不信をアランに打ち明けようとしていたのだ。

その現場を押さえられては、もはや弁解の余地はない。


“不敬罪”

その一言で、貴族といえど処罰は免れない。

しかも今回の言動は、王弟アランと第三騎士団の騎士達を巻き込むものでもあった。

不敬に留まらず、他者を唆したとして内乱罪まで問われかねない。


「おい」

「はっ」


ローレンスが手を上げると、彼の背後から現れた近衛騎士達が、エイブラムを取り囲む。


「王太子殿下、わ、私は──」


両腕を近衛騎士に掴まれたエイブラムが、声を震わせた。


「連れて行け」


もはや弁明を許す気などないとばかりに、ローレンスは指示を出した。


「殿下、お待ちください殿下!!」


ホールの床を引き摺られるようにして、エイブラムが連行されていく。

その姿を、アランも第三騎士団の隊員達も、呆然と見送ることしか出来なかった。


「とんだ反逆者が居たものだ」


何事もなかったかのように、ローレンスが穏やかな笑みを浮かべる。

いつもと同じ、泰然とした態度。

その落ち着きが、かえって不気味さを醸し出していた。


「叔父上があの愚か者の口車に乗ることがなくて、安心しました」

「あ、あぁ……」


ローレンスの言葉に、アランが小さく息を吐く。


(きっと、何か言っていたなら──俺もまた、彼と一緒に連行されていたのだろうな)


あるいは、ローレンスもまたそれを望んでいたのかもしれない。

華やかなパーティーだからと、気を抜くことは出来ない。

いつだって、刃は喉元に突きつけられているのだ。


「叔父上も、身重な奥方がさぞ心配なことでしょう」


ローレンスの、穏やかな笑顔。

しかし彼の碧眼は強い光を湛え、真っ直ぐにアランを射貫いていた。


「どうぞ安静にお過ごしいただきますように」


──痛烈な皮肉だった。

お前に何かあれば、身重なディアナにも被害が及ぶぞと言いたいのだろう。

彼の父オスニエルに幼少期から言われていた言葉を思わせる。


現王オスニエルのことを思い出した瞬間、アランの口元に小さな笑みが浮かんだ。


「ご忠告、痛み入る。活発で有能な妻を持つと、気苦労が絶えなくて困ったものです」


苦笑を返すアランに、ローレンスが眉を顰める。


この程度の皮肉には、慣れたものだ。

これ以上の言葉の刃を突きつけられたことは勿論、刺客に命を狙われたことさえあるのだ。

些細な言葉など、児戯に等しい。


「……ふん」


面白くもなさそうにローレンスが小さく鼻を鳴らして、踵を返す。

立ち去るその背中を見て、第三騎士団の隊員達が、一様に息を吐いた。


「──アラン様!!」


ローレンスと入れ替わるようにして現れたのは、騒ぎを聞きつけたディアナだ。

先ほどまでこの場にローレンスが居たことを知って、ディアナの顔には緊張が滲んでいる。


「一体、何の騒ぎですか。誰かが近衛騎士に捕らえられたと聞きましたが……」

「ああ、少し色々あってな」


愛おしい妻の姿に、アランの表情が自然と綻ぶ。

ディアナもまた、夫の無事を確かめるようにその身を寄せた。

仲睦まじい二人の姿に、目のやり場に困った騎士達は、自然と視線を逸らしていた。


「本当に大丈夫ですか?」


どこか拗ねたようなディアナの声に、アランが声を上げて笑う。


「ああ、問題ない。相変わらず、とても居心地が良いとは言えない場所だが──」


アランのブルーグレーの瞳が、華やかなパーティーホールを見渡す。

自分達に向けられる、幾つもの目。

好奇、警戒、同情──そこに宿る色は様々だ。


「どうやら、前とは違う空気が流れ始めているようだ」


小さく呟いたアランの言葉に、ディアナが首を傾げた。




一方、面白くないのは王太子ローレンスだ。

連行したエイブラム・ジョーセフを投獄するように命じはしたものの、それだけで彼の気が収まるはずはない。


王城で、このような騒動が起きること自体、予想外であった。

誰も彼も、言うことを聞く──それが当たり前だったと言うのに。


能力に目覚めてからというもの、王城は彼の支配下にあった。

高官も、騎士も、使用人も、国王である父でさえ、誰も逆らう者など居なかった。


それが、今はどうだ。

小さな綻びが、指に刺さった棘のように不快感を誘う。


「やはり、あいつしか考えられない……」


ぽつり呟いた言葉には、隠しきれない苛立ちが滲んでいた。

どうして、自分に異を唱える者が現れ始めたのか。

考えられる原因は、一つしかない。


「──やむを得まい。クライドを、処刑する」


一度は生かすと決めた、婚約者の兄──その処遇が、覆ろうとしていた。

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― 新着の感想 ―
アラン陣営の動きが鈍い気がする。
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