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【書籍化&コミカライズ】双子の妹に殺された姉、二度目の人生は初恋のイケおじ王弟にフルベットします!  作者: 黒猫ている
5章:激動の時代

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74:王弟は思いがけない人物と出会う

「お前達、変わらないなぁ」

「そういう王弟殿下こそ」


グラスが合わさる甲高い音の後に、笑い声が続く。

王城で息苦しい生活を強いられてきたアランにとって、古巣である第三騎士団の騎士達は、数少ない心許せる相手であった。


ラトリッジ王国の騎士団は、身分ごとにいくつもの軍団へ分かれている。

高位貴族中心の近衛や第一・第二騎士団に対し、第三騎士団は職業騎士が多く、アランにとっては最も気安い居場所だった。


(どうやら、こいつらはローレンスの影響を受けてはいないようだな……)


以前と変わらぬ気安い騎士達の様子に、アランが表情を綻ばせる。


「あんな美人の奥さんと新婚生活だなんて、羨ましい限りです」

「しかも、美人なだけでなく、家柄にも恵まれているとは!」

「そうだろう、そうだろう」


騎士達のやっかみに、アランが声を上げて笑う。


「かーっ、少しは謙遜なりなんなりするもんじゃないんですか?」

「何を謙遜する必要がある。ディアナが美人なのは、分かりきったことだろうに」

「ははっ、ごちそうさまです」


慣れ親しんだ隊員達が相手とあって、アランの口数も多い。

和気藹々とした空気が流れる中、近付いてくる一つの影があった。


「うん……?」


気配を感じ、アランが視線を向ける。

そこには、一人の男が居た。

貴族然とした若い男だが、その顔には見覚えがない。


「貴殿は……」


アランが言いかけた時、男の接近に気付いた第三騎士団の騎士達が、男とアランの間に割って入った。

まるで自分の前に立ち塞がるような騎士達の姿に、アランが目を見開く。


「王弟殿下、お下がりください」

「お前、何のつもりだ!?」


先ほどまでの和やかな空気からは一転、騎士達の声には殺気が混じっている。


「お前達……」

「殿下、こいつは──」


騎士の一人が、近付く相手を睨み据える。

鋭い視線が、憎々しげに男を射貫いた。


「こいつは、エイブラム・ジョーセフ……あの(・・)ユリシーズ・ジョーセフの縁者です!」

「なに……?」


ユリシーズ・ジョーセフ──忘れもしない、あの北方魔獣討伐部隊の副司令官だ。

近衛騎士を率いて、ディアナとガザード騎士団に偽の指令を出し、アランから引き離した張本人。


遠征後に捕らえられ、すでに処刑された罪人。

その縁者が当事者であるアランに近付けば、騎士達が警戒するのも当然だった。


「お待ちください、私は王弟殿下に一言お詫び申し上げたかったのです!」


男が悲痛な声を上げる。

しかし、アランの前に立ち塞がる騎士達は、険しい表情のまま。


「お前は確か──常日頃、伯父が処刑されたのは王弟殿下のせいだなどと(うそぶ)いていたのではないか?」

「ああ、日頃から殿下への鬱憤を口にしていたはず」

「違うのです、私の話を聞いてください!!」


訝しむ騎士達を前に、エイブラムが歩を進める。

その歩みを遮るように、騎士達がさらに身構えた。


「私が愚かだったのです。どうしてあのようなことを考えていたのか……今となっては、自分で自分が信じられません」


エイブラムが俯き、唇を噛む。


「我が伯父も、同様に──あのような大それたことを考える人では、決してなかったはず」

「なれば、冤罪だとでも主張するつもりか? 直接刃を交えた、我等の前で!!」


第三騎士団の隊員達もまた、アランと共にユリシーズの策略に嵌められた身だ。

彼等が怒りと警戒を露わにするのも、無理はなかった。


「貴殿が、王弟殿下と我等をどのように扱ってきたか……己が言動を振り返ってみるといい」


ユリシーズが処刑された後も、彼の行動は正しかったと主張する者達がいた。

その筆頭が、伯父を亡くしたエイブラム・ジョーセフ──目の前の男だ。

そうした経緯を知る騎士達は、エイブラムをアランに近付けまいと必死だった。


「自分でも分からないのです! どうしてあんな恐ろしいことを当然のように思っていたのか……!」


騎士達に睨まれながら、エイブラムはなおも声を張り上げた。

ホールに流れる音楽を掻き消すような音量に、人々が足を止め、胡乱な視線を投げかける。


「王弟殿下に対する不敬は勿論のこと、誰かの死を望むなど、人としてあってはならぬこと」


言葉を続けるエイブラムを、アランは無言で見つめていた。


「伯父の件と合わせ、一度王弟殿下にお詫びの機会をいただきたいと考えていました。どうか、私に機会をお与えください」


アランの唇から、重苦しい息が漏れた。


事情を知らぬ第三騎士団の隊員達は、今もなおエイブラムを警戒し、睨みを利かせている。

エイブラムの言動は、一貫していない。

少し前まではアラン憎しで居た男が、今更詫びるなどと言い出して、どのように信頼出来るであろうか──彼等の瞳が、そう語っていた。


だが、アランは違う。

クライド・エルドレッドが、自ら地下牢に囚われるに至った理由──王太子ローレンスに洗脳された人々を解き放つ為だと知っているからだ。


「いくら縁者とはいえ、貴殿と彼は別人だ。詫びていただく必要はない」


王太子の能力が、どれだけの人々に影響を及ぼしていたのか。

その影響を、クライドがどれだけ解き放っているのか。

エイブラムの真意を探るように、アランはじっと彼を見つめた。


「……失礼ながら、申し上げます」


再びアランに向き直り、エイブラムが姿勢を正す。


「陛下と王太子殿下の、王弟殿下に対する振る舞いは、あまりにも……とても、肉親に対してのものとは思えません」


ぽつり、ぽつりと呟くような言葉。

その言葉に、騎士達も思わず息を呑んだ。

それを一番に感じているのは、アランと同じ騎士団に所属していた隊員達なのだから。


「そもそも、我がジョーセフ家は──」

「僕だけではなく、陛下にまで物申すとは、随分と偉くなったものだなジョーセフ」


エイブラムの声を遮ったのは、鈴の音のように軽やかな声だった。

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