58:双子の姉は公爵と同道する
「どうして……そこまで」
ディアナは目を見開いて、ケイリーとクライドを見つめた。
王太子の婚約者であるケイリーは、このままローレンスが玉座に就けば王妃となる立場だ。
にもかかわらず、兄妹は自らその座を手放そうとしている。
それが、ディアナには信じられなかった。
「私には、兄ほどの力はありません」
ケイリーが、僅かに目を伏せる。
「婚約者として、殿下のお側に居ることで、少しでも周囲の人々を浄化出来ればと思ったのですが……私では、影響を遅らせることが精一杯でした」
悔しげに歯噛みするケイリーからは、王妃の座に対する未練など、微塵も感じられない。
彼女は、心の底から願っているのだ。
王家の呪縛から、人々を解き放つことを。
現王政から解放されて、新たな政権の元、国が正しい道を歩むことを。
「我等の願いは、二つ」
クライドが、静かに言葉を重ねる。
「悪心を持たぬ者を王位に就けることと、五大貴族に纏わる王家の記録を、全て抹消すること──これなくして、我がエルドレッド公爵家の未来はありません」
クライドとケイリーの真っ直ぐな視線が、ディアナを貫いた。
(ガザード家だけではなく──エルドレッド家も、同じように、王家からの圧を受け続けていたということ……?)
ガザード家だけではない。
表には出ていなかっただけで、エルドレッド家もまた、長い間王家から圧を受け続けてきたのかもしれない。
そう思うと、長い王国の歴史の見え方そのものが、少しずつ変わっていく気がした。
「……アラン様との話の場を設けることは、可能です」
ディアナの言葉に、クライドとケイリーの表情が輝く。
「ただ──アラン様が、頷いてくださるかどうかは……」
「それで結構。機会さえいただければ、必ず説得してみせます」
意気込むクライドから、ディアナはそっと、目を逸らした。
クライドは、護衛を伴わずにガザード家の馬車へ乗り込んだ。
騎士達を引き連れて出入りすれば、両家の談合を王家に疑われかねない──そう判断してのことだ。
公爵自らそこまで慎重を期していることに、ディアナは恐縮せずにはいられなかった。
ガザード家本邸に戻ったディアナに、執事が深々と頭を下げる。
「王弟殿下がお見えになっております」
「そう……」
クライドと共にウェズリーの執務室を訪ねれば、いつもは快闊なアランが、頭を抱えるようにソファーに座り込んでいた。
「……今、アランにも話したところだ」
「そうですか……」
父ウェズリーの言葉に、ディアナが小さくため息を吐く。
コーデリアが、今どのような状態にあるのか。
それが、誰によってもたらされたものか。
そして──彼の母の家が、どうして潰えることになったのか。
それら全てを知ったからこそ、アランが苦悩しているのだろうと理解する。
「エルドレッド公爵には、ご足労いただき、かたじけない」
「いえ、こちらとしても一度お話をさせていただきたいと思っておりました」
ウェズリーがクライドを伴い、執務室を出ていく。
彼等の足音は、真っ直ぐコーデリアの部屋へと向いていた。
遠ざかる音を聞きながらも、ディアナは夫が座るソファーの隣に腰を下ろし、そっと彼に身を寄せた。
彼女自身、真実を知った時の衝撃は、計り知れなかった。
アランの心が、どのように乱れているか……ディアナに推し量ることは出来ない。
「俺は……間違っていたんだ」
「アラン様……?」
夫の言葉に、ディアナがその顔を覗き込む。
「あの時──あの子を、断罪しておくべきだった……」
アランの口から語られたのは、彼が抱えた悔悟と、幼い王太子が犯した罪だった。









