57:双子の姉は提案を受ける
「ようこそおいでくださいました、ディアナ様」
急な訪問であったにもかかわらず、ケイリーとクライドは驚いた様子も見せず、穏やかにディアナを迎え入れてくれた。
通されたのは、晴れやかな庭園ではなく、屋敷の奥まった応接室。
ディアナの沈んだ面持ちに気づき、ケイリーの柔らかな表情が引き締まった。
「どうかなさいましたか?」
「ええ、本邸に戻って、コーデリアの様子を確認してきたのですが……」
ディアナの言葉に、ケイリーとクライドが視線を見合わせる。
「色々なことがあって、妹は、父に登城を禁じられていたのですが……そのせいで、随分と取り乱してしまい……」
ケイリーとクライドの視線が、探るようにディアナに注がれる。
「……その様子は、とても常軌を逸しておりました」
「そうですか……」
ケイリーが、嘆息交じりに答える。
「ケイリー様は……コーデリアがこうなることを、予想しておられたのですか?」
返事の代わりに、ケイリーが小さく頷く。
(やはり──ケイリー様は、知っておられたんだわ……)
ディアナが、ぎゅっと拳を握りしめる。
だからこそ、前にエルドレッド公爵家を訪れた際に、コーデリアのことを聞いてきたのだろう。
そして、ディアナに投げかけた言葉──。
“ディアナ様……貴女は、もう、お目覚めなのですか?”
あれは、ガザード家の血に宿る異能について問うていたのではないか。
「その様子を見るに、ディアナ様も、ガザード家の後継者として、全てをお知りになったのでしょうか」
「全てかどうかは、分かりませんが……」
ケイリーの言葉に、ディアナが頷く。
「コーデリアを治療出来るのは、エルドレッド家の方のみ──と、そう聞いております」
エルドレッドの姓を持つ兄妹は、静かにディアナを見返していた。
やがて、兄のクライドが、ゆっくりと唇を開いた。
「コーデリア嬢を治療することは、こちらとしても、やぶさかではありません。ただ──」
「ただ?」
「こちらからのお願いも、一つ、聞いてはいただけませんでしょうか」
ケイリーが、小さく息を呑む。
兄がそのような提案をするなど、彼女にとっても予想外だったのだろう。
そんな二人を、ディアナはじっと見つめていた。
「お願いの内容を聞かずに、答えることは出来ません」
ピリリと、応接室の空気が張り詰めた。
「無論、こちらとしても無理なお願いをするつもりはありません」
慌てたように、クライドが首を横に振る。
ディアナの表情が僅かに和らぎ、ケイリーが安堵の息を吐いた。
「ただ……王弟殿下と、話し合いの場を設けていただきたいのです」
「話し合い?」
ディアナが小さく首を傾げる。
先日ケイリーとディアナが温室を見ている間にも、アランとクライドは二人で話し込んでいた。
「場合によっては……貴女にも、ご迷惑をおかけすることにはなってしまいますが」
重々しく呟いた後、クライドは唇を噛みしめた。
「……どのような話を?」
一瞬、クライドとケイリーが周囲に視線を走らせた。
ここはエルドレッド公爵家の応接室。
不審な人物など、近付けるはずもない。
それでありながら、二人がこれほど警戒をするとは──よほどの内容なのだろうと、ディアナが息を呑む。
「こちらが望むことは、王太子殿下の廃嫡」
「え──」
ドクンと、ディアナの心臓が鳴る。
「邪心を抱く者が王位に就けば、国は容易く崩壊します。僕達は、彼を──ローレンス殿下を、次期王とは認められない」
断固とした、力強い言葉だった。
(国王陛下以外に、王族は王太子殿下と、臣籍に下ったアラン様の二人のみ)
ドクドクと、鼓動が早鐘を打つ。
彼等の求め──それは、つまり。
(アラン様に、王位を簒奪しろということ──?)









