56:双子の姉は妹を想う
「再、生……?」
ディアナの声は、震えていた。
「ガザード家の直系は、生涯に一度だけ、時間を巻き戻すことが出来ると言われている。その際に、誰か一人だけの記憶を残すことが出来る」
淡々と告げる父の声に、ディアナは紫色の瞳を見開いた。
「全ての再生──やり直しを、その人物に託して、な」
再びの沈黙が、場を支配した。
父の言葉が、耳にこびり付いて離れない。
(それは──正に、私の身に起きたことではないの……?)
今となっては、もう疑いようはない。
ディアナは、王家と五大貴族に纏わる異能を、真実だと理解していた。
「ま、そう言い残されているだけで、真実かどうかは定かではないんだがな。なにせ、能力を使った本人ですら、何も覚えてはいないのだから」
ウェズリーが笑い声を上げながら、立ち上がる。
壁際に向かい、本棚から、一冊の本を取り出した。
「ガザード家の持つ能力については、全てここに記しておいたが……後を継ぐより先に、お前に話すことになるとはなぁ」
(あれは──)
ディアナは、苦笑する父の横顔をじっと見つめた。
思い出す、前世の記憶。
新たに公爵の座に就いたディアナは、毎日多忙を極めていた。
結果、父の遺品整理は、全て妹のコーデリアに任せたのだ。
コーデリアは、読んだのだろうか。
ガザード家の持つ能力について、書かれた書物を。
──父ウェズリーの遺した記録を。
ウェズリーから夕食に誘われたディアナは、夕食までの短い時間を、住み慣れた自室で待つことにした。
慣れたはずの部屋だが、そこにアランの姿はない。
いつしか一人になることに寂しさを覚えていた自分に気付き、小さく笑う。
寂しさを感じる一方で、アランがこの場に居なくて良かったとも感じていた。
一人で居る方が、思考が整理出来る。
ディアナが一度死んで、時が巻き戻ったことは、アランにも伝えていないのだから。
(私が死んだ時──お父様は、もう他界していた)
思い出す、父の言葉。
能力が使えるのは、ガザード家の直系のみ──であれば、あの時点で能力を行使出来たのは、ディアナとコーデリアの二人だけだ。
(コーデリア……時間を巻き戻したのは、貴女だったの……?)
熱い雫が、ディアナの頬を伝う。
魂の片割れ──生まれた時からずっと一緒に居た双子の妹に、裏切られたと思っていた。
でも、違った。
前世でも、コーデリアは精神を操られていたのだろうか。
そうして、望んでもいないのに、自分を害したのだろうか。
その結果、時間を巻き戻した──?
思考を整理する傍らで、感情が止めどなく溢れてくる。
ディアナの美しい顔は、涙に濡れていた。
「コーデリア──貴女は、私を裏切った訳では、なかったのね……」
(悪い男に騙されて、利用されて……馬鹿なコーデリア……)
ハンカチを押し当てても、次から次へと、涙が溢れてくる。
過ごし慣れた自室、寝室のベッドで──ディアナは一人、声を上げて泣いた。
父との夕食に臨むディアナは、他人が見れば、いつも通りの澄ました表情に見えただろう。
化粧を直し、目元の腫れは白粉で隠して、凜とした空気を纏っている。
「お父様、コーデリアは?」
「今はまだ眠っているようだ……部屋を見張らせている」
「そうですか……」
ウェズリーは、澄ました顔を装う娘の目元を、じっと見つめていた。
「陛下は長い間、病床に臥せっておられる……」
「ええ、私もそう聞いています」
ナイフとフォークを動かす合間に、ディアナが頷く。
「殿下が何を考えておいでかは分からぬが……」
そこで、ウェズリーは言葉を噤んだ。
相手はこの国の王太子だ、滅多なことを言えば、首が飛ぶ。
それを知っていてなお、疑念を拭い去ることは出来なかった。
「少なくとも、彼が能力に目覚めていることは、間違い無さそうだ」
ウェズリーの言葉に、ディアナは頷いた。
王家の力が真実ならば、五大貴族もまた、王家にとっては脅威なのだろう。
ローレンスの冷たい眼差しは、その証左に思えた。
「問題は……エルドレッド家は、王太子殿下の婚約者の家だ。我々に協力してくれるかどうか……」
ウェズリーがため息交じりに吐き出す。
普通に考えれば、協力など望むべくもない。
だが、ディアナはケイリーとクライドの態度と人柄を知っている。
「私が直接、話をしてみます」
翌日、ディアナは再びエルドレッド家の門を叩いた。









