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1/2のプリンス&プリンセス  作者: マツモトコ
美貌の國編
94/98

94、冬人夏草

 ウクド本体の1/4サイズのちびちびウクドは酷く(もろ)く、上半身へと伸びた菌糸を払い()ける際にへなちょこいすずがうっかり足を動かしただけでも欠損させてしまい、胞子を舞わせる事になる。

 ちびちびウクドの胞子から生まれたのは100本、いや100体程のウクド本体の1/8サイズのちびちびちびウクド。


「あ」

「ばっか、いすず!オリジナルいすずの動きは偽いすずに連動するんだぞ。2人同時にちびウクドを増やすな」

「ごめーん!!ほんとごめーん!!」

「マリルドさん…?いすずたちが増やしたちっこいウクドはマリルドが増やしたちびちびウクドの数には遠く及ばないよ?」

「うはは」

「なはははは!本当やん!わたのことを責める資格なくない!?こ」


 いすずが増やしたちびウクドは()(さま)私達に群がり、先に菌糸を伸ばしていたちびウクドの加勢をする。


「わー!こっちに集まってきた!ねぇ、目的は何!?怖いっちゃけど!あの人天使なんよね!?こんなことしていいと!?」

「さぁ?いすずが言ってた通りなんじゃねーの?ワタ達をキノコに変えて、食料…あ、漢方薬にするつもりとか?」

「ギャー!あれ冗談のつもりやったんやけど!?っていうか、人をキノコに変えて食べるとか正気の沙汰じゃないし!」

「そう?地球でも冬虫夏草みたいなキテレツなものを漢方にしてるらしいし…なきにしもあらず、なんじゃない?」

「とーちゅーかそー!?それってなに!?ヤバいやつ!?どうしよう!?ねぇどうする!?」

「あはははは、冬虫夏草を知らないのに怖がってるのすごいね」

「イサナの世界のものをわたが知るわけないやん!」

「ワタは食べたことあんよ」

「嘘やろ。叶球(ウィクト)にも存在するものやったと!?」

「食べたことあるの?わお。マリルドすごいね」

「なにそのイサナのリアクション。え…とーちゅーかそーって…何!?」

「つっても…ワタが食べたのは偽物だったからなぁ。虫からキノコが生えてるからって全部が漢方薬になるわけじゃないらしい」

「は…?虫?虫って言った!?どういうことと!?」

「しかも重さを増やすために水銀が注入されてたらしくてさぁ。まぁ死にかけたよね。あんときにいたのが天使が多い國だったからすぐに助けてもらえたんだけどさ」

「マリルド…命、大事にして…ほんとに」


 解毒してもらった後、天使に反省文を書かされたのは今思い出してもムカつくわ、と付け加えるマリルドの太太(ふてぶて)しい態度が笑いのツボに入ったらしく大笑いを始めた2人のいすず。

 が…、突如笑う事をぴたりと止める。

 いつもであれば一度笑い出すと呆れるほど執拗(しつこ)く笑い転がり続けるいすずが自発的に笑いを止めた事に驚いてしまう。


「…いすず?」


 どうしたのかと問うまでもなかった。

 笑う最中に脱力し、いつものように床に転がろうとしたいすずであったが、今私達の足元にあるのはちびウクドの大集団。

 ちびウクドは機を逃すことなく、いすず達が床に膝を着いた時点で2人のいすずの口と鼻を目掛けて一斉に菌糸を伸ばし、彼等は目的を達成したのだ。

 ぽ、と2人のいすずの頭からひょろりと白く細いキノコが生え出る。


「いすず!」


 ちびウクドを蹴散らして私は2人のいすずの元へ駆け寄る。

 大量の胞子が舞い、視界が霞む。

 ちびウクドの山の中から2人のいすずを立たせようとしたのだが、先にいすず達が立ち上がったため、片方のいすずの後頭部に私の顎がぶつかりそうになり、私は慌てて身を反らして回避する。


「ちょ、いすずあぶな」

「…ウクドしゃま。まずは2人を捕まえマシュた」

「…いすず…?」


 いすずの言葉に呼応するように再び腐敗した複数の扉が現れる。

 2人のいすずは足を動かさず床を滑るように移動をするとぼろりと木屑を落としながらも開いた扉の1つに飛び込んでしまった。

 扉は2人のいすずを収容すると再び姿を消した。


「うはは、やべぇな。いすずマジで体を乗っ取られてんじゃん。何?ウクドってモウの仲間だったんかな?」

「いすず!マリルドいすずが…!どうしよう…!」

「どうしようって…え?逃げるけど?」

「…え?」

「さっき命大事にっつったのはイサナだろ?」


 …言いました、が。

 でも、だけど、いすずが…。


「ほんとさぁー…、マジでイサナはいすずのこととなると冷静さを欠くよね。なんとかしてーんならワルサーに頼りゃなんとかなるんじゃねーの?」

「ワルサーは…まだ感覚遮断中というか拗ねてる…っぽくて…反応がないの」

「チッ。役に立たねぇ。ま、どっちにしろワルサーが人助けするわきゃねーか。あいつが守るのは自分の体だけだもんな。今もイサナの体の左側にはウクドも近付けてねーし」

「そうなんだよねぇ…」


 マリルドは(せわ)しなく菌糸を(はた)き落とす手を止めることなくじっと私を観察する。

 猛禽類の如し白目が見えぬ大きな山吹色の虹彩(こうさい)の中央に在る赤い瞳孔を無言で向けられると相手がマリルドだと理解していても緊張する。

 マリルドは指差し確認をするかのように私の目、鼻、口に向けて指を向けると「へぇ。羨ましかねーけど、便利だなその体」と呟くと、「一人残るか、ワタと退()くか今すぐ決めて」と判断を迫る。


「…え、何?」


 私の声を無視してマリルドは床を蹴り宙返りをする最中、天井に向けて脚を振り抜いた。

 マリルドの脚力が生み出した凄烈(せいれつ)な風圧は診療所の天井を吹き飛ばす。

 僅かな木屑が降り注ぐ中、天井が失くなった事で室内に光が射し込み、マリルドが飛散させたちびウクドの胞子がきらきらと輝いて見える。


「…何で壊した?」

「邪魔だもん。次。逃げる気があるならイサナ軽くジャンプ」

「え?ジャンプ?」

「あと歯ぁ食いしばれ。はいジャーンプ」

「は?」


 深く考えず言葉に合わせて跳ねてしまった私の左足裏に与えられた衝撃が防護魔法越しに骨伝導で右半身にずん、と伝わってくる。

 聞き返しの「は?」だったのか、復唱の「歯?」だったのか自分でもわからない私の声がその場に残され、私の体は空高く飛ばされた。


「ちょっ…なんで蹴ったの…?うぇぇ」


 脚力オバケであるマリルドが軽くジャンプした私の左足裏を狙って蹴り上げたのだ。

 私に体幹があれば飛行するかのように空を抜けていったのだろうが、バランスを崩した私の体はぐるぐると縦回転してしまい、気持ちが悪くなる。

 私を蹴飛ばした直後、床を蹴ってジャンプをしたらしいマリルドが上昇を続ける私の隣に並ぶ。


「なんでって、逃げるために決まってんじゃん。別に痛かねーだろ?蹴ったのはガードされてるワルサーの足だし」


 マリルドは私の右足を掴むと、回転を止めてくれる。

 確かにちびウクドの胞子からは逃げられたし、私の体に纏わり付いていた菌糸も遠心力のお陰で剥がれ落ちているようだ。


「痛くはないけどさ…。ねぇ、まだ上昇してるんだけど…もしワルサーの防護魔法がなかったら私の体って粉々に砕けてたんじゃないの?」

「ワルサーの体なら砕けねぇって分かってるから本気で蹴ったんだよ」

「左様ですか…」

「ん?…雨?」

「雨?」

「なんか今頭に水が」


 空を見上げるマリルドの背後を鮮やかな色味のハート型の物体が通過したことに気付き、私は顔を(しか)める。


「なんだありゃ?」


 マリルドも上空に異物を見つけた様子なので私も空を見上げるとそこにはキラキラと光の粒子を溢れさせながら上空を旋回する1機の飛行機があった。

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