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1/2のプリンス&プリンセス  作者: マツモトコ
美貌の國編
95/98

95、ご機嫌ハート

 なんだ、飛行機かと思ったのだがどうもおかしい。

 下降を開始しているとはいえ私達がいるのは診療所がある龍の鬐甲から何百mも上空。

 その目の前を飛行しているのだから、この機体は高高度を飛行しているということになる。

 けれども飛行機からはエンジン音は一切聴こえない。

 私の体長と然程変わらないサイズの機体には人の肉体らしきものがぬたりと貼り付き、主翼には手首がぶらりと下がっている。

 小型飛行機に貼り付く深海に住まう鮫のように大きな瞳がぐぐぐと瞳孔を細くする。


「いたぞ。天使の分離体だ。うじゃうじゃいるぞ。逃げてなかった。いいぞ落とせ落とせ落とせ」


 人の口の無い飛行機は低く重い声を体内から響かせる。

 すると装丁に鳥の頭と鳥の足の剥製が貼り付けられた本が出現し、ぐるぐると回転する。


「本…?あの動きっててるの助くんが物を出してくれる時と同じ…ってことはあの本は家付き虫?なの?かな?」

「家付き虫って(あるじ)の趣味がダダ漏れなのウケるよな。アイツ悪趣味だわ。キライじゃねーけどね」


 マリルドに趣味を褒められた飛行機人間は、その音波を肌身に強く感じる程に声のボリュームを大きく上げて「忘却魔法を受け入れよ」という言葉を何度も繰り返す。


「あ?あの飛行機野郎は何を言ってんだ?忘却魔法?ワタたちに言ってんの?」


 直後、飛行機から光の粒子が爆発的に吹き出すとネオンピンクにネオングリーンにネオンパープルにネオンブルーにネオンイエローとご機嫌な色味のハート型の物体が大量にばら蒔かれた。


「うわーきれーい」

「げっ!マジかよ!イサナ!てるの助を呼べ!これ全部回収させろ!」


 言うが早いか、マリルド自身も468を呼び出して、ハートを次々と回収させ始める。


「え?え?そんなことしたら盗みになるんじゃ…?ダーメだよマリルド」

「ダメじゃねぇ!見殺しにしたらワタ達が殺人者認定されて終わりだっつの!」

「…見殺し…?ハートを…?」

「は!?マジか?こんなん文字を習うより前に教わるもんだろ普通!」 

「ええぇー…教わってないー。あー、じゃあ私が初投票するときには異世界教育必修を公約に掲げる立候補者に投票するよ」


 なんて、ふざけてみた私をマリルドは容赦なく無視をし、周囲にあるハートを蹴り飛ばしては468の元へ送っている。

 理屈はさっぱり理解出来ないが、既に幾つかのハートを468に回収させたマリルドに消失を開始した様子がないことから、このハートは無断で取得しても特例で窃盗罪には問われない物であるらしいと判断できる。

 私は気乗りしないながらもてるの助くんを召喚をし、大槍を出して貰った(つい)でにハートの回収をお願いをした。

 私は大槍を振るい、風の絨毯を生み出すと、次々と的確にハートを468の元へと蹴り飛ばし続ける怒りの表情のマリルドの元へ向けて風の絨毯を操る。


「マジでクソなんだけど。うちの468にこんなもんを拾わせやがって…!」

「こんなもん…ってどゆこと?」

「逃がさん」


 言うが早いかマリルドは風の絨毯を踏み台にして飛び上がり、旋回して引き返そうとする小型飛行機に向かって弾丸のように鋭く飛び進んで行く。

 私が乗る風の絨毯はマリルドの脚力に耐えられず、踏み落とされてしまった。

 落下速度を落としたくとも、風の絨毯を停止する術を私は知らない。


「ちょちょちょちょヤバいヤバい!地表にぶつかったら…!」


 そこまで口にして私は気付く。

 不審な飛行機から放出された周囲に広がる煌めきはウーターニャの体に付着していたものと同じ物である、と。

 これらが血液であるならば…、ぷりんと艶やかなネオンカラーのハートは一体何だと言うのだろうか。


「私は…何を…てるの助くんに集めさせてるの…?」

「人の体でマシュよ」


 愛らしくも嫌悪を覚える声が聴こえた場所へと目線を落とすと私の右胸に小さな小さな親指サイズのウクドが生え出てきている。


「いっ…!?」

「お客しゃまはあれがハートに見えるんでマシュね?ハートは全部で何色あるのか分かりマシュか?」

「……」

「これはウクドしゃまからの質問マシュよ。天使の仕事の邪魔はダメマシュよ。早く答えて下さいマシュ」

「…わ、私達を襲った上に、ウーターニャちゃんといすずを拐ったあなたたちが天使だとは思えないなっ」


 私は小さなウクドを爪弾いて除去した。

 小さなウクドは()(すべ)もなく、くるりくるりと回転し落下していった…筈であった。

 小さなウクドは繊維の様に細い手指を動かし、魔法陣を展開すると体に見合わぬ大きな白い翼をきのこの背から生え出させたのだ。

 翼のくの字に曲がる部位、小翼羽(しょうよくう)にある補強金具を煌めかせて大きく1度羽ばたくと、乱れ起こした風で私の風の絨毯の落下を止めてみせ、自在に浮遊する事ができるようになった私の目の前に小さなウクドが舞い戻って来た。


「…今、この分離体に宿っているのは本体の精神よ。攻撃は控えなさい。ワタシとの直接対話でなければワタシの指示を聞けないとは残念な子供ね。分離体の方が物言いは柔らかよ。…この世に未練があるのなら天使の問いには即座に答えなさい」


 親指サイズの小さなウクドがほんの僅かに私へと向けていた目線を即座に逸らし、それでも足りないかと言うように胡麻粒よりも小さな瞳が冷ややかに伏せる。

 彼女のその仕草で私がウクドの問いに答えなかった場合には、人命救助の妨害を行ったと世界に判断されて、『禁忌』である『殺人』に抵触した罪で私は世界から消されてしまう可能性があることを察する。


「…5色…です…」

「そう。今回は少ないのね。ハートは1色につき1欠片(かけら)でも回収できたなら充分よ。()()がいるんだから」

「彼女?」

「アナタ。ハートを全色集めたら診療所へ来なさい」

「それは…診療所の屋根をぶち壊した罪を償えと…そういう…?」


 診療所の屋根を破壊したマリルドは不気味な飛行機を追い、姿が消えてしまっている。

 私1人で償うしかないのかと気が重くなりながら、被害規模を確認するべく風の絨毯から透けて見える診療所へ目を向けた。


「破壊行為については問題に問わないわよ。家付き虫が修復するもの」


 そうウクドの言う通り、マリルドが吹き飛ばしてしまった筈の診療所の屋根は見る見る内に復元されていく。


「…分離体では家付き虫は呼び出せないわ。ワタシの本体が診療所から離れたら患者が居る診療所を護る家付き虫まで移動させてしまう事になる。ワタシは彼処(あすこ)の天使院長だもの。アナタが診療所へ患者(ペイシェント)を持ってきて」

「…ペイシェントって…このハートですか?」

「あぁっ。アナタと話すとイライラするわ。アナタたちのせいで仕事が増えてるのよ。気を落ち着かせるだけで精一杯なんだからもう質問はよして」

「えぇー…。あ、すみません」


 思わず口答えしそうになったが、繊維のように細い手で蟀谷(こめかみ)(さす)り懸命に怒りを押さえ付けようとしている様子のウクドを見て私は謝罪した。


「…お姫サマなんかに仕事の手伝いを許すんじゃなかったわ」


 そう言葉を残して私の右胸に生えていたウクドは黒い墨となって姿を消してしまった。

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