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1/2のプリンス&プリンセス  作者: マツモトコ
美貌の國編
77/98

77、きょにゅう

 私達が滞在しているこの地は『色めきの滝壺』。

 頂点・質実の両國間にある龍の角から森羅・遊戯両國間に渡って存在する龍の(たてがみ)に積もる万年雪は凹所(くぼみ)を伝い氷河となって流動する。

 長い時を要して氷河が流れ着く最終地は『美貌(びぼう)』と『絢爛(けんらん)』の両國間に存在する『龍の鬐甲(きこう)』と呼ばれるテーブルマウンテンの山頂。

 標高3,262mの陸の孤島の山頂に形成されたこの氷河湖『禄緑湖(ろくりょくこ)』には融解した氷塊が生み出した膨大な水が(たた)えられている。

 そして湖の水は龍の鬐甲の9合目付近に横一文字に走る全長3,000mもの亀裂から美貌の國側へ一気に放流される。

 落差3,182m、幅3,000mに渡りどうどうと落下する水は滝下部に達するより前に美の女神の魔力と空気が絡み合って分散し、滝壺が存在するべき地上に着く頃には魔法の霧に変わってしまう。

 龍の鬐甲から放出される凄まじい瀑布(ばくふ)は『色めきの滝』、そして滝壺無き濃い霧が立ち込める地は『色めきの滝壺』と呼ばれているのだが人気の観光地は後者の方。

 色めきの滝壺に立ち、美しさを願うと人々は願った通りの美しさを手に入れる事が出来るからである。


『…しまった。眠ってしまいました』


 私に体を奪い返された事に気付いたワルサーが悔しそうに息を吐く。


「ワルサーくん。お利口さんだからずっとお眠り」

『嫌ですよ。あぁ、またこの霧か。色めきの滝壺に戻って来たのですね。何度絢爛の國へ向かっても意識を手放す度に戻られてしまうのでは()りが無い』

「毎回戻るのもわりと命懸けで大変なんだからワルサーにはいい加減諦めて欲しいんだけど」

『放っておいたらイサナが露出狂になるじゃないですか』

「はい?ちょっと待って…。なんで私が露出狂になると思ってるのさ」

『コンプレックスを解消し、自分の美貌に自信を持てば(ひけ)らかしたくなるに決まっています。イサナは俺に似ているんですから』

「…自分が露出狂だという自覚はあるんだね…」


 私は出会った頃の上半身裸にローブを纏っていたワルサーの装いを思い出す。

 あの当時と違い、今のワルサーはローブの下に黒いパーカーを着込んでいる。


「…ねぇ、そういえばコーセルがミニワンピみたいに着てた服って私の巻きスカートのコピー?だよね?あげるならワルサーのローブの方が良かったんじゃない?」

『渡しましたが消されたんです。イサナが今着ているスカートの皮(巻きスカート)は俺が魔法で作った複製(コピー)ですよ』

「そうなんだね。ワルサーとコーセルがお揃いを着てたらかわいいんじゃなーと思ったんだけどな」

『嫌ですよ。クロと同じ服は纏いたくありません』

「何で?『白マジョ黒マジョ双子コーデ』いいじゃん」

『…テーマパークで撮ったナギちゃんとの写真を#(ハッシュタグ)カップルコーデでSNSにUPしましょうか?』


 ゴソゴソとポケットを探り取り出したスマホをワルサーがスワイプし出したので私は画像を見るまいと目を閉じる。


「やめて。嫉妬で泣いちゃう」


 睡眠不足の身で瞳を固く閉じれば瞬時に眠りに落ちてしまう。

 叶球(ウィクト)の体を奪われたかと思い、慌てて目を開けたのだが、どうやらワルサーも意識が朦朧としており、この体を奪うチャンスが訪れていたことに気付いてなかった様子だ。


「…あー…よかった。今一瞬スコンと意識が落ちた。この生活って不毛過ぎる…」

『しまった…体を奪い損ねました。俺も流石に限界です…』

「じゃあ寝ようよ」

『嫌です』

「…ねぇ、ワルサーが女性になったら私と全く同じ容姿になるんだよね?」

『そうですよ』

「…美に厳しいワルサー様は女性になった自分の体に付いているのがこのサイズの胸だった場合…我慢できるの?」

『まさか。豊胸しますよ』

「……」


 迷いの無いワルサーの答えに私は思わず言葉を失ってしまう。


「…だ、だよね?ほら、女の子だったら大きいおっぱいに憧れるでしょ!?」

『けれどイサナは胸のサイズを変えてはいけません。今でさえ魅力的だと言うのに…俺の大切なイサナが他者に性的な目で見られるだなんて想像するのも(おぞ)ましい。断固反対です』

「いや、露出しないし。個人的に楽しむだけにするから!」

「駄目です」

「せめて1日だけ!1回だけでも虚乳な巨乳になってみたい!」

『いけません』

「なんでだよぅ。ワルサーが執着してるこの顔面を美少女に変えようとしてる訳じゃないんだからいいじゃないさ」

『…顔面を(いじ)るのでしたら許しますよ』

「…え?今…なんて言ったの?」

『変えるなら顔貌(かおかたち)をと申し上げました』


 極度のナルシストであるワルサーが惚れ込んだ筈の彼と同じ顔立ちである私の顔を変えて良いと言っているように聞こえたのだが、今のは幻聴だろうか?


『幻聴ではありません。変な虫が付くので肉体美を得る事、他者になりきる為に容姿をコピーする事も決して許容出来ませんが、イサナがイサナなりに見出だした美しさを欲するのであれば俺は顔貌を変える事は止めませんよ』

「意外…。ワルサーって容姿を変えることに理解ある人だったんだね…ありがとう。すごく嬉しい」

『いえ、礼には及びません。色めきの滝程度の魔力の変化(へんげ)魔法ならば、俺の目を欺くことは出来ないので問題有りません。イサナの真の美貌を他者に隠す事が出来る上に、俺1人だけがイサナの至上の美を独占出来るだなんて…寧ろ今直ぐにでも顔貌は変えて頂きたい』

「…コンプレックス解消に理解があるのかと思ったけど違うんだね」

「コンプレックス?イサナの美貌の秘匿の為ですよ」


 私とワルサーの価値観の違いは相変わらず大きいと言うのに利害が一致している。

 ならば遠慮はすまい。


「…じゃあおっぱい大きくするのは諦めるから思いっきり美少女になってきてよい?」

『お好きにどうぞ。イサナ以上の美は存在しませんから』


 私は容姿を変える許可を得たことを現在ゴリラ系イケメンであるマリルドとファッションクソダサ美女であるいすずに伝え、意気揚々と色めきの滝壺へと向かう。




 30分後。

 戻ってきた私の姿を見たマリルドといすずがひっくり返りそうになる程大ウケする。


「なははははは!なにそれ!?」

『イサ…ナ…!?美少女になると言っていたのは嘘だったのですか…?』


 いすずの目を通して容姿を変えた私の顔を確認したワルサーは驚愕で絶句した。

 暫くの時間を要して気持ちを立て直したワルサーは私の変化魔法を解除しようとする。


「えー、まだ消さないでよ。せっかく凪ちゃんが大好きな美少女魔女っ娘になったんだから」

「んはははは!2次元のキャラクターになりたいと願うとこうなるんだな、すげぇ」

「美少女に見えんっちゃけど!?ねぇ、そういうときって人気コスプレイヤーのビジュアルを参考にするもんやないと!?」

「あー、なるほどね」


 色めきの滝で美少女イラストに近い容貌を望んだ私の顔のパーツは美少女イラストと同じ比率に変えられたのだった。

 有り得ないほど大きくなってしまった潤む瞳で私が瞬きをする度にいすずが笑い転げる。

 可愛くなることにはどうやら失敗したようだが、こんなに景気良く人を笑わせる事が出来たのであればこれはこれで満足だ。


「でもまぁ、この顔になれたってことはこの不自然なパーツの比率も美の女神にかわいいと認識されてるってことなんだよね?」

「まぁ…そういうことなんだろうな」

「美の女神の美しいの判定の設定ガバガバ過ぎない?」

「なはははは!!っていうか今夜久しぶりにウーターニャと会う約束しとったよね?わた達、こんなに思い切って姿を変えてしまってよかったとかいな」

「別に良くね?」

「問題ないと思うけどどうして?」


 いすずはうーんと唸るのだが、この子が一体何を懸念しているのか私もマリルドも気付く事が出来なかった。

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